第九部最終回 迷泥!
ここはソ連のある寒村ッ!
「お~い! ロシアが攻めてきたぞ!」
「くそっ! もうすっかり日常だぜ!」
「あいつらのせいで俺らの毎日がエブリディだ……畜生ッ!」
南国ではソ連とロシアの激戦が苛烈を極めていた!
一方その頃、伊勢海町のとある地下室でくつろいでいるのは――
「ついに物語が出来たぞ! 名付けて地下室の手記だ!」
35歳の若き高校生高田浩二!
「高田さん。そんな難しい本書いてどうするんです?」
金髪騎士鎧美女テンプレのヤス!
「まあいいんじゃないかな。このくらいの寄り道はさ」
和服イケメン二藤新人!
要するにいつもの三人である!
「脇道に反れてエタるのだけはやめてくださいね!」
「心配は要らないぞヤス! ちゃんとわかっているつもりだ! 異世界物もちゃんと書き溜めしているさ。楽しみにしていてくれ!」
「そんな事は本当にどうでも良くて高田。テレビを見てくれよ」
二藤がテレビのリモコンを弄る!
『今日の天気は晴れ時々、豚と未来人と放射性物質の空模様のようです。残念ながら今日の未来人の死体の中にも我が国家の人間はいなかったようです。それでは次のニュースです。ジェノサイドテンプレーズがついに伊勢海町に対しても宣戦布告を行いました。ロシア側の戦争首謀者である彼等の宣戦布告によって激戦と化しているロシア=ソ連戦争はさらに長引く物と思われます』
「高田はこれを見てどう思う?」
「――なるほどな。…………これは4Kテレビのようだ! しかもなぜかアナログテレビだ!!」
二藤の指示通り! 高田はきっちりとテレビを見ていた!
高田の恐るべき観察眼に二藤が舌を巻く!
「言われてみれば確かにそうだね……!」
「高田さん! テレビのニュースはちゃんと見ていました?」
「いや、全然」
「仕方ないですね。巻き戻しましょう!」
リモコンを弄ってテレビを巻き戻すヤス!
――生放送なのにッ!
『【ジェノサイドテンプレーズ】がついに伊勢海町に宣戦布告を行いました。ロシア側の戦争首謀者である彼等の宣戦布告によって激戦と化しているロシア=ソ連戦争はさらに長引く物と思われます』
「なんだと……【ジェノサイドテンプレーズ】だと?」
「ジェノサイドテンプレーズ……なろうの中で全く主流では無い作品を持ち上げる害悪のような連中のことです!」
「テンプレの臭いがする物は全く受け付けようとしないんだ! 正道から少しずらしたアンチテンプレ作品ですら彼等にとっては粛正対象の過激派集団さ。高田、これは僕たちに対して喧嘩を売っているとしか思えないよ!」
「なあ、一つ聞いて良いかヤス?」
「その質問にお答えしましょう! 良いですよ! 以上です!」
質問に答えるヤス!
「サンキュー! さらにもう一つ聞くぞ! アンチテンプレって何だ?」
「その質問に対しては、先にテンプレの定義からお話ししますね! テンプレという物は時代と共に細かな部分が移り変わるんですけど、主流としては『不遇な環境に置かれているor置かれてしまった主人公』が『力を行使して』、『現実と全く異なる世界の中で活躍していく』パターンが多いのです!」
「ああ、それはよくわかる。最初から実は隠された力的に強いってパターンもあるし、単純にうだつの上がらないヘタレな主人公が後ろ向きになりつつも頑張るパターンもあるよな! 俺自身も割と気弱で軟弱なところがコンプレックスだから、読んでいて気分がいいぜッ!」
テンションが上がったのか地下室の壁に向かっておもむろに正拳突きを放つ高田!
風圧でトンネルが出来上がり伊勢海町の地盤が沈下する!
「アンチテンプレっていうのはそのテンプレから少しズレた作品ジャンルなんです。主人公がサポート役に徹したり、テンプレ作品のお約束を上手くネタとして昇華していたり、どうみても悪役側の陣営についたりとちょっと予想外の展開なんです!」
「おお! そういうのは燃えるというか、わくわくするな!」
「意味不明すぎる作品は敬遠されるから気をつけないとね。まあ、どこまでがテンプレでどこまでがアンチテンプレなのかは人によって線引きが微妙だけど、最近の名作はわりとアンチテンプレの要素が入っているものなんだ。ド正道の話も悪くないんだけど、少しズレてるくらいが読者ウケもいいんだよ」
「俺も参考にしよう! で、ジェノサイドテンプレーズというのは?」
「それ以外のジャンルが好きで尚且つ――テンプレ関連が大嫌いな退廃思想者の集まりです!」
「よし決定――ロシアに殴り込みだ! 俺がその戦争の首謀者をこの拳でぶっ殺す!」
珍しく滅茶苦茶な展開!
ただの高校生ごときの矮小な存在である高田が“ロシアの戦争”に参戦決定!
迷惑極まりないッ!
無理がありすぎる!
流石に現実見ろよ!
高田に呼応するように、勢い良く世界地図を広げる二藤!
「よく聞いてくれ高田。ロシアは中国の先にある。これが地図だ。そして、ここが“中国地方”。伊勢海町から割と近いところにある。ここを通り抜ければきっとロシアにたどり着けるはずだよ」
「結構近いんだな! とりあえず歩きで行くか!」
「いや、小型の航空機をチャーターするよ」
「な――航空機だと!?」
「そうですよ高田さん。中国地方を陸路で行くのは危険すぎますよ!」
中国地方に広がるのは圧倒的な砂漠! 砂漠! 砂漠! その名も凸鶏砂丘!
そう、中国地方は放射能の影響を受けて進化した凸鶏砂丘に取り込まれてしまったのである!
こうして今現在。中国地方は人の住めない危険な土地と化してしまった――まあ……こんなゴミみたいな魔境には元々誰も住んでいなかったが!
ちなみに名所は砂丘に点在する緑の砂地!
どっかのガチな異世界から来たというその緑色の砂に触れてしまうと体内に高速で浸食していく!
その砂に触れてしまった人は(あるいは、もっとひどいことに砂を吸い込んでしまった人は)数日間滅茶苦茶元気になった後に体が100度くらいの高熱を出して死んでしまうのだ!
もし子どもとかがその光景を目の当たりにしたら――きっとトラウマ必須である!
かくして、高田達はソ連に向かうべく、空港にやってきた!
「HYOOOOOOOOOWYWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
バカみたいにはしゃぎ回る高田浩二! それを見て呆れる二藤!
「高田は航空機が好きなんだね。飛行機に乗ると言った瞬間に急に喜ぶんだもの」
「ああ、今まで黙っていたが実は俺。航空事故マニアなんだ! この前の伊勢海ビル旅客機の事故も現場検証を勝手にやっていたくらいだからな! 目撃者として証言VTRも自作したんだ!」
「頼まれていたレバノン料理。作っておきましたよ!」
「でかしたぞヤス!」
準備完了! 飛行機に乗り込む高田ーズ!
機長のアナウンスが聞こえてくる!
『今回機長を務める津井羅籤子だ。何か分からないことがあったら何でも聞いてくれ』
「そうだな――じゃあ手始めにアンタの経歴を聞かせてくれ!」
『私は元軍人でフライト経験は5000時間程ある。副機長は新人だが、大船に乗った気分で空の旅を楽しんでくれ』
高田の質問に自信満々に答える籤子!
(5000時間だと!? 俺のモンハンのプレイ時間よりも短いが大丈夫か!?)
高田は心配しているが、間違いなく楽しい空の旅になる事であろう!
早速離陸開始!
「うぐッ! いきなり船酔いしてしまったッ!」
飛行機で船酔いする高田!
頭がはりさけてしまわないように身をかがめて両手で顔を覆い、そのままじっとしている!
やがてなぜかドイツ人のスチュワーデスがやってきて気分が悪いのかと英語で訊いてきた!
大丈夫! いつもこんな感じだ――と高田は答えた!
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だッ! ありがとう!!」
と高田が言うとスチュワーデスはにっこりと笑ってどこかにいなくなった!
もしかすると、あれが今作のメインヒロインになるのではないだろうかッ!?
作者的には色々ヤバいので、もう二度と登場しないで欲しいッ!
「それで、津井羅籤子とやら! 飛行中のコクピットを見せて貰えないだろうか?」
『申し訳ないが、それはできない。前にパイロットが自分の息子に旅客機の操縦をやらせて墜落した事故があってな』
(流石異世界だ……そんな馬鹿の極みのような事故を起こす奴がいるとは……)
恐るべし伊勢海町! 恐るべし児童操縦!
一方その頃、こちらは飛行中の“別の”旅客機! 乗客はたった三名!
「えぇ……イングヴァードもシリウスも皆優しいわね……私、皆に親切にして本当によかったと思うわ……」
機内の何も無い空間に語りかけているツギハギだらけのドレス着てるツイン縦ロール2Pカラーの娘――彼女の名は悪嬢令子!
彼女はこの物語のメイン――
「だlkdんふぇjfl:うぇfぁぇ」
うるせえぞ!
この喚き散らしている謎の物体はアゾトース!
そう。悪嬢令子は何かよからぬ目に遭い続けたのか精神が完全に崩壊!
完全に自分を見失っており、幻覚に話し掛けるようになってしまったのである!
「……嫌あね。私が前の世界でどんな人間だったかなんて……今となっては――フフフ。どうでも――本当にどうでもいい事じゃ無いの……ウフフフフフフ」
「ンボオオオ……」
精神的に壊れた令子を見て心配そうにギャグボールをくわえて喘ぐのは彼女の仲間であるフランソワ・ピエール。
慰安旅行を提案したのは意外な事にコイツだった!
「やれやれ……今日の乗客は変なのばっかりだな……まともなのは俺だけか……」
コクピットで呟く中年副機長の名はゴロー!
実は只の清掃員なのだが無資格でパイロットに成り済ましている!
『あ、あーゴロー機。聞こえますか。高度の関係でこのままだと籤子機と激突する可能性があるので航行高度を下げてください』
「はいよ。了解」
機長はトイレに行っているので、管制官の指示に従い単独で機体を下降させる副機長ゴロー!
『あ、あー籤子機。聞こえますか。高度の関係でこのままだとゴロー機と激突する可能性があるので航行高度を上げてください』
「了解した」
管制官の指示に従い機体を上昇させる籤子!
そこでようやく――航空管制官が呟いた!
「――あ、やっべ。俺、逆に指示出しちゃった~。俺遺族に殺されるなこれぇ。もう助からないゾ♡」
どうにもならなくなり投げやりになる管制官!
管制官のミスで、
本来下降するところを高田の乗っていた機は上昇!
本来上昇するところを令子の乗っていた機は下降!
こうして――二機は空中で綺麗に大激突!
「クソ! この状況は――――――――――フィクションじゃないのかよ騙された!」
大声で叫ぶ高田!
「なんということでしょう! レバノン料理で座席が汚れてしまいました!」
「まずいみたいだね……このままだと今日の機内食はビーフオアビーフになってしまいそうだ!」
飛行機の壁部分が吹き飛び高田の持っていたノートパソコンとドイツ人スチュワーデスが中空に放り出される!!
(クソッ! とにかく落ち着いて雰囲気だけでも出さなければ!)
《ふぁ~んふぁ~ん プルアップ♪ ふぁ~んふぁ~ん プルアップ♪》
古くさいウォークマンを取り出して準備していた音楽を流し始める高田浩二!
「こんな状況で何をやっているんですか! 高田さん、やめてください!!」
『くそっ! まずい! ローテート!!!!』
コクピットで叫ぶ機長の籤子!
ローテートとは機首が上がっている状態――直訳で回転である!
機長の籤子の抵抗むなしく、地面に垂直に激突する高田機!
5000G(ジェットコースターの揺れの2500倍)くらいの衝撃を受けた高田達の運命や如何に!?
夜勤学者の出番無し。
スチュワーデスのくだりはほぼ原文ママなので多分バレたらやばい。




