第六部最終回 革命!
110階に到着した三人、なぜか息も絶え絶えである!
(カニ走りで鍛えていて助かったぜ!)
『遅いぞ高田浩二共よ! 決勝の題目は……“悪役令嬢もの”とするッ』
(なんだと! そんなジャンル聞いたことがないッ!)
困惑する高田! 圧倒的準備不足ッ!
『ルールは先程の物と同じ! 暴力禁止で匿名ルール! 三、二、一! なろうファイト!! レディー、――――――ゴー!』
「くっ!」
チート能力に頼らずその拳で建物の床を破壊――再構成し、起動済みのパソコンを0から作り出し執筆を始める高田!
「いざ尋常に勝負でござる!」
(純文の文の得物は万年筆と巨大で上質な原稿用紙! 発火の危険性は無さそうだが……)
「あかんで高田はん! あのどでかい原稿はシルクロードでできとる!」
「シルクロードだと!?」
シルクロード! 直訳でシルク王と名付けられた伝説の土地! その地層を引っ剥がして作られた原稿用紙はこの世の中で最高の品質なのである!
(闇サイトのシルクロードなら愛用しているが……それとは違うようだな!!)
「フフフ。最高級の筆と紙でゴミのような話を書き殴る……最高の気分でござる! チェィアッ!」
純文の文は万年筆をまるで日本刀のように振り回し、インクを巨大な原稿用紙に叩きつける!
見る見るうちに物語が構成されていく!
(くそ! 盗作しようにも達筆すぎて解読出来ん!)
高田浩二、大ピンチ!
(善光路に聞いてみるか? いや、大作家人は低脳でムカつくし俺がジャンルに対して無知だと言うことを敵に悟られるのはまずいッ!)
「あ……しまったでござる! ここにはパソコンが置いていないから原稿用紙で完成させてもなろうに投稿ができんでござる!」
ここで純文の文の致命的なミス!
圧倒的な予算不足で今高田達がいるフロアにはパソコンどころか椅子やテーブルすら無い!
「やったで高田はん! これで勝利確定や!」
「待っていろ! 俺の投稿が一段落したらパソコンを貸してやる!」
「かたじけない!」
「なんでや!」
こうして残り10分程で高田がパソコンを純文の文に渡す!
「これを使え!」
「焦るでござる! 焦るでござるよ!」
そして、残り三分の段階で事態は急変した!
「しまったでござるッ! ログインし直すのを忘れて、間違って高田殿のアカウントで投稿をしてしまったでござる!」
(これだ! これを待っていたんだッ!!)
「今だッ! 普通の正拳突き!」
高田の不意打ち! 何の変哲も無い拳が油断していた純文の文の眼前まで迫る!
「高田はん! 今回は暴力はアカンで! 殺すのは試合が終わってからや!」
非道な高田の行為に対して、善光路の警告が飛ぶ!
予想外の高田の行動に思わず目を瞑る純文の文!
――しかし! 彼は無事であった!
粉々になったのは高田のノートパソコン!
「実は、俺は一文字も書いていなかったのさ! 書けなかったからお前に代筆を頼んだというわけだ! パソコンを貸さなかったとしたら一階に戻って投稿してくるだろうと思った。あそこには予選用のパソコンが設置されていたからな!」
「時間を使わせて自分の作品として書かせてから、逃げ道を塞いだというわけやな! 流石高田はんや!」
「拙者の……負けでござるか……」
「だが、激戦だった……正々堂々とアンタと戦えて楽しかったよ!」
「拙者も、悔いは無いでござるよ!」
こうして、固い握手を交わす二人!
【高田浩二〇 VS 純文の文● 決め手:誘導執筆】
『勝負が決したようだな……そのまま残り時間までその場で待機するが良い!』
アナウンスをしていた黒鼠竜比良はそのとき、隣の無人の塔「伊勢海タワー」を乗っ取り最上観覧階に陣取っていた!
「愚かな連中だ…………なろうファイター共め。勝利が決した瞬間に、爆発でビルごと全ては吹き飛ぶのだ!」
『黒鼠様――本当に彼等ごとまとめて、ビルを爆破するのですか? ビルで働く従業員もたくさんいますが……』
飾り気の無い格好の、色白ポニーテールの少女がタワーの中層からトランシーバーで黒鼠に話しかける。
『当たり前だ! あの銀竜寺の後釜と野蛮人と大作家人……生かしておくわけにはいかん! 今回は貴様が起爆するのだ!』
「―――ッ!」
黒鼠の言葉に一瞬、トランシーバーを持つ手が震え――少女の表情が悲しみで歪んだ!
彼女の名前は伊豆冷四濡音いずれしぬね!
普段は無表情。諸事情あって黒鼠に付き従っているが、強要される悪事の数々に心を痛めている……後のメインヒロインである!
『これは……黒鼠様――異常事態です! このタワーに高速飛行物体接近中。距離は遠いですがこの進路だと激突します!』
その四濡音の指摘に焦る黒鼠!
「何だと……映像を寄越せ! これは――旅客機ではないか!」
伊勢海ビルとタワーに近づく旅客機が二機!
この時! 片方の旅客機を操縦していたのはイスラム国外国人留学生のシャフィームであった!
『いいのかよ、シャフィーム。今の段階では、俺達は無人の旅客機を乗っ取っただけだ。まだ引き返すことはできるんだぜ?』
「大丈夫ネ。ゴローサン。自分、覚悟してきたーネ」
届いてくる同志の通信に元気よく返事をするシャフィーム!
何故彼がこんな凶行に及んだのか?
そう、彼――シャフィームには日本人の幼馴染みがいたのだ!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
時は遡り2120年!
ここは絶望の国、飽鬼田県の上子阿美村!
この村は諸事情あって、医者の入れ替わりが激しかった!
彼の父はイスラム国からやってきたこの村の1227代目の医者であったのだ!
「やーい! お前の遺伝子オーバーマ!」
「違いマス! 日本の夏暑くて紫外線浴びすぎて色黒いケド、私イスラム系ノ、イスラム国人ね! 日焼けしているだけで黒人じゃナイネ!」
「うるせえ! 俺達にとっては黒人っぽいのは全部オバマなんだよ! 俺がドナルドトランプの役やるから、お前はオバマの真似しろよ! ホラ! You are fired!」
「ウウ……Yes,we can……」
「言ったなコイツ! じゃあお前らの家族ここら辺の集落から出て行けや!」
「ちょっと! あなたたちやめなさいよ!」
「ああッ。長谷川京子だ! 逃げろ! 殺されるぞ!」
【首が折れる音】
「ありがとう京子チャン……」
「シャフィームのお父さんに治療して貰えば、お金も貰えて一石二鳥よね!」
シャフィームと幼馴染みの長谷川京子。二人はとても仲が良かった!
「シャフィーム! 私! またすごい小説書いたんだ!」
「ん~。デモ冒頭あんまり面白くナイネ」
「そう言わないでよ! ちゃんと最後まで読めば神作品なんだよ? それ!」
「……………………本当ダ! この話凄イヨ! 読んだことないーネ、こんな話! 頭の中に色トリドリの世界が思い浮カブーネ!」
「でしょ? 私さ! なろうファイターになろうと思っているんだ!」
「なろうファイター? 何ですかネ? ソレ」
「面白いお話を書いて、皆に希望を与える小説家の事よ!」
「おお! きっとアナタならナレマス! 本物のファイターニ!」
しかし、ここで悲劇! 彼女には面白い話が書けても、なろうファイターの適性自体が全くと言って良い程無かったのである!
「駄目よ……駄目なのよ……どんなに頑張って丁寧に感動できる話を作っても……誰も……誰も私の話を読んでくれない……どうして」
「おかしいネ! 私の感性間違っテナイヨ! アナタの作った小説どれもみたことナイシ面白イヨ! 続き読ませテーヨ!」
「もう1000000000000万字は書いたのに……全部読んでくれたのはあなただけ……私……疲れちゃった……誰も理解してくれないなら……私は死ぬしかねえ!」
こうして、自分の上半身を720°回転させて真っ二つ!
――長谷川京子という存在は永遠に失われたのである!
「京子チャン………………オノレ……なろうファイター……」
こうして拳を握りしめ、シャフィームは憎しみの戦士となった!
なろうファイターという存在を抹殺する存在!
紫外線による顔面ダークヒーローの誕生である!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『――フィーム。シャフィーム! 聞こえているか! そろそろ到着するぞ! 俺達の悲願を叶えるときが来たんだぜ!』
「わかっテルネ。ゴローサン。とっくに覚悟はできテルヨ!」
そしてまさに今! 彼は空港でぶつかり殴り合いの大喧嘩になった中年清掃員、ゴローと意気投合し――無人の旅客機を二つ乗っ取り、なろうファイトの決戦の地に向かっていたのである!
「まずい! もう目視できるほどに近づいてきているぞ! 予定より早いが仕方在るまい! 四濡音! 貴様があの旅客機の追突に巻き込まれて死ぬ前に、とっととビルの起爆スイッチを押すのだ!」
(そっか……私……ここで死んじゃうんだ)
自らの死を他人事のように認識する四濡音!
その瞳に映ったのはモニターの中で固い握手をする高田と純文の文の姿だった!
(――もう誰も殺したくない!)
四濡音が起爆スイッチを放り投げるッ!
その死の間際、彼女は目に涙を溜めて微笑んでいた!
「なッ!!!! 貴様! まさか私を裏切るつもりか!」
なぜかビルの方ではなくタワーに吸い込まれるように近づいてくるシャフィームの旅客機!
「京子チャン……アナタに伝えられナカッタ言葉……最期に言わせてくだサイ――」
激突の瞬間――シャフィームの最も大切な思いが――言葉になって口から飛び出た!
「――イスラム国万歳!!!!!!!!」
振動と轟音ッ! 旅客機がついにッ――タワーの中層に激突!!
「なんや? 何が起きたんや?」
「おお! どうやら……旅客機が隣のタワーに激突したようだな!」
「それは大変でござるな~~」
隣のビルで割とのんきしている三人!
自分達の命が一人の少女の手によって救われたということを彼等は知る由も無いッ!
「四濡音――四濡音! あの女、死んだか! 役たたずめ!」
対して、激昂するのは黒鼠!
ビルを爆破しなかった少女は卑怯者の烙印を押された!
暗黒なろうファイターの崇高な作戦を台無しにした、惨めで無様な女として未来永劫語り継がれるのだ……!
彼女の名は伊豆冷四濡音!
最期の最後で、悪魔に魂を売らなかった女である!
「おのれ高田アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
そして、次の瞬間にはタワー全体が倒壊!
黒鼠の半ギレ気味の断末魔が、轟音に飲み込まれる!
「うわ! 冷静に考えてみたけど……旅客機でビルに突っ込んだら最悪、操縦している俺は死ぬかもしれないぞ……」
とんでもない事実に気づいた後続のゴロー!
残された高田達のいるビルへの突撃を取りやめて、旅客機をUターンさせて清掃員の仕事場に帰って行く!
「で……この後どうなるんや!?」
「……アナウンスが鳴らんでござるね」
「――――――――――――――――――――――――帰るか!!」
かくして、凶悪なテロリストの野望は凶悪なテロリストによって潰えた!
高田と黒鼠の大激闘にも終止符が打たれ、残る四天王全てを倒すまで高田の戦いは続くのである!
書いている途中、高田が四天王に負けてしまいそうでヒヤヒヤしていました。