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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
本編.第一章 異質な兄妹
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二十四.ルサルカは寂しい2

 二人の良くわからない争いは空腹を知らせる音色と共に一先ずの収束をみせた。


 キュウと言う可愛く鳴った音は仲睦まじく二人の腹から同時に飛び出したが、それをかき消すほどの轟音が俺の腹から発せらた。


 慌てたように二人は腹を抑えて顔を赤らめているが、安心してくれ。俺は聞こえてないふりを決め込むから、二人は尊厳を守る事が出来るだろう。デキる父はこうした小さな心配りも忘れない。


「も、もう。兄さんそんなにお腹空かせてたんですか?」


「あぁ。もう腹と背がくっ付きそうだ。昼食にしよう」


 気分を切り替え話を進める俺達とは違い、照れているのか顔を真っ赤にして俯いたまま口を開かない半魚人の少女。以外に可愛い所もあるようだ。


「君も食べていきなさい」


「い、いいの?」


「勿論です」


 毛嫌いされてまともに口を聞いて貰えなかったオーク君とは違ってアネモネは当然と言わんばかりの様子だった。


「ありがとうなの! お姉さん、お兄さん!」





 ルサルカの少女はどうやら地上でまともに活動することが出来ないようだ。


 試しにミュージカルをする人魚の話を交え、地上で活動出来るようになる魔法とかないのかと聞いて見るとそんな都合の良い物はないと言い切った。


「そうなのか。ありそうだと思ったけど、ないんだな」


「それより、お兄さん! さっきのお話もっと聞かせて欲しいの!」


「面白かったか?」


「楽しそうなの!」


 じゃれ付いてくる猫のような愛嬌。俺もそれに絆されてしまいかけるが、背中に突き刺さるアネモネの視線……ではなく蜘蛛足。


 どうやら嫉妬の炎を燃やしているようだ。


「アネモネさん?」


「ツーン」


 腕を組み、プイッと顔を背けてしまう。先ほどまでの凛々しいお姉さんはどこに行ってしまったのか。床に座っている少女からは俺が衝立となって見えていないと思うが……


 体でガードしながらアネモネにそっと耳打ちをした。


「寝るときアネモネにも話を聞かせてあげるから」


「ど、どんな……?」


「王子様と結婚する話、かな?」


 時間になると魔法が解けてしまうと言うのは話の重要な部分であるので敢えて言わない事にした。その方がきっと楽しみも多いだろう。


「し、仕方ないですね。添い寝も……してくれますか?」


「こう言うのは寝物語だ。寝る前に聞くんだから、そうなるだろうな」 


 最近はいつも一緒に寝てるだろ? と思っても口にはしなかった。パァっと花が咲く様に顔を輝かせた様子を見るに、きっとそんな事も忘れてしまっているのだろう。チョロ可愛い。


「では、ご飯にしましょう!」


 歩けない少女を連れ出そうと脇に抱えた事で、扱いがなっていないとアネモネに吹き飛ばされるハプニングがあったが些細な事だろう。


 少女を抱えた事で思い出したが、彼女はまだ胸を丸出しにしていた。


 ナイスなプロポーションをしているが、まだどこか幼さを残す少女に獣欲が沸くこともなく、アネモネにさらしの作成をお願いすると、二人を残して俺は食事の準備を済ますことにした。





 さらしの作成をお願いしたとき、アネモネに食材として渡されたのはキノコだった。

 どうやら虹を追いかけた帰りに見つけて取って来ていたようだ。子供のようにはしゃいでいたが、そう言う所は冷静で頼りになる。しっかり者の娘を持てて俺は幸せだ。


 キノコはシイタケのようなキノコしているキノコではなく、蜘蛛の巣のような傘を持ったキノコ。見た目は元の世界のキヌガサタケと言うものに近いが、名前はシンプルにアミノコと言うらしい。


「シンプルだ……」


 見たままの名前に思わず突っ込んでしまったが大事なのは味である。傘が網状になっているだけあって肉は少ない。


 果たして美味しいのだろうか。


 スンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐと芳醇な香りが鼻腔を擽った。


 松茸なんて高級品を口にしたことはないので匂いの違いはわからないが匂いは濃厚。傘の部分を突いて見るとねっちょりと指先に粘液が絡み付く。


 糸を引く粘液を指で弄んでいると少しだけ不安が過ぎったが頭を振ってそれを追い出した。


「まぁ、焼けば何とかなるだろう」


 我ながら安直な考えだとは思うが大抵の物は焼けば何とかなると昔の人が言っていた気がするので問題ない。


 川辺で家に背を向けて火を起していると背中越しに元気な声が飛んできた。


「お兄さんっ」


 振り返るとむっつりと頬を膨らませて不機嫌そうな顔をしたアネモネが少女を背負っていた。


 見えていないからいいものの、不機嫌そうなのは多分声を掛ける前に少女が俺を呼んだからだろう。拗ねるようなことでもないと思うがそんな所もまた可愛いと口角が少しだけ上がった。

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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