第6話 掘れ! 赤ちゃん人間
俺はアキラ。乳児だ。だから喋れない。だけど魔法を使えるようになりたいので、マジックアイテムを調達しないといけない。俺はマジックアイテムについて書かれた本を読み進めた。
『使いたい魔法に関する情報が何らかの形で刻まれていれば、原理上どんな物でもマジックアイテムになります。一部の魔族や部族連合の魔法使い達が肌に入れ墨を入れているのは、自らの肌をマジックアイテムとして利用するためです』
『とはいえ、どんな物でもマジックアイテムとして適しているわけではありません。食パンに刻印を刻めば一応マジックアイテムになりますが、すぐに腐ってしまいます。それに有機物は基本的に魔力が伝わりにくいので、あまりおすすめできません。できればミスリルやオリハルコンのような魔法金属、あるいは各種の宝石類などに刻印を刻んだほうが、強力な魔法が使えるようになります』
……なるほど。まずはマジックアイテムの素材になる物を集めないと……
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それから一週間、家じゅうを這い回ってマジックアイテムの素材になりそうな物を探した。でもダメだった。せいぜい生活必需品か、価値のない板きれか、食べかすぐらいしか家にはなかった。せめてもっと金属製品とかがあればいいんだけど・
……こうなったら、家の外を探してみるしかないか……
「おぎゃ、おぎゃ」
村の中にも、あまりめぼしい物がない。全体的に木や石ばかりで、金属製品があんまりない。鍛冶屋さんとか、鍛冶場がないと、必然的にそうなるんだろうか。
がっかりしていたら、遠くで何かがキラリと光るのが見えた。
「おぎゃ?」
ハイハイで接近してみると、何かの金属製品が地面に埋まっていた。
「おぎゃ! おぎゃ!」
掘り返してみる。手が小さいから、なかなか能率が上がらない。
「おぎゃ! おぎゃ!」
少しずつ金属が掘れてくる。地面がわりと柔らかくてよかった。
「おぎゃ! おぎゃ!」
金属はほのかに青みを帯びた銀色で、すごく綺麗だ。
「おぎゃ! おぎゃ!」
金属製品の形が分かってくる。丸くて太い筒のような形をしている。取っ手も付いている。酒を飲むためのジョッキか何かだろうか。いや、それにしては大きすぎる。でも飲んべえだったら、こんなに大きなジョッキで酒を飲む人もいるかもしれない。
「おぎゃ!!!」
一時間かけて、どうにか全部掘り出す事ができた。大きくて太いジョッキのような形をしている。
掘り出した物の正体は、家に持ち帰ってからメアリが教えてくれた。
「ねえアキラ、何を持ってるの? これは……『おまる』……かなあ。しかもなんか綺麗に光ってる。こういう光り方をする金属、どこかで見た事があるなあ。そうだ、思い出した。これは『オリハルコン』だ!」
なんと俺は、オリハルコンのおまるを掘り出してしまったのだ!
「すごいよアキラ。オリハルコンだなんて。きっと高く売れる。こんど市場が開いた時に売りに行きましょう!」
「おぎゃ! おぎゃ! おぎゃ!」
がんばって拒否の意志を伝えようとする。オリハルコンは良いマジックアイテムの素材になる。『おまる』っていうのは格好悪いけど、赤ちゃんが持っているとそれっぽくはあるし、手放すわけにはいかない。魔法を使いたい。
「売りたくないんだね。きっと頑張って見つけてきた、思い入れのある品物なんだね。だったら仕方ないかな。アキラが大切に持っていてね」
なんとか、メアリが納得してくれた。ちょっとがっかりしていた。オリハルコンでできているわけだから、きっと高価な代物なんだろう。売って沢山のお金が手に入れば、貧しい農民でも色々な事が出来るに違いない。
でも心を鬼にして、『おまる』は俺が持っていないといけない。そしてマジックアイテムに改造して、魔法を使うんだ。