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生きろ! 赤ちゃん人間  作者: アラスカ4世
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第7話 魔法を使え! 赤ちゃん人間

 拾ったおまる(オリハルコン製)を持って教会に行くのは、赤ちゃん人間の俺にとってかなりの難事業だった。ハイハイで移動しようとすると両手が塞がってしまい、物が持てない。じゃあ二足歩行で教会に行こうとすると、たどり着く前に疲れ果ててしまう。おまるを持った状態であれば尚更だ。


 人類は二本の足で歩くようになった事で手が使えるようになり、道具が生まれ、文明が成立したのだというが、つくづく二足歩行の偉大さを身をもって思い知らされた。


 ハイハイも二足歩行も無理なので、俺は第三の手段を考えた。ヒモでおまるの取っ手と俺の腰を結び付け、ハイハイでおまるを引っ張っていくのだ。


「おぎゃ、おぎゃ」


 運び方を工夫したとはいえ、小さくて非力な赤ちゃんにとって『おまる』は重い。教会まで持って行くのはすごく疲れた。


 教会に辿り着いた俺は、『おまる』にどんな魔法の刻印を刻むのかの選定を始めた。ここでの選択次第で、俺の使える魔法が決まる。『魔法辞典』という本を開いて、読んでみた。


『【スピード】補助魔法。精神と混沌の神カオスの力を借りて術者もしくは対象者一名の運動神経を強化し、素早い反応ができるようにする。足が速くなったりはしない点に留意』


 ……ダメだ。赤ちゃんの運動神経が多少良くなったところで、元々の身体能力が低すぎてほとんど意味がない。肉体を強化する補助魔法ではなく、もっと直接的な攻撃魔法にしよう……


『【インフェルノ】攻撃魔法。火と戦の神マルスの力を借りて巨大な灼熱地獄を生み出す。使用地点の周囲に攻撃対象ではない人間や物、可燃物や爆発物がないか細心の注意を払ってから使用する事』


 ……恐い恐い。試しに使ってみたら村が丸ごと火の海になったりするかもしれない。恐ろしい。だいいちこういう強力な魔法は、使う度に大量のMPが必要になって使い勝手が悪いはずだ。それに辞典に描いてある刻印の見た目も見るからに複雑そうで刻印を彫るのが大変そうだから、やめておこう……


『【ファイヤーボール】攻撃魔法。火と戦の神マルスの力を借りて火の玉を生み出し、攻撃対象に向けて放つ。シンプルで使い勝手が良く、魔術初心者から熟練者まで誰にとっても有用な魔法』


 ……こういうのでいいんだよ、こういうので……


辞典には一つ一つの魔法の刻印のイラストが描いてある。ファイヤーボールの項に載っているイラストの通りにおまるに刻印を施せば、マジックアイテムが完成するはずだ。


 ファイヤーボールの刻印は、大きな丸が一個と矢印、ローマ字の出来損ないみたいな感じの文字が二文字だけで構成されている。シンプルそうだし、俺にも刻めないことはなさそうだ。


 あとは、刻印を『おまる』に刻む必要がある。やり方は、やっぱり本に書いてあった。

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 金属製品に刻印を施す時におすすめの方法


①グタンの木の樹液を水に溶いた物を金属製品に塗る。


②乾くまで待つ。乾くとグタンの樹液で金属の表面に膜が出来る。


③刃物などで膜に刻みたい刻印の形の傷をつける。


④ミョウバンと硝石を混合して酸を作り、金属を酸に浸ける。酸は危険なので体などにかからないように細心の注意を払う事


⑤酸が③で傷を付けた部分を腐食させる。それ以外の部分はグタンの樹液の膜で守られているので腐食しない。この結果、③の部分にだけ模様が出来る。


⑥酸に漬けてから一時間経ったら金属にひまし油を掛ける。そうすると膜がはがれる。完成。

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 これは多分、エッチングという行為だ。地球にも同じようなものがあって、銅版画を作る時などに使われる。問題は材料になる樹液、ミョウバン、硝石、ひまし油だが、なんと全部、教会の中を探していると見つかった。教会の司祭さんもマジックアイテムを作ろうとしていたのかもしれない。水も、ガラス瓶に入った物が見つかった。


 ……使ったら流石に司祭さんにばれるだろうなあ……


 とはいえ、オリハルコンのおまるを紐にくくりつけてハイハイで教会まで運んできた時点で相当目立っているだろうし、なにがなんでも魔法を使いたい。だったら、刻印をしてみるしかない!


「おぎゃ!おぎゃ!」


 まずは①『グタンの木の樹液を水に溶いた物を金属製品に塗』ってみた。おまるの内側の底の部分に塗った。それから二十分ぐらい待っていると、真っ黒な膜ができた。ゴムとか漆みたいな見た目になった。


 次は、この膜に傷を付ける。ファイヤーボールの刻印の形の傷を付ける。道具は、教会にあったアイスピックみたいな形状の道具を使った。本来の用途がわからないが、利用させてもらった。


 そして、金属を酸に漬ける。今回刻印をしたい面は『おまる』の内側の底の部分なので、おまるに酸を流し込むだけでよかった。本来オシッコを貯めておく部分に、酸が貯まった。途中で誤って酸が一滴だけ、教会の木の床に跳ねた。酸のかかった部分からシューッという音がして、床が少し焦げてしまった。


 ……こわっ! こわいよこの酸!!……


 最後は酸を教会の庭の土の上に捨ててから、便器を水でよく洗い、ひまし油を樹液の膜にかけた。膜はポロポロと簡単に剥がれるようになったので、全部剥がした。


 そして、マジックアイテムが完成した。おまるの底の部分には、きれいな刻印が出来上がっていた。


 「おぎゃ! おぎゃ!」


 感動の叫び声を上げてから、早速魔法の試し撃ちをしてみる事にした。


「おぎゃ!」


 火の玉を打つ様子をイメージして、声を出してみる。結果、何も起こらなかった。


「おぎゃ!!」


 もう一回試してみたが、また失敗だった。やっぱり俺には、魔法は使えないんだろうか……


「おぎゃ!!!」


 バババババーン!!!!!


 景気のいい音がして俺の手からサッカーボールぐらいの大きさの火の玉が飛び出した。しかも、五発一気に。空に向けて撃とうとしていたものの威力にびびって向きを調整できなくなり、一発が垣根に命中。垣根は燃え上がり、灰になってしまった。それ以上延焼しなかったのが、不幸中の幸いだった。


 がやがや


 火事が起きた上に景気の良い音がしすぎたので、何事かと思った村人が大勢、こっちに向かってくる。司祭さんもやってきた。


 ……やばい。どうしよう……


 俺は、困惑した。

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