ブルーレイレコーダーの予約機能
「ちょっとちょっとあなたー!?」
珠美が僕を呼んでいる。何かやらかしたっけな。
「ど、どうした?何かあったかな?」
「聞いてよ!あのね、今度女性向けファッション雑誌で連載をやらないかってオファーがきたのよ」
「すごいね。何の連載?まさか読モとかじゃないよね?」
「は?私は作家よ。読モなわけないじゃない。まだどんな内容を書くかわからないけどまた忙しくなるわ〜」
「オファーがきてよかったね」
「それでね、明日早速、出版社に行って打ち合わせがあるから、明日は朝から出かけるからあなたは子供達の世話と家事、よろしくね」
翌日、珠美は出かけ、未央と真菜はそれぞれ学校と幼稚園に行き、久々に家で一人となった。ゆっくりしようかな‥とは思うけどできないのが現状。新米主夫は大忙し。
掃除機をかけるのは慣れたし、家電の中ではもう友達さ。なんてな‥
僕はトイレ掃除もし、布団を干したりすっかり主夫やってるな。
そういえば最近、洗濯機の1回1回の終わる時間が長引く。40分ぐらいのコースなのに50分以上かかるようになった。こういうこともあるのかな。洗濯機のご機嫌が悪いのかも。
さて、お昼ごはんは何にしようかな?買い物ついでに外でランチしようかな。行きたかった洋食屋があったし。
僕は出かけようとした時、携帯にメールがきていることに気づいた。珠美からだった。
〝13時から私がいつも見ている昼ドラ、録画しといて。頼むわよ″
ってもっと早くに連絡くれればいいのに‥と思ったが2時間も前にメールが届いていた。
僕はスマホを使いこなせないから何年も前から使っている慣れたガラケー携帯で、メールの音も聞こえづらいし壊れかけてるから気づくのが遅れてしまった。
えっと‥録画機能どうやって操作するんだっけ?前に未央に教えてもらったことがある。
あ、なんだか思い出してきたぞ。録画予約したら予定通りランチに行ける時間はあるな。
えっと‥このドラマだな。よし、これで大丈夫だ。
僕は洋食屋でオムライスセットを注文した。中年のおっさんが1人でオムライスだなんて少し恥ずかしいけど、このふわとろの卵は真似したい。未央と真菜がオムライス好きだからこういうの作ってやりたいな。
あー外で食べるのはおいしい。珠美も前に言ってたけど自分が毎日作る料理より誰かに作ってもらったのが一番おいしいって。
まぁ、お店ではプロが作ってるわけだから比べものにならないけど、珠美が言ってたことわかったような気がする。家族のために毎日ごはんを作って、たまには誰かに作ってもらったり外食したくなる主婦の気持ち、新米主夫の僕にもわかるかも。
「ただいまー」
夕方、珠美が帰ってきた。
「おかえりー。ママ、今日は出版社に行ったんでしょ?どうだった?」
「うん。20代の若い子向けのファッション雑誌だから、ラブストーリーの連載に決めたわ‥って未央達に言ってもまだわかんないかな」
「君の得意ジャンルじゃないか。僕も楽しみだよ」
「ありがとう。頼んでおいた昼ドラ、録画してくれた?」
「あぁ。その時間買い物に行ったから、録画予約して出かけたんだ」
「あら、予約機能使えるなんてなかなかやるじゃない」
「まぁね。夕飯まで時間あるから君はゆっくりしてていいよ」
「じゃあ録画した昼ドラ見ようかな。毎日楽しみで見てるのよ。しかも原作は私が尊敬する先生の作品だしね。今日は朝早かったしバタバタしてたから録画予約しておくの忘れちゃって」
珠美はリビングのブルーレイレコーダーの操作をし始めた。
僕は夕飯の支度をやりかけたその時、リビングから悲鳴のような怒号が聞こえた。
「どうしたんだ?今すごい声だったような‥」
「どうしたもこうしたもないわよ!!あなた、昼ドラ撮れてないじゃない!」
「え?そんなはずは‥」
「ちょっと見てみなさいよ!撮れてるのは昼ドラ直前にやってる1分間の天気予報じゃない!あなた、コレを予約してたのよ。ちゃんと確かめなかったの?」
「出かけることが頭にあったから慌ててたんだ。ごめん‥」
「もう!あなたに頼む私もバカだったわ」
「ごめん‥誰かに録画してないか聞いてみるよ」
「本当にあなたって人はどこかぬけてるわね。こんな簡単な操作ぐらい誰だってできるわよ」
久々に珠美からネチネチ怒られた。それは夕飯の食事中もお風呂から出てからもしばらく続いた。そして録画をした人は知り合いに誰もいなかったことを珠美に告げると半泣き状態になり仕事部屋に閉じこもってしまった。