第十三部最終回 自然!
※風刺表現強めの回です。
ここは埠頭! 要するに港――海である!
「海は素晴らしいな! 潮風が気持ちいいぜッ!」
そう言いながら海にゴミをありったけ捨てているのは高田浩二!
この物語の主人公である!
高田が捨てた物は以下の通り!
・自分の失敗したなろう作品(読んでもらうために印刷した物、ほとんどがコレ)
・ラノベ三冊(貸していた友人がペストに感染し死亡したため)
・コンクリート詰めにされているドラム缶(中身不明)
・二藤が自分の為に買ってきたプリン(勝手に持ち出し炎天下の中放置したため腐敗)
「高田……。君は一体――何をやっているんだい!」
高田に駆け寄る和服のイケメン二藤新人!
「よお二藤! 何って。海にゴミを捨てていただけだが?」
「駄目じゃ無いか高田!」
二藤は高田の隣に立って、そのまま流れるようにゴミを捨て始める!
立ち上がる水しぶき!
「――捨てるときは、もっとまとめて一気に捨てないとね」
そう言って二藤が高田の家から持ってきたゴミの一部を高田に披露する!
二藤が捨てている物は以下の通り!
・賞味期限切れになって食べられなくなった青酸カリ(買いだめした物)
・高田のなろう作品(晒し上げのために町にばらまいた物の余り、ほとんどがコレ)
・高田の家のゲーム機(中古屋で売れなかったため)
・高田のノートパソコン(特に理由無し)
・高田浩二(高田浩二)
「というわけで、海の中に入ってみて気づいたんだが他にもいろんなゴミが捨てられているんだな!」
そう呟いて浮いているゴミをたぐり寄せる高田浩二!
発見した物は――
『㣺説家になろう!』
「おい! 誰が捨てたか知らんが、これそのものを捨てるのはやめろッ! どういう基準で捨てたんだ馬鹿野郎!」
「それを捨てているのはちょっとどころか、かなり不味い気がするよ……」
「あの……ごめんなさい。ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
突然、高田の隣に水着を着た美女が浮かんできた!
それを咄嗟に上から押さえつける高田!
「クソ! 死体が浮かんできたぞ二藤! 何か重しをくれッ! 多分腐敗ガスが溜まったんだろ!」
そう言って押さえつけた状態で美女の腹部に手刀で穴を開けようとする高田!
「駄目だよ高田。土左衛門に穴を刺したら応力集中で余計に水を吸って浮き上がってきてしまうから逆効果さ。というか、その娘まだ生きてるよ?」
「馬鹿言え! こんな汚い海に入るような人間がいるわけがないッ! 入っているのはゴミだけだろ!」
そう言ってとりあえず自分だけ海から出ようとする高田浩二!
手を滑らせて吸い込まれるように海に落っこちて、浮かんできた美女と激突する!
「ケホッ……ケホッ……。よく私が人間で無いとわかりましたね……私の正体は人魚です。あなた方に頼みがあってここまでやってきたのです」
「調理して欲しいなら他をあたれ! 俺達の専門は人魚ではなく人間だ!」
「いえ違います。執筆を辞めて欲しいのです! あなた方なろうファイターが途中で書き飽きた作品を海に捨てるせいで海の生き物は死に絶えつつあるのです!」
「なんだと! ……“死に絶えるつつある”くらいで済んでいるのか!」
「あの……そこまでとんでもない物を捨てている自覚があるならなおさら辞めていただきたいのですが……」
陸に上がってゴミを捨て続ける高田の前で人魚が縋るように話を続ける!
「私は昔からこの海に住んでいますが今、海は伊勢海の人々に荒らされています。魚は絶滅寸前まで乱獲され海底資源も根こそぎ奪われトドメになろう作品が海を汚染しているのです……深海のお宝も伊勢海の人間に盗まれてしまったし……」
(――――――深海の宝?)
「お願いです! 海だけじゃ無い! せめて他の生き物を――自然をいたわってください!」
「無理だな!」
再び海にゴミを捨てながら即答する高田!
慈悲の欠片も無いッ!
「そもそも人間同士ですら互いを尊重できていないのに他の生き物をいたわる余裕などないッ! いたぶるならいつでも歓迎だがな!」
「あんまりです……この街には他の生き物に優しい人間はどこにもいないのでしょうか……」
「人間同士でも色々あって面倒臭いんだよ。あれを見てみなよ」
ゴミを捨てる二藤が指さした先には、どこにでもいそうな転生前の草臥れたサラリーマンの姿があった!
「ああああああ、蟹ちゃんが……私が毎日面倒を見ている蟹ちゃんがあああああああ……。仕事疲れを癒やすために全力で愛していた蟹ちゃんが……私が愛して護るべき蟹ちゃんが死んでしまったあああああああああああああああああああああああああ!! 蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
「ね? あんな感じで、他の生き物を過剰に愛している人は、それはそれで余裕が無いのさ。僕たちはああいうのが嫌いだから、当たり前のように地球に厳しいんだ」
そう言って、二藤はまるで諭すかのように海にゴミを捨てた!
人魚はそれをすんでの所でかわして話を続ける!
「海が汚れたら大変なことになってしまいますよ。あなた達の子どもや孫が苦しむことになっても、構わないのですか!」
「死に逃げ上等! 『後の世代に負債など残してなんぼッ!』この教えこそが俺達の上の世代から教わった唯一の遺産だ! 実際俺の周りには現在進行形で苦しんでいる奴らが一杯いるぞ! 経済的幸福度指数的な意味でなッ!」
そう言いながら海にゴミを捨てつつ、何故かこちらを見つめてくる高田浩二!
「――というか貴様、何故俺のところに顔を出した!? 他にも海に作品を捨てているなろうファイターなんて山ほどいるじゃあないか!」
「実を言うと他の作品なら私達は我慢できます……。なろうファイター達の、その中でもあなたの作品だけが頭二つ抜けて、余りにも海にとって有害なのです……」
「なるほどね。もしここにヤスがいたらきっと『なんということでしょう! 高田さんの作品で海が汚れてしまいました!』って言っていたんだろうね」
「黙れッ!」
キレる高田!
「そもそもあなたたち、物書きなのでしょう? 物書きなら物語を大切にしないとだめじゃあないですか。作品が海の中で嘆き悲しんでいるのが、私には聞こえます!」
「そんなことを言われてもねぇ……。ここに捨てられている物語はどんなに内容が素晴らしくても誰にも読まれない――なろう基準でいえば本当にゴミのような作品なのさ。誰も読まないから、二束三文にすらならないんだよ」
「いまや伊勢海の町中が安物の物語とその広告で溢れかえっているからな! 自販機に100円玉を入れれば底辺のなろう作品が400個は出てくるぞ!」
「そんなの……そんなのおかしいです。物書きにとっての物語は、魚にとっての鱗のようなものじゃないですか! それを自分からどんどん消費して捨ててしまうだなんて、余りにも可哀想……」
「まあ。魚の鱗と違って、人間の皮膚は垢になった上に最終的には埃になるからね。そういうものなのさ」
「誇りにはならんがな!」
とまあ、あーでもないこーでもないと宣う高田達。
突然、その足下が不意に揺れる!
それからしばらくして、大轟音と共にヘドロの巨大な怪獣が海底から現れた!
「あなた達はついに私の言葉に耳を貸してはくれませんでした……。海が―――この世界が泣いています。汚れた世界と作品の嘆きがあなた達を襲うでしょう!」
そう言ってヘドロの怪獣の元まで泳ぎ去って行くメインヒロインの人魚!
突然の展開にゴミを捨てながら驚愕する高田達!
「なんということだッ! 俺や他のファイター達が捨てた作品が、ゴミを吸収してヘドロの怪獣になろうとは!」
「ヘドロの方が、まだ価値がありそうな気がするよね」
「やかましいッ!」
海から街に上陸するヘドロ怪獣!
慌てて家々から飛び出してくる人々!
「怪獣だ~! 怪獣が出たぞ~!」
「巨大化チート持ちのなろうファイターはいないのか!?」
街中にヘドロ怪獣の怒りの叫び声が木霊する!
「いや~全員転生中で、帰ってこないみたいです」
「しょうがねえなぁ。俺達だけでやるかぁ」
何の気なしに集まった伊勢海町の人々の圧倒的パワーに、全く敵わず素手で引きちぎられてグチャグチャにリンチされるヘドロ怪獣!
痛みに耐えきれなくなったのか、怪獣が地面に膝をつく!
「汚らしい化け物が! とっとと消えやがれ!」
「見苦しいんだよ! 黙ってそのまま海に沈んでろや!!」
痛みから逃れようと必死になってもがき苦しむも、何もできないヘドロ怪獣!
音程を下げた赤ん坊の泣き声のような虚しい悲鳴を上げ続ける!
そして、それをぼーっと見つめながら、のんびりと海にゴミを捨て続ける高田と二藤!
「あ、そうだ。ところで高田さ。今日帰ったらスマブラやらない?」
「爆発物オンリーならやるけどな……お前はタイマンが強すぎるんだよ!」
そして、ついに怪獣が息絶えた!
ヘドロが元通り、綺麗に海に流されていく!
海に流されたヘドロの中から、巻き添えで絶命したのか白目を向いて浮かび上がってくる人魚!
水面から腹だけが浮かび上がっている様は腐った魚の死体そのものであった!
「よっ――とッ!」
その腹の上に最後に残った大きなゴミを放り投げる高田! ゴミは人魚にぶつかって、両方同時に水面に浮かび上がってくる!
二藤は高田と同じように最後のゴミを捨てようとして、不意にその手を止めた。
「…………ねえ高田。もしかすると、あの怪物の登場は海の……地球のサインだったのかもしれない。まるで、大病を患う前兆にかかる原因不明の風邪のような……。ひょっとして僕らはこの世界に対して、今とんでもないことをしてしまっているのではないだろうか……?」
「面白い考えだな! 海という広大な世界からの警笛か。しかし、いくら警告を受けたところで俺達は――――――」
「「大変だーーッ! 釣った魚を食った奴の骨がボロボロになって口から血を吐いて体中の皮膚が溶けてとんでもないことになっちまったーッ! 海を汚しすぎちまったせいだーッ!」」
「……………………………………………………まぁとりあえず、俺はもう自然を汚さず荒らさないと誓おう! そうだな――少なくとも俺は環境を守るために“一生涯魚を食わない!” この海に誓ってな!」
突然、手のひら返した高田浩二の熱い宣誓が鳴り響く!
そう、実は最初から何も心配はいらない!
自分自身に明確な不利益が起きている間だけ、ヒトは他のどんな生き物よりも地球に……そして、世界に優しく振る舞うことができるのだから!
めでたしめでたし!
【あとがき】
“自然破壊”という現代人にとってのスマホゲーのデイリーミッション並みにありきたりなテーマで書かれた本作ですが、作品にゴミというルビが振られているように人によっては“自然”や“環境”の意味を違う解釈で捉えることができたり、海や魚、海に住んでいたという人魚、怪獣と言った存在と高田達の出した答えが、また別の意味を持ってくるようになるのかもしれません。
人が蒔いた種は、今ここにいない人々に育ち戻ってくる。とても恐ろしい話です。
本当にどうでもよい余談ですが作中のス〇ブラの強さの設定は
作者>悪嬢令子>二藤新人>>>>>>>>>>>>>>>>>>シャフィーム>銀竜寺翼斗>高田浩二の順番となっています。
一番強い作者は、世界戦闘力で例えると上から約1%くらいの位置の強さです。
登場しないし、どうでもいいですね。




