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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
本編.第一章 異質な兄妹
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十六.風呂を作りたい1

「と、言うわけで風呂を作りたいんだ」


「何が、と言うわけでなんですか? わかりませんよ兄さん。そもそも風呂ってなんですか?」


 オーク君が去り、平穏無事な日常を取り戻した俺とアネモネは再び静かな暮らしに戻った。


 するとどうだ。目の前に流れる川のせせらぎ、空気が綺麗だからか夜になると空には満天の星が瞬く。そんなものを見たら露天風呂に入りたくなるのが人の常。


 しかし工作知識も道具もない俺はキャッキャ言いながらアネモネと川の冷たい水で体を洗うことしか出来ない。

 勿論、俺が風呂に入りたいと言うのもあるが、やはり冷たい水で体を洗うことで可愛い娘が風邪を引いてしまうのではないかと言う心配もあるし、湯船に浸かりながら見上げる星の感動や気持ち良さを味わわせてやりたい。


 そんな親心を知ってか知らずか、現在進行形で訝しげな視線を送り続けるアネモネを一発でその気にさせるやる気スイッチを俺はしっかり押さえている。


「風呂ってのは暖かくて、家族の親睦を深めるのに最適なものだ」


「へ、へぇ……? 親睦を深める、ですか。よくわかりませんが作りましょう、風呂とやらを」


 やる気になってくれたようだ。今日もアネモネはチョロい。


 やる気になってくれて嬉しい反面、こっそり作って驚かせてやりたいと言う気持ちがない事もない。


 でも贅沢は言っていられない。


 そのうちアネモネも、一緒に何かするなんて恥ずかしいから嫌です。とか言うようになるのだろうか?


 ……考えるだけでも辛い。


 よし、今は考えないようにしよう。


「やる気になってくれたところ悪いが、実は俺もあまり詳しくない」


「じゃあどうするのですか?」


「構造としては単純だ。石で土台を作ってその上に水を張る大きな箱を乗せて下から温める」


「思ったより簡単そうですね。でもそれなら石釜に水を張ればいいのでは?」


「ところがぎっちょん! そんなに簡単ではありません!」


「ぎっちょん……?」


「そこは置いておこう。石台の下から直に温めるんだ、それじゃあ足を火傷するだろ?」


「あ、確かにそうですね」


「だから石台の上に別で台を置いて、熱をゆっくり水に伝えるようにする」


「なるほど」


「難しいのは石台を繋ぎ合わせる事と、木材を繋ぎ合わせる事だ」


「なら私の糸なら問題ないですね」


「そうなのか?」


「アラクネの糸は普通の火くらいでは燃えませんから」


 確かにアネモネの出す糸は頑丈で、破れてしまった服の補修や家の至るところに開いている穴を塞ぐのに使用している。だがわざわざ炙ったりはしなかったからな……


 強度も耐性も十分であるならば、石や木材を取って来て簡単な加工だけで済みそうだ。


 思ったより早く風呂に入れると思うと俺の中のDNAが騒ぎ出すのを感じる。


「よし、それじゃあ問題は無いな。早速取り掛かろう」


「おー!」


 人間の部分の手と、器用に蜘蛛足の片方をグッと天に突き出したアネモネもやる気は十分のようだ。





 アネモネの蜘蛛の下半身は結構大きい。

 そのため俺は開墾作業も兼ねて家から見える範囲のアイアンウッドを引っこ抜き、アネモネにはそれなりの大きさの石を集めてきてもらうようにお願いした。


 アイアンウッドを数十本抜き終わると休憩がてら加工をしていく。


 使うナイフはこちらの世界に来る前からいつも持ち歩いていた即席で枝を矢に加工する為のナイフ。


 他に狩った獲物の血抜きや解体用のナイフもあるがそちらはナイフと言うより鉈に近いので木材を加工するのは小振りで刃渡りが短めの方がやり易い。


 やり易いのだが……如何せん一本丸々の木を掌サイズのナイフで加工するのは地道な作業となる。


 浴槽は側面四、底面一の五箇所をバラで作成し、糸で接着するだけのものだ。職人のように組み木など出来ないのでそうなってしまうのは仕方ない。

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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