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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
本編.第一章 異質な兄妹
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二十一.雨の日

 この世界に来てからと言うもの、連日晴れが続いていたがついに雨が降った。


 別の世界と言えど空はどの世界でも同じで蒼く、夜は月と言う女優を際立たせるための幕を下ろし、雨は遍く命を育んでいる。


 少し湿り気を帯び、土の香りを閉じ込めて重くなった濃厚な空気が鼻腔を擽る。


 しとしと地を打つ雨の気配は森に囲まれた家の周りに霧を発生させ、またしても別の世界に迷い込んでしまったような錯覚すらさせる。


「むぅ……」


「いきなり唸ってどうした?」


「雨はあまり好きじゃありません」


「そうなのか?」


「なんだか、寂しい感じが……」


 アネモネが言わんとしている言葉の意味はわからないでもない。


 だが俺は雨の日が結構好きだ。


 確かに雨の日は狩りに出られないが、全体的に見れば雨の日なんてのは精々二割程度。晴れの日に繰り返されるルーティンの中に降りた変化と考えれば少し特別な感じがする。


 雨音は1/fゆらぎと言われる独特なリズムが存在している。


 自然音の中に含まれるそれは、海の漣の音がを聴くと落ち着くのは母の腹に抱かれているときから、それこそ生命が生まれるその時から聞いている羊水の音だからだ、なんて言われるほどに俺達と同調している。


 無意識下で脳が認識しているそれらは個々で違う特徴を持ち、心臓の鼓動、好きな人の声など様々なものに宿っている。


 アネモネもよく胸に抱き付いているが、あれだって無意識に心臓の鼓動を聞いているか、脈打つ命の律動を感じていると落ち着くからだろう。


 晴れの日とは違って雨は世界を寂寥感漂うものへと変化させるが、見方を変えれば何かをより一層感じやすくなると言い換える事ができないだろうか。


「兄さんは物知りですね」


「アネモネ自慢の父親になろうと必死なんだよ」


「兄です」


「……はい」


「あの、兄さん」


「ん?」


「ち、近くに行ってもいい……ですか?」


「おいで」


 ボロ小屋の屋根をぴちゃんぴちゃんと打つ音に消え入りそうな声で甘えるアネモネは、雨雲に遮られて薄暗い小屋にいてもわかるほど顔を高潮させていた。


 壁際に置いてあるベッドの上に腰掛け、壁にもたれかかると既に定位置となりかけている胸にアネモネの頭を抱いた。


 アネモネは先ほどの話を思い出しているのか、胸に耳を当てている。


「落ち着くか?」


「はい。この音、大好きです。いつもより、もっと近くに感じます」


「そうか」


「雨の日、ちょっとだけ好きになりそうです」


「それは良かった」





「兄さん」


「なんだね、アネモネくん」


「雨、止みませんね」


「……そうだね」


「雨、嫌いになりそうです」


「……そう、だね」


「兄さん」


「悪かったよ……」


 あれから既に数日、雨は降り続けていた。


 一日二日程度だったら良いが、流石にこう何日も雨が降り続ければいくらなんでも精神的に参ってしまうのは仕方ない。でもそれを俺に言われてもどうしようもないじゃないか!


 いや、アネモネもわかっているはずなんだ。だけどわかっていてもどうしようもないことってのは存在している。


 だからって……


「あの、アネモネさん?」


「なんですか、兄さん?」


「退屈だからって俺を簀巻きにして天井に貼り付けるのはどうかと思うよ? 淑女(レディ)として」


「ツーン」


 アネモネは一人だけ現実から逃げるように居眠りしていた俺を簀巻きにして天井に吊るしていた。

 構って欲しいという奴だ。甘えん坊なアネモネは今日も可愛い。


「脚も洗ってあげるから」


「あ、脚を触られるのは恥ずかしいから嫌ですっ」


「くっ……」


 贅沢さんめっ。


 風呂を作ってからと言うもの、夜は必ず一緒に入るようになった。

 その度に洗髪をおねだりされるので髪を洗うと言う交渉材料は威力を失い、前みたいには行かなくなっている。


 どうしたものかと洗うのが大変そうな脚を出して見たが結果は御覧の有様だ。


「ど、どうしてもと言うなら……か、体を……ごにょごにょ」


 脚はダメで体はいいのか? 普通逆じゃないか?

 アラクネは少し恥ずかしがるポイントがおかしいようだ……いや、俺がおかしいのか?

 もうわからなくなってきたぞ……。


「洗わせて頂きます、お嬢様」


「もうっ……兄さんはスケベさんなんですからっ!」


 俺が悪いのか? 解せん……。

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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