プリ/デレ、お年頃なアネモネ
この話はk-san様より頂きましたファンアートを元に考えたSSとなります。
本編に影響は御座いませんが、ニヤッとして頂けると思います。
私は人間からは魔物などと呼ばれている存在。アラクネ。
他の魔物がどうかはわかりませんが私には一代前、つまり親に当たる世代に蓄えられた生きるための知識が元から備わっています。
でもそれはあくまで生きるための知識。
何が食べれるだとか、日用雑貨に仕える草木の知識、或いは私達よりも強力な魔物への警戒を促がすものから人間への警戒まで。本当の親がどんな人達なのかなどはわかりません。知りたいと思う事もありません。
その中でも特に警戒すべきと魔物の本能が訴えかけて来るのは人間。
あの種族にとって私達の出す糸は高級で、滅多に手に入らないことから見付かればただでは済まないと言うお墨付き。
そんな危険な種族だと訴える本能は、敢え無く牙を失ってしまいました。
だって、私を見つけ、育て、守ってくれている人は何を隠そう人間である兄さんだから。
不思議な事に、人間でありながら兄さんはアラクネである私を見ても狩ろうとするどころか保護者を名乗り、可愛がってくれています。
夜になれば無警戒すぎるほどに私の横でぐっすりと眠りに就き、頬を突いても起きる気配すらありません。そんな無警戒な兄さんの上に乗って、夜な夜な守りながら眠るのが私の楽しみです。
兄さんは自分を語る事が殆どありません。
どこから来たのか、何をして生きてきたのか。唯一わかるのはイチヂク?とか言っていましたが、クリミアの実が好物だと言う事くらい。
怪力を誇るオーガでも引けるか怪しい何で出来ているかわからない弓を軽々と引き、魔法以上に魔法している威力の矢を雨のように降らせます。
きっとこの森で兄さんを倒せるのはドラゴンくらいなものでしょう。いえ、ドラゴンでも倒せないかも知れません。
ふふん、とても誇らしいです。
話が逸れてしまいましたね。
兄さんは不思議な事に森から出る事が出来ないので本当は私と同じ魔物ではないのか、そうだったらいいなと思うことがあります。
何でって? だって、私は魔物で、兄さんは人間。
どんなに大切に思っていても、受け入れられてもらえないかも知れないじゃないですか。
でも、それを伝える事はできません。きっと、壊れてしまうから。今はまだ……
「まったく、兄さんは乙女心を理解できていませんっ」
「悪かったよ」
「ね、寝ぼけていたからっていきなり抱きつくなんて……私にも心の準備が……」
本当はとても嬉しいです。ずっとそうしていて欲しいくらいに。
兄さんは気にしていないようですが、私はやっぱり人間と魔物の垣根に悩んでしまい、どうしてもこうして反発してしまいます。
そんな可愛くない態度をとってしまう私に兄さんは怒る事はありません。むしろ、もっと優しくしてくれます。不思議です。
悩んでいる私の気持ちも知らずに、兄さんは何て事ない顔をしています。
「とりあえず、下ろして?」
「ツーン」
あぁっ……本当は今すぐにでも下ろしてあげたいのに、下ろしたらどこかに飛んで行ってしまいそうで……
「お願い?」
「し、仕方ないですね」
そんな風にお願いされて断れるわけないじゃないですか……
「ありがとう」
糸を巻き取るとそう言って自由になったゴツゴツとマメが出来ている大きくて無骨な手を私の頭に乗せて優しく髪を撫でてくれます。
気が付けば私は兄さんの胸に抱かれていました。
私の中に存在している人間の知識では、人間は臭いとあるのに兄さんからは嗅いだ事のない不思議な花のような匂いと、微かな土の香り。
見た感じは細いのに、触れればまるで岩盤のような分厚さを感じさせる胸板から伝わる兄さんの鼓動。
ほんのり温かくて、その全てが愛おしい。
本当に何をしてきたのかわからない不思議な人。それでも何より大切な私の兄さん。
「ぐへへ」
「なんて笑い方をしているんだ……」
いけませんね、つい緩んでしまいました。私は兄さんに相応しい女になると決めたのです。
「うふふ」
「よし、立派なレディだ」
これでまた一歩、距離を縮められましたか? 兄さん。
プリッと拗ねた表情の意味。それを少しだけ掘り下げて見ました。
読む前と後で絵を見ると、どうです? 絵の中のアネモネちゃんがもっと生き生きとして見えませんか?
私には見えました。
Special thanks for k-san様