幕開け 夜明けは眩しく
僕は目を覚ました。
ここは病室。
見知った顔が、緊張の面持ちで、僕を見下ろしていた。
やがて一人ずつ、空気の抜けたような顔になって、笑みを浮かべる。
尾瀬。
小鳥遊。
来栖。
南。
大切な、人たち。
いつも待ってくれている、大切な、かけがえのない人たち。
もちろん、見送ってくれる人の存在も、決して、忘れてはならない。
今もこの手に残ってる。
温もりを忘れるな。
僕は身を起こす。
いきなり、南が、しゃっくりした。
いや、違う。
ひっく、ひっく、と南が声を上げる。
南が泣いている。
声を出して、涙を流して。
初めて見る光景だった。
そのまま南は膝をつき、大声で泣き始めた。
僕は、慌てて、南、と声を出した。
すると南は、僕に飛びついてきて、うえええ、うえええ、と泣いた。
そんなにも。そんなにも、心配してくれていたのか。
南の涙が、シャツ越しに肌に触れ、温かい。
ありがとう、南。
僕は、自分の目にも涙が浮かぶのを感じた。
そう言えば、久しく泣いていないな。
そんな思考を最後に。
僕も、大声で泣き始めていた。
怯えるな。
みっともなく感情のままに泣きながら、僕は自らを鼓舞する。
生きることは恥ずかしくなどない。
逃げて逃げて、
妹を、南を、未来を、みんなを悲しませることの方が、遥かに恥ずかしいことだ。
僕の生に意味など無いと思った。
けれど、それは違うと教えてくれる人々。
ずっと教えてくれていた人々。
その人たちを、守ることができるなら。
それだけで、この生にも、意味があるのだ。
生きよう。
この生が、ある限り。
ようやく泣き止んだ頃には、僕も南も、目が真っ赤だった。
二人して笑う。
「隊長ー、お二人は我々のことが目に入っていないようで、ありますよー」
「うむ、小鳥。俺もそう思ってたとこだ」
「我々も泣きますかでありますか、ですよー、隊長」
「慣れねぇ敬語は使うなよ、小鳥」
僕はくすくす笑う。
急に、とてつもなく幸せな気分になってきて、今度は大声で笑った。
「どうしよう、竜平君が情緒不安定でありますよー、隊長」
「やっぱ溜め込んでやがったな、こいつ」
胸を叩いて落ち着かせようとするが、爆発した感情が収まらない。
嬉しくて、嬉しくて、もう一度、南に抱きつきたいとまで思った。
思う存分、笑うと、僕はみんなを見回す。
ずっと、言わなければ、と思っていた。
「ありがとう、みんな」
笑顔が、僕を迎える。
「うぃ」来栖。
「おす」小鳥遊。
「うん」南。
「はい」尾瀬。
それから。どうしても、聞いておかなければならないことがあった。
「未来はどこに? 無事なんだろ」
無事なことは分かっていた。
遙名が教えてくれたから。
「どこに、だって? やれやれ」
来栖が頭を掻く。
「少しはマシになったかと思えば、相変わらず、周りが見えてねぇな、タツ」
言われて、初めて僕は、この病室が薄暗いことに気付いた。
電気は消してあるし、窓も塞がれている。
「駄目だろ、病人の隣で騒いだりしちゃ」
「僕も病人だ」
来栖のからかいに答えながら、僕はベッドから起き上がり、隣のベッドに近づく。
カーテンを開ける。
「ああ、未来――」
未来が眠っていた。
落ち着いた呼吸で、安らかな寝息を立てて。
「まだ目は覚めてねぇんだ。だいぶ疲労してたからな」
けど、と来栖。
「傷はもう完治してるし、末期症状患者への進行もなかった。この子は無事だよ」
未来の手を取る。
温かく、柔らかい手。
「僕が巻き込んだんだ、この子を」
「お前が助けたんだよ、タツ」
来栖の手が肩に置かれる。
「ずっと、お前が守ってきたんだろ」
「僕の、本当の妹は、末期症状患者だった。だから――僕が、この手で、」
「竜平」
南が隣に立つ。
「もういいんだよ、竜平」
優しい声。
「竜平は、あの子の心を守ったんだ」
「よく……話してくれたな」
来栖が驚愕した顔で呟く。
「そんな過去に苛まされたら……俺には耐えられそうもねぇ」
「一人じゃ耐えられなかった」
僕は未来を見下ろした。
微かな笑みを浮かべたまま、眠る未来。
どんな夢を見ているのだろう。
きっと、目覚めへと繋がる、温かい夢だろうと思う。
未来の手を、軽く握り締める。
守るよ、未来。
僕は、君を守る。
一生、日の光に当たれない身体になったというのなら。
せめて、僕が光でいよう。
未来のいる場所が、決して陰らないように。
生きよう。
この生が、ある限り。
生きよう。
遙名の分まで。
三川の分まで。
罪を背負い、闇に覆われ。
それでも、生きていこう。
それが、僕に課せられた、本当の呪いだ。
そして同時に。
それが願いだ。
僕の願いだ。
変わることのない、僕の思いだ。
「一緒に生きような、未来」
皆が見守る、柔らかな空気に包まれたベッドの上。
微かに、未来が頷いたように見えた。




