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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
本編.第一章 異質な兄妹
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十九.欲しいものは?1

 アネモネは普段から少し体温が高い。


 それは女性特有なのか、それともアネモネが特別高いのか、アネモネ以外で女性の体温を知らないから比較対象がない。


 何故こんな話を始めたかと言うと、昨晩、風呂で思う存分コミュニケーションを図った俺達は眠りに就いた。そこまでは良かった。盲点だったのは寝ていると更に温かくなるという事だ。


 朝、目が覚めたときアネモネはケロっとしていたが俺の背中は汗でびっしょりと濡れていた。

 毎日川に体を洗いに行っていたが、川の水は体を冷やしていたのでこの経験は初めてになる。


 アネモネ謹製のベッドは滑らかで柔かな感触を持つが吸水性は皆無に等しく、むしろ撥水仕様なのでこれから朝起きる度に小さな水溜りを処理するのは避けたい。


「布が欲しい」


「突然どうしたんですか?」


「布が欲しい」


「兄さん?」


「布……」


「壊れてしまったようですね。えいっ!」


「うごっ」


 80年代のテレビではないので斜め45度角からチョップをキメても直ったりはしないがアネモネに躊躇はなかった。

 吸い込まれるような流線型の軌道を描いたチョップは首の付け根に入り、思った以上に痛い。


「痛いじゃないか」


「あ、直ってよかったです」


「ちょっとそこに座りなさい」


「もう座ってますよ?」


「ごほん。いいかねアネモネくん。チョップはいけない。こういう事にも作法はあるんだ。淑女足る者、もっとお淑やかに直すんだ、いいね?」


「作法ですか?」


「そうだ。男が混乱したときに目を覚まさせるのはいつだって口付けだと相場が決まっている」


「くくくくく、口付けっ?!」


「そうだ」


「う、嘘ですっ!」


「本当だ」


「えぇ?!」


 そんな事聞いた事ない、でもこんな真剣な顔して言っているから本当なのかも、と狼狽えている。


 勿論、今言った事は嘘だ。こんなわかりやすい事でもうーんと唸って虚実を吟味してしまうアネモネは今日もチョロ可愛い。


 だが本当だと結論付けてしまえば、いつか誰かが壊れたときにキス魔になってしまう危険があるからここらが潮時か。


「冗談だよ」


「やっぱりっ! もう、兄さんのいじわる!」


「イテ、イテテッ! 悪かったよ」


 ぽかぽかと軽く叩いて抗議してくるが力の入り方から見るに、恥ずかしがっているようだ。

 時折鋭い蜘蛛足が槍の如く飛んでくるがそれだけは避けさせてもらおう。当たったら間違いなく死んでしまうからな。


「私の足が刺さったくらいでは兄さんは死にません」


「俺は一体なんなんだよ」


「自慢の兄さんです」


「っ~! アネモネェ!」


「あ、ちょっと汗臭いので抱きつかないで下さい」


 体は健康だが、心に刺さった言葉の槍は抜けそうにない……




 

 アネモネが成長したと喜ぶべきか、それとも悲しむべきか。体臭が気になるお年頃になってしまったようなので朝風呂をした。


 一緒にどうかと誘ったが、明るいうちは恥ずかしいと言うので一人さっぱりすると、やはり布が欲しくなる。

 今はアネモネが知っていた吸水性の高い木の皮をタオル代わりに使っているが体と心は否応なく柔らかい布を猛烈に求めている。


「布ってのはそんなに良い物なんですか?」


「良い物かどうか聞かれるとなんて答えたらいいかな……魚を食べるとき串に刺してるだろ?」


「そうですね」


「だけど、なくても困るものじゃないよな?」


「そう言われてしまうと……」


「でもあると便利だ。風呂が魚で、串が布って感じかな」


「わかったような、わからないような」


「俺もよくわからん」


「なんですか、それ」


 行為によって実感できるものを言葉で表現するのは限界がある。語彙が多く表現力の高い人間ならもっと上手く言えるのだろうが、俺にはこれが精々だ。


 何とかして手に入れたいが思い当たる人脈は狭い。


「オーク君やアラクネの人達は持ってないかな」


「オークの方はわかりませんが、私達アラクネは持ってないと思いますよ」


「……服も着てなかったしな」


「……言わないでください」


「となればオーク君だが」


「あの汚い腰巻を渡してきそうですね」


「吐きそうだ。やめてくれ」

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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