第八部最終回 医療!
「昨日、隣の地区で中性子爆弾の実験があってデーモンコアが合体したってさ~~」
「へー」
一、二行目に設置されたモブ共の和気藹々とした会話!
というわけで、今日も伊勢海町は平和である!
(足りないんだ……俺には何かが足りていないッ)
異世界物の主人公の気持ちを理解するために、全力で走行中のトラックに体当たりを繰り返しているのは高田浩二!
今作の主人公である!
(見えてこない! 悪役令嬢物の概要がさっぱり……ヤスに説明して貰っても意味不明だ……!)
激しい執筆とトラックに対する追突を繰り返していく内に異世界物に対する理解を深めて行く高田!
一方で肝心の悪役令嬢物は全くといって良いほど書けていなかった!
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおお!」
叫びながら上を向いて全力疾走する高田!
トラックでは無く普通の乗用車に衝突するッ! 痛恨の前方不注意!
「しまったッ! 間違えてトラックでは無く後期高齢者が運転していた普通の自動車を轢いてしまった!」
高田に跳ね飛ばされた自動車が病院の入り口に突き刺さる!
退院して病院を出たばかりの患者が跳ね飛ばされて物理的に再入院!
「院長! また高齢者の車が突っ込みました! 今月で20件目です!」
「またかいな! もうええ加減そういうの飽きてきたんやけど~」
一方その頃、救急車の中で救急隊員に心配されている高田浩二!
「君、大丈夫か? 鼻血が出たという通報を受けて駆けつけたんだ」
まさかの別件だった!
(そんなしょうもない理由で救急車を呼ぶヤツがいるのか!)
この伊勢海町にはわりといたッ!
しかも、なぜかタイムリーに鼻血を流し始める高田!
トラックにぶつかろうと躍起になって、血圧が上がったのが原因であるッ! デーモンコアは関係ない! 多分!
「すまないが、原因不明の鼻血がとまらないんだ!」
「そうか――待っていなさい。今受け入れ先の病院を見つけて搬送する」
「ああ! 救急車の中で待たせてもらう!」
そして、その状態のまま二日が経過した!
「まだ見つからないのかッ!」
呆れる高田!
「ああ――ベッドが少なかったり、処置できない可能性を恐れて何処の病院も急患を受け入れてくれないんだ……」
(そうか! つまりベッドに空きが出来れば俺も入院ができるんだな?)
「待っていろ救急隊員! 今すぐベッドの空きを作ってくる!」
「それは頼もしいな。頼んだよ」
こうして高田は目の前の病院に潜入する!
(何処のベッドも四肢が壊死した糖尿病患者だらけだ! 米やパンといった糖質を取り過ぎているんだ! やはり主食はラノベ一択だな……!)
おもむろに、とある病室を覗き見する高田!
「私が悪かった……私が悪かったから……だから許して……許して頂戴
……!」
その中にはベッドの上で何もない空間に頭を下げ続ける奇妙な格好の女性患者が一人!
目立った外傷は無いッ!
「そこのアンタ! 比較的元気そうじゃ無いか! 俺にベットを譲ってくれ!」
「う゛っ!!!!! ……お゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛」
高田の顔を見て何故か反射的に嘔吐する若い女性患者!
(何だ!? 俺の顔にトラウマでもあるのか? ん? ――――――この女……ドレスを着ている! これは悪役令嬢物のヒントになるかもしれんッ!)
「おい! ここで会ったのも何かの縁だろうし、その服を寄越せ!」
「お願い……お願いだからもう許してぇ……わ゛だじが悪かった……悪がっだからぁぁぁあ゛あ゛あ゛あああ゛あ゛!」
ベッドから転げ落ちて土下座を始める女!
「何が何だかよくわからないが許すものかッ! ブクマとポイントを貰うためならな……なろうファイターは何だってやるんだよ! 面白い作品を書くために女の服をはぎ取るなんて日常茶飯事! そして貴様は本日を以て――退院だッ!」
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアア」
絹を裂くような女の悲鳴が病室に響き渡った!
実際に絹を裂いていたのかもしれないッ!
かくして、ツイン縦ロールの女は霰も無い格好で外に出て行った!
「よし! 早速試着だ!」
女物のドレスを着てマッスルポーズを取る高田! ノーコメントッ!!
「ナースコールが押されたのはこの病室です! 先生! 彼女がまた自殺を図ったのかもしれません!」
突然、看護師と医者が病室に入ってくる!
病室の中には吐瀉物と女物のドレスを来てマッスルポーズをしている男がいるだけで、特に異常は無い!
しかし――医者は高田を見た瞬間に警戒心を露わにする!
「貴様は――――――――――――あの高田浩二だな?」
「なぜ俺の名前を!」
「私の名はなろうファイター四天王の内の一人! 世税腐目蹴礼! なろうファイトでこの世界の医療を牛耳って多くの病気や怪我を治すのが夢だ!」
医者――メゲレの発言に高田が震える!
「なんという無責任で恐ろしいことを! そんなことをしたら伊勢海町の人々が無駄に長生きして――介護疲れで国が疲弊してしまうッ!」
「クククク……そう! それが私の狙いなのだッ! これぞ町ぐるみで行われる新しい人体実験だ!」
「そうはさせるか! なろうファイトで決着を付けてやる!」
こうして――なろうファイトの試合が病室で始まる!
「おい、嗅げよみんな! この匂いは何だ?」
「鼻血か?」
「ゲロだ!」
「いや、なろうファイトだァァァァアアアア!!」
霊安室の棺の中から飛び出した読者達が高田の病室に慰霊の大集結!
《読者の皆様! 大変長らくお待たせいたしました! 実況解説は私、竹崎祐輔! ルールはオールフリーのスピードバトルです!》
ドレスを着たままパソコンを起動する高田!
一方、いつの間にかメゲレの周囲には大量に医者達が集まっている!
「ベッドをどかしました! 患者の準備も完了です!」
モブ医者の言葉を聞いて、ナースコールを押すメゲレ!
「よし看護師長! カウントを頼む!」
『仕方ありませんね……。準備はよろしいでしょうか? 三、二、一! なろうファイト!! レディー、――――――ゴー!』
「「ワアアアアアアアアアアアアア!!」」
執筆開始!
「高速術式ッ!」
メゲレはそのメスで連れてこられた患者の体に物語を刻み始めたッ!
「クククク。これぞ我が術式よ!」
《なんということだッ! メゲレ選手! メスで患者の体の上に異世界を召喚しているゾオオオオオッ!》
「SUGEEEEEEEEEEEEEE!」
「リアル魔方陣だーっ!」
ちなみにこの原稿――もとい、患者の名前は盛流元蓋子!
かつて爆発事故に巻き込まれて体のパーツのほとんどを失ったが――メゲレの手によって奇跡の復活!
そのときに一緒にいたはずの双子の妹は行方不明!
何処に行ったのか……知らない方が良いッ!
ドライブに同伴する程仲の良いメゲレに頼まれて――今回原稿役を買って出た年端もいかない少女である!
もうこいつがメインヒロインでいいんじゃないかな!
「高田浩二――貴様の戦闘方法は筒抜けだ! どんな執筆をするのかは既に把握済みよ! この勝負――もらった!」
「まさかメゲレとやら――俺が己の肉体のみで戦う脳筋野郎だとは思っていないだろうな!」
「何だと!」
何だと!
「見せてやるよ! 俺の開発した新必殺技をな! ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
(まずい――高田のヤツ。何か仕掛けてくる!)
「最先端の科学技術をその身で味わえ! ――――新なろう奥義パソコン投げ!」
高田がなろう投稿用のパソコンを閉じるとメゲレに向かって全力投擲!
ホモサピエンスの革命である“投擲能力”と文明の利器である“パソコン”!
その二つを組み合わせた――まさに人類にとっての究極奥義である!
「ソレが貴様の科学技術か! ならば私は最先端の医術でそれを阻んでみせるッ! ――――暗黒なろう奥義! 絶命必死乱舞ッ!」
メスを高速回転することで制空権を握るメゲレ!
飛んで来たパソコンが空中で切り刻まれて粉々になり病室に飛び散る!
「今ので私のメスが刃毀れしたが――しかし、なまくらのまま術式を続ければ良いだけの話! 一方で貴様が執筆に使うパソコンは破壊された……終わりだ高田浩二!」
《お互いの筆のぶつかり合いを制したのはメゲレ選手! 高田選手の執筆はここまでなのかーーーーッ!?》
しかし! ここで事態が急変する!
「メゲレ先生! 患者の容態が悪化しました!」
「何だと! 私の術式は完璧なはずだ! まさか――高田浩二。貴様は!?」
「フッ――患者に行っている点滴や注射をよく見てみるんだな!」
「これは……変色しているだと!?」
そう。実は高田はパソコンが粉々になると同時に凄まじい速度で、点滴や注射器に粉末化したパソコンを混入させていたのである!
「しまった……いつの間に!」
時既に遅し! 患者兼原稿である蓋子の体内にパソコンの破片は既に大量に混入している!
「おのれ高田め! 患者の血圧が低下している。どうする……どうすればいいんだ……」
(一旦点滴を止めて、血圧が下がっているなら上げればいいんじゃないのか?)
高田ですらわかるような簡単な状況!
「……」
「……」
「……」
しかし、黙りこくってしまい全く介入しないモブ医者共!
それもそのはず。メゲレは病院内の派閥のトップ!
偉い先生に下っ端は口を出せる空気では無いッ!
仮に下っ端が進言して手術が失敗したら責任を負わされるかもしれないのである!
だから誰も何も言わない!
こんなんだからどっかの大学病院は子どもの移植手術とかを何度も何度も失敗するのである!
――場の空気って怖いねッ!
「モガ! モガガガガガガガガアガガガガガアガアアアアアアアアア」
そしてついに、全身を駆け巡る痛みに患者の蓋子が全身麻酔から覚醒!
「時間切れだッ! 進みすぎた科学は人類を内側から蝕むッ! 食らえッ! 派生式なろう奥義、IT革命(ボンコボンゴアイドントウォントトゥリーヴザコンゴノーノーノーノー)! ッ!」
「ンガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアギギギギギギギギギギギギギギギギ!!」
痛みに耐えきれずついにその体が爆発粉砕!
白い病室が赤い部屋に変貌する!
こうして、メゲレの人体原稿は永久に失われてしまった!
「なんということだ――私の原稿が無くなってしまったッ!!」
「そして、パソコンを投げる前に俺は既にゴミのような話を投稿してある! 投稿をしている以上、俺の勝ちだ!」
勝ち誇る高田!
《決まったアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ! 試合終了! 勝者は物語を投稿していた高田浩二選手ッ!》
【高田浩二〇 VS ヨゼイフ・メゲレ● 決め手:医療事故】
「「ワアーーーーーーーーッ!!」」
「「高田!」」
「「高田!」」
「「高田!」」
「なんということだ……この私が負けるとは……しかし今回の事故に病院側の――――」
「言い逃れさせる物かよ! ついでに貴様も医療ミスの責任きっちり取って死ねッ! 普通の正拳突き!」
言い切る前に高田の拳がメゲレの心臓部に直撃!
心臓発作を起こしてメゲレは死亡したッ!
「ん……待てよ? 患者の方の心臓はまだ止まっていないじゃないか! えいや」
高田の手刀で心臓が切り取られて少女は今度こそ完全に絶命する!
「子どもの心臓は需要があるし、高値で売れそうだな――メルカリにでも出品するか!」
かくして高田浩二は激戦の末、少女の心臓を手に入れたのであった!
https://www.youtube.com/watch?v=VEyDNTLlRgU
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お~ボンコボンゴアイドントウォントトゥリーヴザコンゴノーノーノーノ~(デレッデレレー)