第三部最終回 初陣!
「そこまでですッ!」
ストップウォッチをヤスが止める!
「ハァ……ハァ……クソ! 一時間で6000字が限界だッ!」
「高田さん! しっかりしなさい! ざっと高速で読み飛ばしてみた感じ。細かく丁寧な描写に時間をかけすぎですッ! こんなものはなろうファイトでは一切不要! それと主人公のハードな努力描写は極力カットしてください!」
「クッ……! 俺もまだまだって事か!」
高田は焦っていた! それもそのはず、爆発に巻き込まれたはずの二藤新人から挑戦状が届いていたのだ!
『高田浩二……お前をなろうファイトで殺す! バトルタイプは音速遊戯――三日後に開催するのでそれまでお前の家の中で待つ!』
「フッ……もうすぐ試合の時間だよ。高田浩二、準備はいいかな――おい、冷蔵庫に入れておいたプリンはどこにいったんだい?」
(くそっ――二藤め! 三日前からいつも土足で歩き回るせいで床が泥だらけだ!)
こっそりプリンを食べる高田浩二!
そして――いよいよ試合が始まる!
場所はマンションの屋上である!
「おい、見ろよみんな! あれは何だ?」
「鳥か?」
「飛行機だ!」
「いや、なろうファイトだァァァァアアアア!!」
普段は全く見に来ないはずの読者達がどこからともなくゴキブリのように大集結!
高田の心に鉛のようなプレッシャーが重くのしかかる!
(気がつけば凄まじい数の読者達が集まってしまった……入りきれずに押し出されて、屋上から何人かが転落死したようだな……)
《さぁ! まもなく二人のなろうファイターの熱い戦いが始まろうとしています! 実況&解説は私! 超銀髪で黒スーツ! スタイル抜群絶世美女の須玖西尼僧がお届けします!》
本作のメインヒロインである須玖西尼僧の登場に沸く読者達!!
「「うおおおおおおお! 尼僧ちゃーん!!」」
「高田さん……。そして二藤新人……。準備はいいですね? 三、二、一! なろうファイト!! レディー、――――――ゴー!」
そして、決戦の火ぶたがヤスのかけ声によって切り落とされる!
「「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」
「高田さん! 特訓の成果を見せるときです!」
「ああ! 任せてくれ!」
咄嗟にノートパソコンの電源を押して起動する高田浩二!
そこで、立ち上がりに時間が掛かることに気づく!
(そうか――Windows98は事前に起動しておかないと、執筆までに時間がかかるのか!)
予想外の事態に焦る高田!
「ククク……高田。悪いけど、僕は先に執筆させて貰うよ」
「何イィィ! 紙の原稿用紙に……ボールペン二本だとオォォオオオオ!」
「その通り、これがボクの奥義さ! ボクの真名は暗黒なろうファイト
執筆四天王『二刀流の二藤』!」
右手にボールペン! 左手にボールペン! 両手で執筆力は二倍ッ!
《おお~っと! 二藤選手これは凄い! 二行まとめて書くことで信じられない速度で文章が出来上がっていくぞ!》
「高田さん! 急いでくださいッ!」
「わかっている! 今起動が終わったところだ! これからメモ帳を開く!」
しかし高田――痛恨のミスクリック! ソリティア起動!
「――しまったッ!!」
《なんということでしょう! 高田選手! 描写が凄すぎてワンクリックでトランプのオブジェクトを表現し始めたッッッ!!》
「「SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」」
高田の予想外のファインプレーにギャラリーが湧き、二藤が動揺する!
(高田浩二の作品が気になるが……今は自分の執筆に集中しなければ……落ち着け……僕は最強だ!)
さらに執筆速度を上げる二藤! その速度は凄まじく原稿に穴が開き始める!
しかしッ!
「――そんなものか?」
突然、高田が二藤を挑発した!
「何だと?」
「そんなものかと言っているんだ……二藤新人!」
《どういうことだーッ! 高田浩二選手! いつの間にか三分おきに一話を書き上げています! 作品が異世界新着に釘付けだーッ!》
(そんな馬鹿な……高田のあの投稿速度は一体!? さらにスピードアップだッ!)
「高田浩二! ここで勝負を決めてやる! 二刀流究極必殺奥義! 『二兎追う者は一兎も得ず!』」
さらに――さらに速度を上げる二藤!
余りの速さに手元が見えなくなり、机が傷だらけになる!
(しまったッ! ボクとしたことが……高田浩二の挑発に乗せられて速度を上げすぎてしまった! ボールペンが止まらないッ!)
ここで二藤! 致命的なミス!
安物のボールペン&原稿用紙の組み合わせは二藤の筆圧と速度に耐えきれず摩擦熱でついに発火!
二藤の和服に延焼する!
「手を離さなければッ……」
しかし時既に遅し!
二藤が速度を上げすぎたせいで、ボールペンは制御不能!
その手から零れたボールペンが高速回転し二藤の右肩を根元から一刀両断した!
「痛いイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアア!」
「二藤! これで貴様はもう二度とペンを握れまいッ! トドメだ! 普通の正拳突き!」
チャンス到来! 咄嗟に席を立つ高田!
鍛え抜かれた高田の拳が二藤の顔面に突き刺さる!
衝撃で、左手のペンもその手から解き放たれ――解説者の須玖西尼僧の頭部に突き刺さった!
《なんという事でしょう! 私の頭にボールペンが刺さりましたッ!》
「「に…………尼僧ちゃあああああああああん!」」
読者達の叫びもむなしく、ボールペンの遠心力で須玖西尼僧はマンションから転落した!
「そこまでッ! 執筆続行不能! 勝者は高田浩二ですッ!」
ヤスの宣言で屋上に大歓声が上がる!
【高田浩二〇 VS 二藤新人● 決め手:物理絶筆】
「馬鹿な……僕が負けるなんて……それにあの執筆速度……高田浩二、貴様は……一体……なっ! これは――」
二藤は高田のパソコンを見て絶句した!
そこに写っていた物語の文字数――なんと一話につき200文字!
「そうか……そういう事か……一話の文字数を限界まで切り詰めて僕にブラフをかけたのか」
「ああ、そうだ。お前の動揺を誘うために――な」
「待ってください! 高田さん――パソコンの様子が!」
ソリティアの起動と無理な連打と中身の無い投稿を繰り返してしまったためか、高田のパソコンが悲鳴を上げてついに爆発する!
その爆発に――為す術も無く巻き込まれる高田!
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! ――――――――――何ィッ!?」
しかし、彼は無事だった――何故なら高田を庇うように二藤新人がパソコンの前に立ちはだかっていたからである!
「高田浩二……僕はもうどうせ助からない……最期に戦った相手が――お前のような強者で良かった――よ」
二藤は右肩と背中からの出血が原因でショック症状を起こして息耐えた!
「二藤……お前が――――――――お前が自分の為に買ってきたプリン……美味かったぜ」
「高田……クソ。見てるこっちまで悲しくなってくるぜ」
「そうだ。高田を胴上げしよう!」
「そうだな! それがいい!」
落ち込む高田を胴上げする読者達!
「「高田!」」
「「高田!」」
「「高田!」」
「ありがとう皆。俺は……まだまだ強くなる! 勝つには勝ったが……肝心の作品は信じられないくらい中身の無い話になってしまったッ!」
「いいえ、高田さん! 今まで書いた中でそれが一番評価されてます! ブクマ一杯貰えましたよ!」
少しずつ、なろうファイターとして成長する高田浩二!
彼の命がけの戦いは始まったばかりである!
二藤新人の悲劇的な死は、高田浩二に多くの経験と成長をもたらした!
彼の死は決して無駄ではなかったはずだ! 強敵の死を糧に、進め。高田浩二!
次回「もうどうにもならないので異世界転移! なろうファイターになろうッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!」
第四部最終回 律動!
なろうファイト! レディーGO!