第七部最終回 貧困!
「ああクソッ! またインセックしてソロキャリーしてしまった!」
「駄目ですよ高田さん! もっと前向きにフィードしていかないと!」
「高田は相変わらずだなあ。トキシック気味に仲間をアイスウォールで妨害するとかしないとね」
地下室でよくわからない複雑な横文字を使って意識高い系の会話をしているのはいつもの三人組!
高田浩二、金髪騎士鎧の美女テンプレのヤス、和服のイケメン二藤新人!
(それにしても腹が減ったな! ……ここ数日で食べたものと言えば二藤が買ってきたプリンくらいだ……)
「そういえば高田さん! 出前頼んでおきましたよ!」
「でかしたぞヤス!」
こうして高田達の元に届けられたどんぶり!
倒置偽県名産のラノらーめん!
表紙のプラスティックのような歯ごたえと紙のような弾力を併せ持つラノベが濃厚なスープを吸って口の中でふんわりとトロけない逸品である!
ラノベを書いた作者本人のサプライズもあり、体の一部や衣服の一部が混入しているのも見所である!
「噛み応えがあるな! 食事としてならどんなゴミみたいな内容の話でもきっちり味わえるのが良い! 俺のなろうの異世界テンプレですら印刷すれば食えるようになるわけだしな!」
「読む場合と違って、あらすじとかプロローグとかで投げないで済みますからね!」
「きっと、作者も浮かばれるだろうね!」
そう言って二藤が箸をかき回すと浮かんできたのはラノベ作者の左眼球!
それは文字通り――この料理の目玉であり、見所であった!
こうして、ラノらーめんを堪能する高田達!
しかしそこで、高田の舌触りに違和感が生じた!
「む……これは、新聞紙のようだな!」
「妙だね。製造元が同じだから、混ざっていたのかな? うどんに混ざるソバみたいに」
「ごめんなさい高田さん! それ今朝の朝刊です! 余っていたんで混ぜてみました!」
暴かれた衝撃の事実!
「ヤスが隠し味に入れたのか……隠し切れていないぞ! まあ、量が増えるから構わないが!」
割と冷静な高田が口から取り出した新聞を開いた!
『【テロにより貧困児童が空腹に喘ぎ苦しむ】 先日の伊勢海ビルの倒壊による大不況で街中では高所からの転生狙いの転落自殺が頻発。エリートのみ入園を許されるという伊勢海幼稚園も義務である給食の配給がままならない状態であると保育士は言う。このままでは園児が全滅して干からびる事間違いなし! 【写真:ピースしている撮影者(左)と餓死する瞬間の桜場陸人君(右・5歳)】』
「なんてことだああああああああああああああああああああ! こんな事が起こるなんてありえんッ! こんなありえない状況を見過ごせるか! 俺は伊勢海幼稚園に行くぞッ!」
「そう言うと思った。僕も付いていくよ!」
「私も憑いていきます!」
こうして!伊勢海幼稚園に到着した高田ーズ!
「ようこそ伊勢海幼稚園へ。……給食の準備のお手伝いに来て頂いたのですね?」
幼稚園で出迎えてくれた美しき女性保育士の名前はシスター・マザー!
貧困に喘ぎ苦しむ園児を救うために立ち上がった正義の聖女である!
…………………もしかしてメインヒロインなのでは?
「済まないが巨大な鍋を貸してくれ! 今から園児達に料理を振るまいたい!」
「あら、……それは丁度良かった。私も園児達の為のカレーライスを作っていたところです……」
「よし! それならばどっちが園児受けするか勝負だ!」
こうして、普通のカレーライスに挑む事となった高田浩二!
「もう……高田は本当に戦闘狂なんだから。今回は僕がカウントさせてもらうよ? 二人とも準備は良いかい? 三、二、一! なろうファイト!! レディー、――――――ゴー!」
二藤のかけ声で高田が料理を開始する!
「まず、俺の異世界テンプレをラノベ形式で印刷して――包丁で切るところからだな!」
作ったラノベを包丁で丁寧にズタズタにする高田!
「切ったラノベを鍋に入れてあく抜きをする。ここにあとがきをいれる!」
「あとがきは僕がかかせてもらったよ!」
「サンキュー二藤! そのあとがきを油に浸してから鍋に投入! そして最後に、用意した調味料の中身を取り除いて瓶を砕いて鍋に入れる――できたぞ! 名付けて同人製作ラノベの水炊き!」
しかし! 園児達まさかのこれをスルー! カレーライスに飛びつくッ!
「何ィッ!? ……俺の異世界テンプレは……幼稚園児の感性に引っかかりもしないのか……なんて事だ……!」
ショックを受ける高田!
幼稚園児が大好きなのは異世界テンプレではなく絵本ッ!
短くてシンプルなタイトル!
読む物を圧倒する物語! 萌えに媚びずに興味を引ける表紙と挿絵ッ!
そして、大人になると失ってしまう独特の感性!
そう――それら全てが、今の高田には足りていなかったのであるッ!
高田の手元にあるものは文字通り――煮ても焼いても食えないラノベだけッ!!
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! この餓鬼どもがあああああああああああああああああ!」
【高田浩二● VS カレーライス〇 決め手:民主主義による多数決】
自分の作った同人ラノベを食べて貰えずに発狂する高田!
その後、高田は奮闘! 頑張って隠し味にノートパソコンを砕いて入れてみたりもしたが園児には見向きもされなかった!
「俺はもう怒ったぞ! 本来の目的を今果たす!」
「高田。それは一体どういう事だい?」
高田が鍋の蓋を床に投げつけてシスター・マザーに駆け寄った!
「新聞記事に書いてあったが――そもそも幼稚園の給食が義務なわけねえだろうがッ! そして何で幼稚園に――保育士がいるんだァァァァアアアアアアアアアアアアッツッッッツ!!」
意味不明な言い掛かりをつけてシスター・マザーをぶん殴る高田!
「高田さん! 一体何をするんですか!」
「女性の顔を殴るなんて――高田。何て酷いことを!」
「男より女の顔の方が殴っていて楽しいだろ! そんな事より、よく見ろ二藤! ヤス!」
「オゴゴゴオゴカカカァァカカ……」
高田が指さした先には、突如吐血して絶命する園児達の姿が!
「なんということでしょう! 園児の吐血で砂場が汚れてしまいました!」
ソレを見て咄嗟に、シスター・マザーの作ったカレーライスを試食する二藤!
「この味は……食べ慣れた青酸カリの味だ! ……シスター・マザーはカレーライスに青酸カリを混ぜていたんだ!」
「そんな! 食べ物に異物を混入するなんて――許せません!」
「やはり貴様は暗黒のなろうファイターだったんだな! シスター・マザー!」
高田の指摘についにシスター・マザーがその正体を明かす!
「その通り――私の名は暗黒なろうファイター四天王――」
「やかましいッッッッッッッッッッッッッッッッ俺はカレーライスに負けてイラついているんんだッ!」
高田の正義の正拳突きがシスターの整った顔面に直撃!
吹き飛ばされたシスターが高田の作ったラノベ鍋の中に落っこちた!
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「ヤス! 二藤! 蓋を閉じて上から押さえるんだ!」
三人がかりで上から蓋を閉める!
密閉された熱湯の中でシスターはぐっっっっっつぐつに煮え上がり――ついに動かなくなった!
「名付けて『シスターさんとノートパソコンとラノベを鍋に入れたらそこは異世界でした!!!!!』そう――この鍋の中身こそ俺が作った今日の異世界だッッッッッッッ! もうどうにでもなりやがれッ!!!!!!!」
「流石です高田さん!」
取って付けたように高田を褒めるヤス!
「暗黒なろうファイターは倒したけれど……どうしよう高田。園児達の餓死が止まらないよ! 高田の鍋は食べてくれそうに無い!」
「心配はいらない! 俺に任せろ!」
その場から立ち去る高田!
数分後――大量の肉をゴミ袋に入れて戻ってきた!
「この肉はどこから取ってきたんですか? 高田さん!」
「伊勢海ビルの周辺からかき集めてきたんだ!」
謎の肉を鍋に入れる高田!
(肉汁スープ完成! ……かの有名なナイチンゲールとかに見られたら栄養的な意味で激怒されそうだが……この際、仕方ないな!)
正体不明の謎の肉汁を飲んで元気を取り戻す園児達!
その後、シスター・マザーが48億円の遺産を隠し持っていた事が判明し、幼稚園は豪華リニューアル!
息子をエリート街道に走らせようと、餓死した園児達の空席を狙って、入園希望の母親達の電話が殺到したのであった!
やはり! 人々が望むのは神の愛より金である!
「高田さん! この新しい新聞を見てください! 世界の反対側でも貧困に喘ぎ苦しむ子どもが一杯いるみたいですね!」
「知っているけど、遠いし面倒臭いから――――見殺しで!」
「まったく! 高田は面倒くさがりなんだから! アハハハハハハハハハ!」
今回は珍しく、めでたしめでたし!
カレーライスは今作最強クラスの敵という設定が成されており、地味になろうファイトでの高田浩二の初黒星です。