第二部最終回 苦悩!
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
自室で高田浩二は叫んだ――叫んでいた!
それもそのはず!
高田浩二がパトカーで護送中の銀竜寺翼斗から課せられていた試練である『異世界転生もの』の執筆。
それが、完全に滞っていたからである!
「なんということだ! 異世界に行くシーンが書けんんんん! トラックに衝突するシーンを執筆するとどう書いても、次のシーンが病院になってしまうッッッッッッッ!」
「…………お困りのようですね」
突然! 何の前触れも無くである! 部屋の窓からフリルの着いた騎士鎧の金髪美少女が乱入してきた!
「なッ! 貴様は一体! (ここは地下二階だぞ!)」
どうやって美少女が窓から入ってきたのか! そもそも何故地下に窓があったのか――誰にもわからない!
「私は銀竜寺翼斗に頼まれて派遣された美少女。テンプル騎士団所属ヤスターレ・フリューゲンス! 略して“テンプレのヤス”と呼んでください!」
(なんだこの美少女は! この異世界に騎士団なんてものが存在していたのか! 恐るべし……なろうファイター!)
テンプル騎士団所属ヤスターレ・フリューゲンス――テンプレのヤス!
騎士団所属は本人の脳内設定! 元はタンクトップ着た筋肉ムキムキのオッサンだったが読者受けが悪いので仕方なしに性転換手術を施した、要するに歴とした元男である!
なのでその『華奢でグラマラス』という一行で矛盾した肉体とは裏腹に、なろうファイトの適性はとても高いのだ!
「高田さん。あなたに大切な事を教えてあげましょう! あなたの新しいパソコンを借りますよ」
「なっ……何をするつもりだ!」
「覇ッ!!!!!!!」
「ああっ!? 凄まじい勢いで話を書き始めたぞ!」
早い! それは異常な速さである! 高速のタイピングでテンプレのヤスは物語を執筆していった。
そして――30分後!
「何イッッ!? 30分で5万字を書き上げたのか!?」
「フフフ。ちょっと勢いを付けすぎて――キーボードが全て剥がれてしまいましたけどね」
(馬鹿な……いくら何でもまともな話になっているわけがない!)
「あなたが何を考えているか、わかりますよ! 高田さん。これを見てみなさい!」
「なっ! こっ……これは! パッと見、物語になっているだとォオオオオ!」
「そう、おきまりの流れという物です!」
これがテンプレのヤスの特技! 御約束死津秘通!
決まり切った物語の展開をちょっとアレンジすることで、似ているけれども細部が違う話を次々量産することが出来る高位の能力である!
「このペースで書き上げれば……一時間で10万字! 三時間で30万字! 後はこの話を無駄に小さく切り分けて定期的に投稿を繰り返せばランキング上位も夢ではありません!」
「そんな馬鹿な事ができるかッ! 読者を馬鹿にしすぎだ! 気づかれるに決まっている!」
「気づかれても大丈夫です! 大まかな流れを真似しているだけです! 文句を言われても無視することで丸く収まります!」
(な……なるほど……! 他の作品を真似して書けばスラスラかけるぞ!)
高田はキーボードの剥がれたパソコンを使ってテンプレートを模倣する!
しかし――
「グオァァアアアアアアアアアア」
――ヒロインを登場させる段階で突然の吐血! 吐血である!
「高田さん。なんてことを! 血でパソコンが壊れてしまいました!」
「だめだ! 俺はモデルがいないと話を書けないんだ! ヒロイン力のある可愛い女の子を探してこないと駄目だ! 存在しないものは書けないッ!」
「わかりました! じゃあ探しましょう!」
「ああ、そうだな!」
こうして、地上に出て可愛い女の子を探す高田浩二!
「助けてください。私は幼女です」
「見ろヤス! 丁度良いところにいたぞ! あそこに幼女がいる! あの娘にお姉さんがいたらひょっとすると可愛いかもしれない! 聞いてみよう!」
「心配は要りません高田さん! 幼女自体がなろう読者達に大人気です!」
「ケッケッケ。待ちなそこのオッサ――ニイちゃん!」
高田の前に男達が現れた!
全員似たような格好をしている!
めがねを掛けていて頭髪は1000円カット!
「あなた達……ワナビですね!」
「何! 知っているのかテンプレのヤス!」
ワナビとは! ワーナー・ビーイング(Warnar・being)の略称である!
その意味は直訳で“警告する存在”!
世界のパワーバランスを調和する神を目指す者という意味である!
「ウヘヘヘヘ、この幼女にアンタは近づくんじゃねえ!」
「助けてください。私は幼女です」
「ワナビと言ったか……お前らそこをどくんだ! その幼女に話を聞かせてもらうだけでいいから! 終わったら幼女は殺すなり犯すなりお前らの好きにしていい!」
「気をつけてください高田さん! やつらの執筆力はなろうファイターに匹敵します!」
高田がヤスの言葉に気を取られた一瞬のうちに、ワナビ達が仕掛けた!
「食らえ! 買ったばっかりの新作ラノベ投げ!」
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「高田さん!!」
200ページ前後のラノベが何百冊も突き刺さり高田の肋骨が粉砕される!
(クソ……同じタイトルの本を何冊も持っているだと! どういうことだ!)
「高田とやら――お前は俺達ワナビには近寄れまい! 食らえ! ラノベ焚書嵐!」
音速と科学的原理を超えて何故か発火したラノベが高田を取り囲む!
「ぐあわあああああああああああああ熱い! ラノベ自体は薄いけど熱いいいいいいいいいいいいい!」
「高田さん! しっかりしてください! こんなところで負けていてはなろうファイターにはなれませんよ!」
『――高田。お前はその程度なのか?』
(銀竜寺……!)
『お前は俺が見込んだ男なんだ! こんな所でへこたれているんじゃあねえぜ!』
高田の脳裏に、銀竜寺との様々な思い出が蘇る!
(ああ――わかったよ銀竜寺……あの世で見守っていてくれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
「お前らの攻撃の謎がわかったぞ! 同じタイトルと内容の本とみせかけて――これらは全て違う作者によって書かれた違う本だったんだな!」
高田の指摘にワナビ達の動きが止まった!!
「なんてことだ……俺達の必殺技の秘密を破るなんて!」
「この男はただものじゃねえ!」
「今です。高田さん! 奴らに執筆力を叩きつけてやりなさい!」
「うおおおおくらえ! 普通の正拳突き!」
何の変哲もない普通の拳がワナビの一人に突き刺さり――メガネがたたき割れて勢い良く鼻がブチ折れる!
痛みに耐えきれずにワナビが嘔吐した!
戦闘に入る前にこっそり食べていたラノベがワナビの胃から逆噴射する!
「なんてことを! ワナビの吐瀉物で幼女が汚れてしまいました!」
「ンギィイイイイボオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
ワナビの胃酸を受けた幼女が突如甲高い奇声を発する!
操られていたその体から和服を着た美青年が飛び出した!
「――よく僕の存在に気づいたね。高田浩二」
「なんだ貴様は!」
「僕の名はなろうファイター二藤新人。お前があの銀竜寺の後釜だと知って執筆力を使って幼女と同化して命を狙いに行ったのに……余計な邪魔が入って捕まってしまったのさ」
そう! ワナビ達は彼を封印するために戦い続けていたのである!
「に……逃げろオッサ――ニイちゃん! こいつには敵わねえ! 俺達はコイツを封印をする為にここでずっと耐えていたんだ! ラノベを読みながら!」
「なんてことだ! お前達は俺を守るためにここにいたのか!」
高田はワナビ達を助けようと飛び出したが――テンプレのヤスに拘束されてしまう!
「クッ! 離せ! テンプレのヤス!」
「駄目です! 今の高田さんでは奴には敵いません! 逃げましょう!」
「逃げるのかい高田浩二? そうはさせないよ」
遠距離から音速で高田に接近しようとする二藤!
しかし! ワナビ達が一斉に二藤新人を取り囲む!
「こいつは俺達に任せな! アンタは早く逃げるんだ!」
その表情は決意に満ちていた!
「……僕の邪魔をするのかい? なろうファイターですらない一介のワナビ達が……」
「心配はいらないさ……ラノベはもう書き飽きて、読み飽きたんだ! 同じ展開にはいい加減飽き飽きしていたところだ……俺達の新しい物語を今お前に見せてやるよ! 食らえ! ラノベ史上崩壊ノ詩!」
ワナビ達が一斉に発光して爆発が広がった!
焦る二藤!
「この威力は……まずいッ。幼女ガード!」
「ワナビ……ワナビィイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
高田はヤスに掴まれ地下に連れて行かれてしまう!
その絶叫だけが虚しく響き渡った!
凄まじい爆風にワナビ達と二藤が飲み込まれ、幼女の体が吹き飛ばされ高田のいたマンションに激突四散する!
「――クソ! いよいよもってヒロイン力のある可愛い女の子を探さなければ……なろうファイトで勝てない……死んでいった銀竜寺やワナビ達に顔向けできない!」
「じゃあ作りましょう!」
「その手があったな!」
バラバラになった幼女の死体を腕力で分子分解させ、高田が緻密な動作でゼロから少女を作り出した!
本作のメインヒロインの登場であるッ!
「俺の名は高田浩二! 君の名前は――ミルミルと名付けよう! よろしく頼む!」
「はい。よろしくお願いします! 高田さん。しかし、私はこの世界で長く生きる事はできないようです。短い時間でしたが…………あなた達に出会えて……私、幸せでした」
ミルミルが砕け散り――ドロドロのタンパク質の塊となって地下二階の地面を盛大に汚した。
「ミルミルウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
「なんてことを! タンパク質で床が汚れてしまいました!」
「くっ……ありがとう……ありがとうミルミル……俺は何て罪深いことを――やはり君のような都合の良い可愛い女の子は現実の世界では生きていられなかったのか!」
高田は涙を流して自分の所業を後悔した。
「だが……俺は書くぞ! 他でもなく! 俺自身の為に!」
高田は多くの物を背負って再びチート能力で机の上にあったスペアのパソコンを吸い寄せる!
「――クソォ! 駄目だアアアアアアアアアアアアア。今度はトラックで主人公を轢き殺してしまったアアアアアアアアアアアア!」
再び執筆で喘ぎ苦しむ高田浩二!
その主人公の行き先はたしかに異世界かもしれないが、惜しいッ!
彼の戦いはまだ始まったばかりである!
涙なしには語れぬ死んでいった銀竜寺との熱き思い出!
それを乗り越えた高田の初執筆! 天に描け! 美しき物語を!!
次回「もうどうにもならないので異世界転移! なろうファイターになろうッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!」
第三部最終回 初陣!
なろうファイト! レディーGO!