第一部最終回 異界!
ここは現代の紀元前199X年!
赤い空が広がるここは伊勢海町、何処にでもある中世ファンタジー風の町並み――とみせかけて普通の現代風の街である! 海には一切面していない!
薄い青色の外套を翻して向こうから歩いてくるのは取って付けたようにこの世界に転移した――今作の主人公である高田浩二!
彼は普通の高校生35歳。最終学歴は保育園中退! 前職業はとりあえず設定盛るだけ盛ってブラック企業のサラリーマン兼ニート!
ここに転移して三ヶ月が経った!
性格は努力を嫌って世間を斜めに見ているタイプである。多分!
虐められた事もあったと思う。多分!
カラコンと髪染めで黒髪黒目をあえて完全再現してあるので、目の焦点が合っていないが完全に今時のよくいるテンプレ主人公――何も問題は無い!
「よし、ついに来たか……なろうファイトの野試合に!」
なろうファイトとは執筆者達の命をかけた勝負である!
時には死者も出る過酷な執筆戦争!
異世界に転移した彼は『なろうファイター』を志すためにここまでやってきたのである!
(噂を聞いて慌てて駆けつけてみたが……外から見ても凄い人数だ。会場が一杯とは……)
「見ろよあれ! 凄まじいぜ!」
「ああ、あれは人間業じゃねえ」
(読者が野試合を見ているようだが……一体何が起こっているんだ?)
会場のテントに入った高田は驚愕した!
「な……なんだあれはーーーーーッ!」
行われている競技はなろうファイター同士の最もポピュラーな勝負――スピードファイト(通称:音速遊戯)!
決まったテーマで同時に執筆を行い投稿!
様々な手段を用いて時間内にブクマとポイントを奪い合うまさに地獄のデスマッチである!
《早い! 銀竜寺選手! 試合開始から四時間が経過したが既に30話投稿! たいしたストレスを読者に与えること無く物語はラスボス戦だーッ!》
《対する炎獄選手も負けていない! 比較的重めの世界観をそれっぽく演出しつつも、なんやかんやいってヒロインを誰一人殺す事無くゴールまで突っ走る!》
白熱した実況者のアナウンスに会場全体のテンションが上昇していく!
そこに広がっていたのは二人の男がスポットライトを浴びながらパソコンを高速タイピングしている異様な光景!
座っている椅子と机は小学生用の物である!
(凄まじい熱気とパワーだ! あの二人はこんな長い時間、なろう用の作品を書いていたのか!)
「いや――ここまでのようだな。見ろ!」
突如立ち上がり対戦相手を指さす全身黒服の男――銀竜寺!
指摘を受けて、読者達が騒ぎ始めた!
「対戦相手が――炎獄が……死んでいやがる!」
《なんということでしょう! 炎獄選手! 前日にハーレム物を徹夜で書いていたからかその疲労が限界に達し、過労で命を落としてしまったァーーーーーーー!! 享年26歳ッ!》
(なんということだッ! 死んでいる男の指から血が吹き出て――キーボードが真っ赤だ! これがなろうファイターの世界か……)
「若くて――愚かな奴だ。なろうファイター頂点の俺に徹夜明けで勝負を挑むとはな……」
銀竜寺が呟き立ち上がる。周囲の読者達の歓声が上がった!
「「ワァァァァァァァ!」」
「「銀竜寺!」」
「「銀竜寺!」」
「「銀竜寺!」」
「「今日の作品! 完成させて読ませてくれよー!」」
「ああ、そのうちやるさ――。そのうち――な」
読者のアオリにクールに返す銀竜寺。
(俺の願望を叶えてくれる男は――アイツしかいない!)
そして、高田浩二は会場の舞台裏に走る! 走る! つっ走る!!
「待ってくれ! ギン・リュージとやら!」
「何だ貴様は……俺の名前を知らないようだな? 俺の名は銀竜寺翼斗!」
(なんなんだそのふざけた名前は!? 俺がいた元の世界なら学校や会社でいじめられていてもおかしくない名前だが……)
銀竜寺翼斗。平行世界のなろうで書籍化作品を連発するまさしく天才のような男である!
実は全てのなろう書籍化作品の半分がこの男の手によって書かれていたのだ(別名義で)!
「あ、ああ――俺の名前は高田浩二! ただの高校生だ! 随分と個性的な名前をしているんだな!」
「実名は佐藤太郎だが、こちらの方が読者受けするのでな……フフフフ……」
佐藤――ではなく。銀竜寺翼斗は不適な笑みで高田を圧倒した!
(なるほど。ペンネームまで読者の事を考えているということか――恐ろしい男だ……!)
「それで高田浩二とやら! この俺に一体何の用だ!」
「アンタに弟子入りさせてくれ! 俺はどこにでもいる気の弱いごく普通の高校生だがッ!! いつかアンタを超えて、最強のなろうファイターになってやる!」
「いいだろう。そう言ったからには貴様。アカウントと作品はあるんだろうな? 見せてみろ!」
銀竜寺にそう言われて、高田はこの世界に転移した時に神様から貰ったチート能力を発動して持っていた鞄をオープン!
ノートパソコンを銀竜寺に差し出したッ!
「ああ! 是非ともアンタに読んでもらいたいんだ! 緻密な世界観と重厚な設定のキャラクターが現実世界で織りなす群像劇――きっとこの世界の若者達はこれを読んで現実世界での不況の辛さを乗り越えていけるはずだ! 俺はそう信じているッ!」
「馬鹿野郎がァァァアアアア!」
両手の拳を組んで振り下ろされるのはダブルスレッジハンマー!
銀竜寺翼斗のなろう作者として鍛えられた執筆力を纏った両拳から解き放たれる圧倒的な破壊力が、高田のノートパソコンを東西南北に粉砕する!
「俺の自信作がああああああああああああああああああああああ! ついでにパソコンも!」
「お前は一生! なろうファイターにはなれない! 未来永劫だ!」
「な……なんだって!」
「結論から言ってやろう! お前の書いた話はゴミ以下だ!」
「馬鹿なッ! 俺が読んでもらおうと丁寧に書いた最高級の作品が……ゴミ!?」
「お前のそんな複雑な作品。今時、何処の読者の読むというのだ! 高尚な読者達は貴様の書いたくだらん話になど目もくれんわ! 読まれない作品はな……存在しないのと同じ事なんだよ! 死ねッ!」
銀竜寺翼斗の拳が高田の鳩尾に突き刺さった!
「グッ…………グオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!」
高田は心身共に打ちのめされ、嘔吐した!
会場に入る前にこっそり食べていたタコ焼きが高田の胃から逆噴射する!
「待て! 警察だ!」
「えっ、何だと!? 人を殴っただけなのに!」
こうして、器物破損と殺人未遂で逮捕されてしまった銀竜寺!
警察に連行されていく最中、野試合の会場を横断する!
「おい! 見ろよ! 銀竜寺が警察に捕まってしまっているぞ!」
「そんな馬鹿な! 銀竜寺はなろうファイターとしては国家暴力に割と耐性があるはずだ!」
困惑する会場の読者達!
「知ってるか? 暴力を振るうと――警察に逮捕されるんだぜ?」
「SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」
銀竜寺の決め台詞に会場は再び大きく沸き上がる!
(銀竜寺翼斗……なんという求心力。――しかし、このままでは、俺はなろうファイターになれない!)
高田が葛藤している間に、パトカーに乗せられ銀竜寺は連れて行かれてしまった!
「銀竜寺イイイイイイァアアアアアア!」
しかし諦めない! 高田浩二は決して諦めない!
全力で加速し、パトカーに追従する!
その脚力は努力によって鍛えられた物であるが――ここではチート能力によって加速したということにしておく!
「クソ! 高田浩二! どうやら俺は逮捕されてしまったようだ! このまま俺の作品執筆で鍛えられた腕力で手錠を粉砕しても良いんだが……逃げてもう一回捕まったら俺の作品の読者のストレスが溜まる気がするので貴様に頼みがある!」
「何だ! 何でも言ってくれ!」
「俺の代わりになろうファイトに出るんだ! 獄中からお前を可能な限りサポートさせて貰う! いいな! まずは原点にして頂点である『異世界転生もの』を書いて執筆力を調整するんだ! 現実からかけ離れた作品で練習しなければ駄目だ!!」
「『異世界転生もの』だと!?」
「何だね君は。パトカーに並走するのは罪では無いが危ないからやめなさい」
「はい、ごめんなさい」
助手席に座っていた警察官に注意されたのでパトカーを見送る高田浩二!
銀竜寺の代理としてなろうファイトで戦うことになった彼の明日はどっちだ!
高田のなろうファイターへの輝かしい栄光の第一部が今はじまる!
次回「もうどうにもならないので異世界転移! なろうファイターになろうッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!」
第二部最終回 苦悩!
なろうファイト! レディーGO!