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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
本編.第一章 異質な兄妹
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十一.オークが来た

「んぁ……」


 目を覚ますと腹の上にズッシリとした重さ。そして温かく、どこかひんやりとした感覚。


 まだ半開きの寝ぼけ眼を擦って視線を遣ると、アネモネが大量の涎を垂らして覆いかぶさるように寝ていた。


「涎、冷た……でもアネモネは温かいなぁ」


 温かと冷たさのコントラスト。

 幸い、目先には川があるので汚されてもすぐに洗えばいい。


 気持ち良さそうに眠るアネモネを起こしてしまうのは忍びないが空は既に茜色に染まっている。このまま寝続ければ風邪を引く事もあるだろう。ここは心を鬼にするしかない。


「アネモネ、起きろ。風引くぞ」


 軽く揺すっても起きない。野生はどこに行ってしまったのだろうか?


 未だに涎を排出し続けるだらしなく開いた口をむにゃむにゃもごもごと動かしていつまでも見ていたくなるような幸せそうな顔をしている。


 頬をツンツンと突くと眉を顰めた。


「んん~……ふがっ! 」


「なんて声を上げているんだ。起きなさい」


「んぁ……? 兄さん……?」


「やっと起きたか。おはよう」


「あっ……おはよう、ございますぅ」


 起きたと思ったら再び腹の上に頭を落とした。


 だが、そこは……!


「きゃあああ! なんですかこれぇ! 」


 腹の上にぶちまけられた大量の涎は極小規模の池を作っている。

 ベチョッと音を立て、ぬらぬらと照り輝くコーティングがアネモネに施された。


 でもそれは俺のせいではないので弁明は必須事項だ。


「お前の涎だ」


「兄さんのスケベェ!」


「何でだよ」





 アネモネ謹製の蜘蛛糸ベッドはふかふかで肌触りは総シルク。


 昨日、涎塗れとなった体を洗い家に戻った俺とアネモネは冷えた体を温めるように同じベッドで眠った。寝覚めは柔らかなベッドで気持ちの良い朝を迎える。


 その筈だった。


「アネモネ、下ろして?」


 今回はいつものように寝ぼけて天井に簀巻きにしたわけでは無さそうだ。


「ツーン」


「何拗ねてるんだ?」


「に、兄さんがスケベするから……」


「いや、してないよ」


「っ~! もうっ」


 これは照れ隠しだ。昨日の涎がよっぽど恥ずかしかったと見える。


「大丈夫だ。アネモネのおしめを……換えてはないけど、生まれたばかりから一緒なんだ。恥ずかしい事なんてないだろ?」


「兄さんはやっぱりデリカシーがありません!」


 プリプリと怒るポーズを取っているが本当に怒っている気配はない。と言っても本気で怒っている所を見た事がないからわからないが。


 とりあえず体の自由を取り戻す方が先だ。


「ふんっ!」


「あっ! また勝手に!」


 糸を引き千切るとアネモネは声を上げたが言葉を重ねれば重ねる程、後に引けなくなるのはわかっている。多少強引な方法で脱出したが簀巻きにするのはアネモネなりの愛情表現なのだ。可愛い奴め。


「アネモネの糸はサラサラで気持ち良いなぁ」


「そんな事で機嫌を取ろうなんて思わないで下さい! し、仕方無いから今日はクリミアの実を拾ってきてあげますっ」


「お、悪いな。気を付けて行ってこいよ? 怪我するなよ? 遅くなっちゃダメだぞ?」


「兄さんは心配しすぎです。私はそんな子供ではありませんっ」


「ごめんごめん」


 恥ずかしかったのか、顔を高潮させてプリプリと出て行くアネモネは今日も元気だ。





 畑を耕す為に俺もアネモネの後を追って外に出る。川のせせらぎが何とも心地良い。


 手製の鍬を片手に2/3程度耕し終わった時、森から動物の鳴き声が聞こえた。

 ブヒッと聞こえた方に目を遣れば、そこに居たのは二足歩行をした豚がこっちを見ていた。


「豚、だよな?」


 アネモネが居ないので確かめる術はないが、多分アネモネやアラクネと同じ魔物と言う奴だろう。


「何か用か?悪いが、川よりこっちに来たらお前を朝飯にするぞ」


 鍬を置いて立てかけておいた弓を取ると警告を伝えた。豚はボケッとこっちを見ているがつぶらな瞳は小さく、豚顔は何を考えているか非常にわかりにくい。


「お、お前メスの臭いがするブ」


「喋れるのかよ!」


 良く考えたらアネモネも喋れるし……普通、なのか?


 若干頭が混乱したが、


「お前、メス?」


「どこを見たら女に見えるんだよ。ぶっ飛ばすぞ」


「ブヒィィ!」


 メンチを飛ばすと豚は一瞬怯んだ。ぷるぷると腹の脂肪を揺らすのを見ていると苛めているようで少しだけ気分が悪い。


「まったく……何の用なんだ?悪いが、お前は娘の情操教育に宜しくなさそうだ。さっさと立ち去らないなら食う。次に来ても食う」


「ブヒッ?!」


 鳴き声を漏らすばかりで返答をしない豚をもう食べちゃおうかと考え始めたとき、アネモネが帰ってきてしまった。


「あれ? 兄さん、どうしたんですか? と言うか、オーク?」


「おかえり」


「ただいま、兄さん」


「あれ、オークって言うの? 食べれる?」


「食べれますよ。結構美味しいらしいです」


「ブヒィイイイ!メスウウウウ!」


 よし。朝飯が一品増えたな。

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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