二十三.ルサルカは寂しい1
あの後、なんとか誤解を解くことが出来たと思うのだが俺と少女は折檻を受けていた。
簀巻きにされ天井からの逆さ吊り。俺は慣れているが魚な少女には中々辛いだろう。
「しくしく……」
「なんで俺まで……」
「抱き合っていた時点で同罪です」
「すみませんでした……」
抱き合っていたわけではないと弁明するのはやっと鎮火しかけたのに油を注ぐ行為に等しい。世の酸いも甘いも噛み分けた俺は少女とは違うと言うところを見せつけ、平謝りに徹するばかりだ。
素直に謝罪した事に満足したのかそんな俺をチラリと見るとアネモネは少女に向き直った。
「で、貴女は?」
「私はルサルカ族の……」
「そんな事は聞いていません。何をしに来たのか、と聞いているのです」
聞いた事だけに答えろと言わんばかりにピシャリと切って捨てるアネモネ。これは相当キテいる。
俺は何をしているのかって? 触らぬ神に祟りなし、怒れる娘は触らない。そういう事だ。
「わた、私は長雨で住んでいたところから流されてしまって……」
「それで?」
「子供は私しかいないから……大人の人は泳ぐのが上手いから大丈夫だけど私はその……」
「増水した川に流されてしまったと」
「は、はい」
「じゃあ、なんで支流に?」
「あ、それはですね! 泥で汚れた水の中、キラキラ光る綺麗な道がすっごくて! きっと水の神様が助けてくれるために作ってくれたものだって思ったので頑張ったんですっ。でも逃げ込んだところで疲れ果てちゃって……」
ふんすっと興奮しながらそう言う少女。
間違いなくそれは川底の補強に使っているアネモネの糸だ。
俺は笑いを堪える事が出来ない。
アネモネは可愛い子なのだ。どういう反応をするかは手に取るようにわかる。
「へ、へぇ……そうですか。きょ、今日はこれくらいにしておいてあげます」
相変わらずチョロい子だ。顔を真っ赤にしながらいそいそと天井に上ってくると少女を簀巻きにしている糸を巻きあげて糸玉にして少女を解放した。
照れてる照れてる。
あれ? でも俺は?
「え、アネモネさん?」
「兄さんとのお話はまだ終わっていませんから」
「そんなぁ……」
▽
何を言っても機嫌を直さないアネモネと俺に救いの手を差し伸べたのは半魚人の少女だった。
「お兄さんは悪くないのですっ! 悪いのは雨の日にダメだって言われてたのに外にでた私なのです。ですから、もう許してあげて欲しいのですお姉さん」
「お、おね……お姉さん……」
あ、これはアネモネの心を掴んだな。この半魚人の少女、やり手だ。
他者との接触が少ないながらもオーク君を除いてアラクネのお姉さん方は何をどうしても年上のお姉さんと言った感じだったし、アネモネにとって俺は父親兼兄的存在のはずだ。
だから自分より下の子と言うものが存在しなかったが、常日頃から背伸びしてお姉さんぶっているアネモネ。ここに来てその欲求を満たす者が現れたら後は想像に難くないだろう。
「し、仕方無いですね。特別! そう、特別に貴女には兄さんをお兄さんと呼んでもいい事にします」
そこ、そんなに重要なのか……? 怒りポイントが微妙にズレている気がするが、本人がそれでいいなら俺も気にしないようにしよう。
「本当なのです? やりましたね、お兄さんっ」
「でも、必要以上に兄さんと親しくするのはダメです。兄さんは、私の、兄さんですから」
「一体何を張り合っているんだ」
「兄さんは静かにしてください。これは私達の問題です」
「なのです」
「はい……」
無様を晒さない様にしているのか、強気なアネモネも可愛いな。
大丈夫、何があっても俺の娘はアネモネだけだ。
それにしても二人は以外に息が合っている気がする。これはひょっとして……




