第二十六部最終回 推理!
前回までのあらすじ!
友人である鳥田目為夫の紹介で富豪に誘われ、懸賞で当たった演劇部の慰安卒業旅行ミステリーツアーで、絶海の孤島の無人島のスキー場のペンションのコテージにやってきた高田浩二達!
しかし、当たり前のように恐ろしい事件が発生!
『こんや、12じ、だれかがしぬ』
そんな手紙を持った状態で、包丁が2000本刺さったペンションのオーナーがロビーで倒れているのが発見された!
果たして、犯人は誰だ!
「……なんて事だ! あのオーナーがこんなことになってしまうなんて……」
憤る大学二年生の涼実優!
このシリーズの主人公である!
「ふざけるな! こんな連中と一緒になんか過ごせるか! ワシは自分の部屋に戻るぞ!」
そう言ってロビーから立ち去る性格の悪い中年男性は成金権蔵! 多分死んだ!
(クソオオッ! 前々から言いたかった台詞を先に言われた! ならば俺はさらにその上を行くッ!)
それに対して、何故か対抗意識を燃やすのは高田浩二! この物語の主人公である!
「ふざけるなッ! こんなシチュエーションに付き合ってられるか! 俺はこの島から出るぞ!」
(よし! 勝ったッ!!)
一体、何にだ!
「なッ!?」
どよめく周囲!
「無茶ですよ高田さん! ここは絶海の孤島なんですよ! 電話線は高田さんの手によって切られていて、ここにいる人達のスマホは高田さんが全部食べちゃって、衛星電話は前の話で高田さんが原因で衛星が撃墜されたから使えなくて、外は高田さんのせいで嵐&猛吹雪なんですよ!」
「どうかしているよ高田。正気じゃ無いよ!」
ヤスと二藤新人の珍しくまともな発言に高田が反論する!
「だったら泳げば良いだろ!」
「確かにそうですね!」
こうして高田は嵐と吹雪の中を一人で海に飛び込み、ノートパソコンをビート板代わりに地平線の彼方に泳いでいった!
(駄目だ……今回はいつも以上に高田が役に立ちそうに無い! 僕がなろう異世界モノのサスペンス展開で鍛えた推理力で、なんとかしてこの場を収束させないと……!)
焦るのは高田浩二の相棒、二藤新人! お前だけが頼りだ!
部屋の隅で今回のツアーの参加者を冷静に観察する二藤とヤス!
「というわけで、時刻は11時30分! この場所で事件がありました。何をしますか二藤さん!」
「とにかく、この事件の犯人を見つけないと駄目だね。ヤス。手伝ってくれ」
「わかりました! まずは証拠集めからですね!」
「いや、その必要は無いよ。大体最低限のお約束を網羅すれば犯人なんてわかるから問題ない。ここがどこだと知る必要もなければ、殺人現場を調べる必要もないのさ」
こうして、名探偵二藤新人の乱暴な推理が始まる!
「まず、あそこで憤っている涼実優くんは犯人じゃ無い。体だけならいざ知らず、名前にまで透明感があるし個性の無い格好が如何にも主人公って感じだ。彼は信用しても良さそうだね。僕とキャラが被っているのが気にくわないけど」
「……そういう推理の仕方で本当に大丈夫なんでしょうか? せめてこの“島の名前”とか“ペンションの名前”とか“雪山の名前”とか知っておいた方が良いと思いますけど!」
「大丈夫だよ。そもそも現代社会において大学二~三年生っていうのは動きやすいポジションなんだ。サークルに入っていてもおかしくないし、死ぬほど面倒くさい無駄だらけの就活の魔の影も忍び寄っていない上に成人しているから色々危ない事も平気でできる。主人公に最適な年齢なんだ」
「なるほど! じゃあ涼実優さんの隣に座っている女の子はどうなんです? 犯人候補というより、殺されそうで不安です!」
「いや、あの娘はメインヒロインだからまず死なないんじゃ無いかな」
そう!
涼実優の隣に立っているのは同い年の幼馴染みの逸詩縫香奈。この話のメインヒロインである!
「ヒロインが犯人っていうのは、ゲームのバッドエンドならいざしらず、シリーズ物ならまずない。だから彼女も犯人じゃ無い。如何にも美女だし、ヒロインが殺されることはないだろう」
二藤の言うとおり! 可愛い女キャラでメインヒロインならばまず死ぬことは無いのである!
死んだら死んだで主人公の葛藤やらなにやらでページを割くのが面倒臭い!
「じゃあ、鳥田目為夫さんはどうでしょう? 今回私達をここに誘ってくれた人ですから、怪しいんじゃ無いですか!?」
「メンバーの紹介や人間関係を解説する役を担っていた上に、ビデオカメラまで持っているからまず犯人じゃ無いね」
「途中で殺されるっていうパターンは無いんですか?」
「それも無いと思うよ。主人公の涼実君が誘われたのはこれで三回目らしい。要するにシリーズ物の“準レギュラー”なんだ。多分録画したビデオが推理か何かに使われるのがいつものお約束なんじゃないかな」
「へっ! オーナーも馬鹿なヤツだぜ! アイツがこんなことになっちまったならこのペンションは俺の物だ!」
「テーブルに足を載せているのは厭菜八尾さんですね!」
「バックボーンの説明があれば実は善人でしたキャラで後半活躍するけど、今回は特に無かった。多分後で殺されるから無視して良いよ」
「あの人に言い寄られたら守ってくださいね! 二藤さん!」
「冗談きついよ。ヤス。後は部屋にこもったあの成金権蔵か……。アイツはもう死んでいると思う。もし死んでいなかったら僕がきっちり殺すから除外しておこう。それとここに居る人達は全員双子だったから、その片割れも全員殺しておいたし準備万端だ」
「完璧ですね! じゃ、次はアリバイの確認です!」
「――そうだね。形式だけでもやっておかないと推理パートに進まないからさっさと終わらせようね」
かくして! 名探偵二藤の雑な質問が始まる!
「じゃあ、まず涼実君に聞くけど、そうだなあ。昨日、君が就寝していた時間にキミは一体何をやっていたのかな?」
「えっと……俺は確か、その時間はオーナーを殺害していたんだ」
「なるほど……オーナーを殺害していたんだね。大した情報じゃ無いけどメモをしておこう。ほかにこの涼実くんのアリバイを証明できる人はいるかい?」
「ああ、香奈が説明できるよ。その時間に隣に居たから……」
主人公を全力フォローするメインヒロインの逸詩縫香奈!
「ええ、確かに私は優と一緒にその場に居たわ。オーナーに対してM134を連射していたの。毎分3000発の軽めのやつよ」
「なるほどね。わかった。二人のアリバイは証明されたよありがとう。道理で壁に大穴が開いて外からずーっと雪が吹き込んでくるわけだ。それじゃあ次、鳥田目為夫さん。あなたは昨晩、一体何をやっていましたか?」
「私は涼実さんと入れ違いでロビーに来て、オーナーの顔面をカメラで殴打していたよ。あの日はいつもと違って、全力だったなあ」
「それを証明できる者はいますか?」
「ふざけてんじゃねえ! こいつらまともじゃねえぜ!」
突然叫ぶ厭菜八尾!
「冷静に考えたら、なんでお前ら夜中に普通に起きているんだよ! 夜にちゃんと寝ないと、ホルモンバランスがおかしくなって自律神経失調症になったり鬱病になるじゃねえか! 探偵さん! こいつら全員イカレてるぜ! 良い子は寝て育つっていうからな! こいつら全員犯人に違いねえ!!」
「何よ! 厭菜八尾の癖に熟睡して良い子ぶっているあなたがおかしいのよ! あなたこそ犯人なんじゃない!?」
「駄目だよ香奈! 一回落ち着いて!」
騒然となる絶海の孤島の無人島のスキー場のペンションのコテージのロビーの絨毯の上!
「クソッ! どいつもこいつも頭を冷やせってんだ!」
騒ぎに耐えられなくなったのか、悪態つきながら丁寧に灯油を撒いてロビーから出て行く厭菜八尾!
「あ、すっかり忘れていたけど、今の騒ぎで思い出したよ二藤さん……」
「おや、鳥田目さん。何か思いつきましたか?」
「うん。その時間帯の自分のアリバイならオーナーが証明してくれると思うよ」
「皆さん落ち着いてください! とにかく今は団結しなくては! 私のように命を狙われてしまいますぞ!」
混乱する一行を落ち着かせようと立ち上がってメンバーの為に紅茶を入れているオーナー!
途端にアールグレイの香りがロビーに広がり全員が落ち着きを取り戻す!
そんなに強烈な毒物が入っているわけでも無いのに何故か青くなっている紅茶を啜る二藤達!
「ここのオーナーは人間として素晴らしいね。被害者なのに混乱した場を諫めるとは流石だよ」
「包丁が刺さりすぎていて座るの大変そうですね!」
好物の青酸カリがたっぷり入った紅茶を楽しみながら二藤が被害者であるオーナーに質問する!
「オーナー。鳥田目さんがあなたを殴ったというアリバイを証明できますか?」
「ああ、それは心配ないよ。その時間帯、私は確かに鳥田目くんにカメラで殴られていたね。確か563回だったはずだよ」
「なるほど。鳥田目さんは白か。じゃあ、アナタの死因と、加害者について何かわかりますか?」
「いや、困ったことにまだ死んでいないから具体的な死因がよくわからないんだ。誰に殺されたかも、まだ殺されていないから誰にも殺されていないとしか言いようがないよ……」
「結局何も解らないんですね! なんなら、今ここで死因をはっきりさせちゃいましょうか?」
そう言って懐から包丁を取り出したヤスを二藤が静止する!
「(話がややこしくなるから駄目だよヤス)」
「それで、二藤くん。オーナーの私はどうしようか? なんなら、私を殺傷できる武器を持ってこようか? 昨日伊勢海町のベビー用品店で買ったツァーリボンバが地下に二個だけおいてあるんだが……」
紳士的な対応をしてくるオーナーを諫める二藤!
「いえいえ、それ以上は困りますよオーナー。アナタが動いたら現場が無くなってしまいますからね! 元通りの場所に倒れておいてください。まだ失血死ワンチャンあるので諦めないで頑張って死んでみてください。僕らも全員で応援するんで」
「む……すまなかった。血糊を目安に元の位置に倒れておくとしよう」
「というわけで、アリバイ確認終了ですね! それで、何かわかりましたか二藤さん?」
「いやあ、困ったな。彼らのアリバイは完璧だ。お互いがお互いをちゃんと見ている。あの時間帯に自由に動けた人間はいないし、これはちょっとかなり難しい事件なのかもしれないね」
「おい大変だぜ探偵さんよ!」
戻ってきた厭菜八尾!
「今ペンションを燃やすための火を探していたんだけどよ。その途中、下の崖で死体を見つけたんだ!」
「(どう思いますか二藤さん! やっぱりその死体が真犯人で、もう逃げられないと観念して、自殺したんじゃないんですか? あっけないラストですけど、事件は解決したと見ていいんじゃないですか? 捜査終了ですね二藤さん!)」
「(騙されちゃ駄目だよヤス。多分そこは推理モノでありがちな『犯人を追い詰める用の崖』だね。どうせ死体は別人のフェイクで、飛び降りたはずの人間が生きているパターンだよ)」
「ホラ! 見てくれよ! 気になって持ってきたんだ!」
ロビーに乱暴に放り投げられる死体!
「二藤さん! これは、どうやら中年のサラリーマンみたいですね! 事故で職を失って社会的支援を受けられず、自殺のために飛び降りたみたいです!!」
「なあんだ。社会による殺人事件か。毎日起きているから物語としてもインパクト無いし、お話としてもありきたりだし、犯人は社会を構築している大多数だから誰も見向きもしないしどうでもいいや。アハハハハハハハハハハハハ」
「えっと二藤さん! ……そうなると一体誰が犯人なんでしょう?」
「ん……あれ……あれ……おかしいな……そういえば……もう何もお約束がないしうーん…………あれ?」
『こんや、12じ、だれかがしぬ』
「――――――――誰が犯人なんでしょう?」
三日後!
ここは留置所!
本土に戻って、全く別の殺人容疑で逮捕されている高田浩二!
二人組の刑事が高田を尋問する!
「というわけで、あの絶海の孤島の無人島のスキー場のペンションを生き残った人間は君を除いてたった“一人”。たった“一人”だったんだ。他の人間は本当に皆殺しにされた! 犯人は現在逃走中だ! 君は何か知っているんじゃあ無いのか、高田浩二くん!?」
「ああ、俺には一瞬で真犯人が理解できたからな! だから本当に死人が出る前に真っ先に逃げ出したんだッ!」
恐ろしい事実を知っていた故に、震える高田!
「あの空間で通じるお約束はたった一つしかないんだ……! つまり、まともなメタ推理をしてはいけない! 大前提として、あの場所の名前は“ポートピア島のポートピアスキー場の、ペンション『ポートピア』”だったんだッ!」
「なんだと! ポートピアが連続しているのか!?」
「ああそうだ! それだけでわかるだろッ! つまり惨劇の犯人は――犯人は――」
「あれ? 高田さん、こんな所に居たんですか?」
飽きたので完結にします。
まあいいだろ別に毎話最終回だし。
鼻くそほじりながら書いてたけどほじりすぎて鼻の穴が増えたし。




