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第十四部最終回 寿司!

ここは回転寿司屋!


「よし! 投稿完了だ! なろう用の異世界小説以外を投稿するのは新鮮だな!」


醤油差しを鼻の穴に突っ込み写真撮影!

ツイッターにアップロードしているのは高田浩二!

この物語の主人公である!


(それにしてもまさか回転する寿司屋があるとは……恐るべし異世界! 寿司のシャリが無駄に多いし、サーモンだらけだし握りも弱い。機械が作っているのか!?)


魚介類をばくばく食いながら、黒いスイッチを押し込み沸騰したお湯で丁寧に手を洗う高田!

回ってきた皿を手に取ると乗っていたのは一冊の本!


「なッ! こっ……この内容は! 俺のなろう小説じゃないかッ! なぜ本になっているんだ! こんなゴミのような内容で書籍化するわけがないッ!」


「ククク……その通りだ。久しぶりだな高田浩二」


「その声は……まさかッ!!」


慌てて隣を見る高田!

そこに最初から座っていたのは銀竜寺翼斗!

同じテーブル席なのに、気づくのが遅いッ!


「銀竜寺! アンタ、警察に捕まっていたはずでは!?」


「刑務所長がオレのファンで仮釈放を申し立ててくれてな……それとは一切関係無しに、申し立て中に普通に脱獄してきたのだ」


(もう少し待っていれば良かったんじゃ無いか?)


寿司を食べながら銀竜寺の暴挙に舌を巻く高田!

銀竜寺は醤油にガリを浸して刷毛(はけ)のように寿司ネタに塗りたくり始めた!

実に奇特な食い方だが、これが伊勢海町の一般的な召し上がり方である!


「それで高田浩二……今日オレは貴様に言いたい事があって来た!」


「何だ!? 死刑宣告でも宣戦布告でも殺害予告でも、言いたいことは何でも言ってくれ!」


次の瞬間!

銀竜寺は持っていた味噌汁から、蟹の足を取りだして高田の口に突っ込んだ!


「美味イイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアア!」


「高田浩二! 貴様の執筆は、まだまだ甘いのだ!」


高田のなろう小説を掴んで高田の前に叩きつける銀竜寺!


(俺のテンプレ小説が甘いだと!? ――なら、これでどうだッ!!)


咄嗟の機転でその小説に醤油をぶっかける高田浩二!


「そうだ……それで良い!」


(何だと!? 醤油をかければOKだなんて……頭がおかしいんじゃないのかこの男!?)


銀竜寺は醤油に染まった高田の本を箸で摘まみ上げる!


「先程までは薄っぺらかったこの本……今はもうふやけて分厚い――そう! お前の話は……もっとふやかすべきなのだ!」


衝撃を受ける高田浩二!


「ふやかすだと! それはつまり内容を水増しするのか!? 話を緻密にわかりやすく作るのが大事なんじゃないのか!?」


「そんな目から鼻に抜けるような要らん気遣いが……なろうの読者達に伝わるかッッッッ!」


袋詰めのわさびを空けて高田の鼻に突っ込む銀竜寺!


「グワアアアアアアアアアアアアアア! 鼻からッ! 鼻から目に抜けるうううううううううううううアアアアアアアアアア!!」


「なろう小説にはワビもサビもいらんのだ! 例えばそうだな……お前の作ったこの話の一文を取り出してみるとしよう。……………………おい高田浩二。何故全文、小学生レベルの文体で平仮名表記なんだ!?」


「それが俺の全力だ! これでもあんたが派遣してくれた“テンプレのヤス”のおかげで大分上達したんだぞ!」


高田の異世界転生小説風怪文書を、2時間ほどかけてなんとかそれらしい文章に翻訳する銀竜寺!


『明かされた衝撃の事実に、男は動揺を隠しきれなかった。俺は反応することができなかった。船の揺れが気持ち悪くてそれどころではなかったためである。今まで散々な扱いをされてきた男の養子は怒りを顕わにして、証拠の文章を俺の前に持ってきた。俺個人としては、とっとと船を降りたいのだが……』


「とまあ、貴様の話の一文を要約するとこんな感じになる」


「――なるほどな! こういう物語だったのか!」


「貴様が自分で書いた物語だろうが!! まあいい……。これを書き直して“ふやかして”みせるぞ」





『突然起こった愉快で爽快で豪快で痛快な展開。どうやら彼は太平洋で当たり前のように粗相の無いようにその事件の内容に驚愕した模様。その口の端だけ引きつった表情はまるで業務用。一方俺は船には酔うし話の要旨は男の養子が持ってきた用紙を読んでもさっぱりな状態。きっと今、俺の容姿は最悪なんだろう。下賤な扱いの養子は怒りを顕わにしていて、下船したい俺は船の碇を下ろしたい』


「――――――――――――ラップかッ!!!!!」


食べ終わった皿を、回るコンベアの上に戻しながら呆れる高田浩二!


「いや、これでいいのだ高田浩二! とりあえず言葉遊びを連打しておけば全体量を圧倒的に水増しできる!」


「な……なるほど――特に意味の無い言葉を無駄に付け足しまくればいいのか!」


「その通りだ。そして次は戦闘描写についてだ。結論から言うと細かい戦闘描写など全く必要ない。全部擬音で誤魔化せ」


「し……しかし擬音では何をやっているのかさっぱりわからないぞ!?」


「やかましい! 早速練習だ! 行くぞ高田浩二!」



バキャッ!



「やりやがったな銀竜寺!」



ズバババババババババババのババババババのババババババババババッ!



「中々やるな。なら、これでどうだ」



ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!

シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!




「ぬおおおおおおおおおおおおおお!! 負けてたまるかッ!! これが俺の全力だッ!!」









ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。

ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。

ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。








「よし! 筋がいいぞ高田浩二!」


「なんとなくコツが掴めてきた気がするぜッ!」


二人は、回っていた寿司のチェーンコンベアの上から飛び降りて席に舞い戻る!


「最後の改善点だ。貴様の話は視点変更と背景説明が細かすぎる。視点変更は〇〇Sideで充分だ! 戦闘をしながら試しにやってみろ。オラァ!!」


バキッ!






―――――――――――――高田side



銀竜寺め、なんて鋭い拳だ。これ割とマジで痛いな。

それはさておき、今朝パンダの赤ちゃんが生まれたとかいうニュースが流れたな。

ああいう明るいニュースって最近見ないよな。

人間の興味って言うのは、暗いニュース――要するに、他人の不幸にばかり行くのかもしれないな。

あー、それにしてもここの支払いどうしようかなあ。

お、今殴られた時に視界に映ったけど、どこかで見た女が店の一番端っこで寿司を食っているじゃあ無いか。

涙を流しながら寿司を頬張るって――あの継ぎ接ぎだらけで砂だらけのドレスの女、いままで一体どれだけ飢えていたんだ?

とりあえず、支払いは全部あの女に押しつけるかな。






―――――――――――――銀竜寺side



適当な事を言いながら人をぶん殴るのもいい加減飽きてきたな……。

それにしても、高田のヤツ殴られているとき凄い顔をしているな。

今気づいたがコイツ、ブラックのコンタクトレンズをつけてるのか?

ここの寿司を食べて気づいたが、結構刑務所の飯って美味かったんだなあ――また戻るか?

ところでテンプレのヤスって誰だ?

俺が派遣したことになっているが、そんなヤツ知らないぞ。







―――――――――――――寿司side



俺の名前はたまご寿司。

俺の本体がシャリなのか、たまごなのかはもう考えるのは辞めた。

考えても、意味の無い事だからだ。


「14番テーブルにさび抜きの赤身持って行って!」


「20番テーブルにプリン頼む!」


「おい、誰だ! 皿の上にノートパソコンを置いたヤツは! ぶっ壊せ!」


ここで働いている連中は皆疲れている。

シャリの上にネタを置き続ける仕事なんて、正気じゃ無い。

しかし、他人の事を気にしている余裕なんて今の俺には無かった。


このまま回り続けていると俺は廃棄されてしまう。

回転寿司という存在には“未来永劫の輪廻転生”という概念は無いのだ。


やはり、白身を置いて来ちまったのがまずかったんだろうか。

……まだ食われてもいないのに不味いもへったくれも無いわけだが。


それにしても困った物だ。

捨てられてしまっては何の為にこの世に生まれてきたのか解らない。

せめて誰かに食べて欲しい。


……実は、この店には寿司食い姉さんと呼ばれている有名な女性がいる。

グルメ漫画なら間違いなくメインヒロインを張れるような明るい女性だ。正直、あのくらい良い笑顔で寿司を食ってくれる人に食われたい。

黄身が好きだと言われたい――なんてな。

くだらないジョークだ。寿司ネタである俺の数少ない持ちネタだ。


彼女は丁度、来店していた。

奇跡が起きた。

彼女の手がゆっくりと俺に近づいてくる。

――つくづく俺は、運の良い寿司だ。









「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア」


突如寿司屋に轟く絶叫!

高田の目線の先にはチェーンコンベアに腕を巻き込まれてぐちゃぐちゃに粉砕している寿司食い姉さんの姿!

その体が持っていた寿司ごと粉砕され店中に飛び散り、寿司の上に思わぬ隠し味が追加された!

メインヒロインの食感に高田が戦慄する!


「皆! 気をつけろ! その寿司に手を出したら自分が寿司ネタになるぞ!」


高田の警告をろくすっぽ聞かずに、年寄りの客がキレ始めた!


「うるさいわい! そんなことより弁償せんか、弁償! ワシの頼んだごはんがマグロ丼になってしまったじゃないか!」


「やかましいぞ老害クレーマーが! 蟹味噌の代わりにテメエのスカスカの脳みそを味噌汁にぶちまけられたいのかッ!」


「落ち着け高田浩二! このクレームは正当だ。実際、この肉は単体だとあまり味が良くないな……。これは抱き合わせで食うべきだろう」


そう言って、老害クレーマーに女性の臓器と散らばったたまご寿司を押しつける銀竜寺!


「おお、気違きづかいのできる若者じゃないか。丁度、黄身と肝臓を食べたいと思っていたところじゃ」


銀竜寺はクレーマーを黙らせてから店を一瞥する!

他の客達は何事も無かったように肉片を食べているので何も問題は無い!

異変があったとすればツギハギ砂だらけドレスの女性客が、運悪く体中に肉片を浴びて一人で嘔吐していたくらいである!


「何とか落ち着いたのはよかったが、このまま放っておくと他の客も寿司ネタになってしまうぞ高田浩二」


「ああ。そうなったら寿司本来の味を楽しめなくなってしまう! まずコンベアを回した犯人を捜さなければッ!」


「これはおそらく暗黒なろうファイターの仕業だ……。あのチェーンコンベアの速度……並大抵の電力じゃあ無いからな」


「心配するな銀竜寺! わかったぞ。犯人は――貴様だッ!」


そう言ってコンベアの真ん中に立っていた寿司屋のオッサンに、それまで寿司の味付けとして使っていた盛り塩を投げつける高田浩二!

それを圧倒的棒立ちで回避する寿司屋のオッサン!

行き場を失った盛り塩が、こっそり最初から店の反対側に座っていた二藤新人の、食べる直前のプリンの上にぶちまけられる!


「おのれぇ……高田浩二。何故この寿司屋のオッサンである私が、敵であるとわかった?」






「機械式の回転寿司屋の真ん中に……本物の寿司屋が立っているわけねえだろがッ!!」





「なるほど。流石高田浩二だ。よかろう……寿司屋である私の鍛え抜かれた技術で握られた、極上の異世界小説を堪能するがいい……」


「高田浩二。来るぞ。気をつけろ! あの敵は職人だ。落ち着いて戦え……今こそ俺に執筆特訓の成果を見せてみろ!」


「任されたぜ銀竜寺! いくぞッ!」








次回! 第十五部最終回、『執筆!』

ついに始まる高田浩二と寿司屋のオッサンの超本格的執筆大激戦!

こうご期待!







ついに始まる高田浩二と寿司屋のオッサンの超本格的執筆大激戦!

刮目せよ!

次回! 第十五部最終回、『執筆!』

こうご期待!











人間の『“環境”破壊』について書かれた前作の第十三部『自然』ですが、今回の第十四部と続けて読むと主人公である高田浩二がタイトルの時点でとんでもない奇行に走っているということがわかると思います。


すぐに過去を忘れて同じ過ちを繰り返してしまうのも、また人間なんじゃないかなと思ったわけです。

決して私自身が高田浩二の宣誓を忘れていたわけではありません。

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