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生きろ! 赤ちゃん人間  作者: アラスカ4世
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第5話 魔法だ! 赤ちゃん人間

 肺炎になった冬から、半年が経った。俺の肉体は、全然成長しなかった。背も伸びないし、歯も生えない。喋ろうと試みたけれど、上手く行かなかった。食事もずっと、メアリのおっぱいだけだ。まあ食事は今のままでもいいというか、むしろ今のままのほうがいいんだけど。


 ハイハイではなく、2本の足で歩いてみようとした。一応は成功したけれど、一歩ごとに滅茶苦茶疲れる。ハイハイも少し疲れるけれど、その比じゃない。まるで分厚い鉄下駄を履いてハシゴを登っているような感じだった。だから二足歩行はやめて、ハイハイに専念することにした。乳児にとって、二足歩行は疲労の割に合わない歩き方だった。


 最近、俺がいつまで経っても大きくならない事に、メアリや村の人々が怪しみ始めてきた。


「おたくの赤ちゃん、なかなか大きくならないのねぇ」


 中年の女性の村人がメアリに声を掛けたのは、2人が井戸で水を汲んでいる時だった。本物の井戸端会議、というやつだ。


「そ、そうなんでしょうか……」


 メアリにはよくわからない。なにしろこれが、初めての子育てだからだ。


「そうよそうよ。おたくの赤ちゃん、生まれて一年半ぐらい経ってるでしょ。一歳半っていうと、うちの子はみんな歩いたり喋ったりしてたわよ。歯も生えてた」


「そうですか……」


「もし何かの病気だとしたら大変だねえ。最悪の場合赤ちゃんをシメちゃって、そんでもって新しい旦那さんを見つけて、子供を作り直したほうが良いよ。メアリちゃんはまだ若いんだしさ」


「ふええ。シメるってどういうことですか?」


「こういうことさ」


 おばさんは言いながら、首をくくるジャスチャーをした。つまり、子供を殺すのだ。現代の日本では考えられない行為だが、命の安いこっちの世界ではよくあるのかもしれない。


「そんな事言わないでください! アキラはきっと育ちます。立派な子になります」


 メアリが涙目になって反論した。でも残念ながら、育たないんだ。


「まあ、好きにすればいいさ、あんたの問題なんだし。それよりそろそろ、畑仕事を頑張ってくれよ。子育ても大事だけど、麦が取れなかったら子育てどころじゃないからねぇ」


 おばさんは引き下がった。でもこのままだとまずい。最悪、口減らしのために殺されてしまう。


 ……死にたくない……


 肺炎が治った時から、死にたくないという気持ちが湧いてきていた。でも死なないようにするために、何ができるんだろう? 歩くのも難しいし、しゃべる事もできない。いや、そもそも歩けるようになったりしたところで大した意味がない。どうせ殺されてしまうはずだ。じゃあ何があるんだ?


 ……そうだ!魔法だ!……


 前世とは違って、確かこの世界には魔法というものがあるんだ。赤ちゃんに魔法が使えるのかどうかわからないけれど、試してみるだけ試してみよう。


----------------


「わたしが畑に出ている間、良い子にしているんだよ。夕方には帰ってくるからね」


 そう言ってメアリが家から出て行った。でも俺は、良い子にしているつもりはなかった。


「おぎゃ、おぎゃ」


 ハイハイで教会に行く。赤ちゃんにとってはちょっと遠かったし、入り口の階段を登るのも大変だったけれど、なんとか侵入に成功した。


 教会の中は無人だった。司祭は教会のそばの菜園で仕事をしているからだ。ちなみにこの菜園には、麦とか野菜とかじゃなくてハーブやスパイスが植わっている。菜園で獲れたハーブを使って、村の単調な食卓に少しでも彩りを添えるのだそうだ。まあ、俺は母乳しか口にできないから関係ないんだけど。


「おぎゃ、おぎゃ」


 教会の書庫まで這っていった。書庫にはいろんな本がある。というか村でまとまった量の本があるのは教会だけだ。教会の教えに関する本、地理や歴史の本、魔物の情報が書かれた本……色々な本がある。そして、お目当ての魔術書もあった!


「おぎゃ、おぎゃ」


 魔術書を読み進めていく。どれどれ。『魔法というのは世界を司る十二柱の神々に力を借りて、世界を作りかえてもらう行為なのです。なので魔法は、神様を呼び出して(召喚)、具体的なお願いをして(伝達)、それを聞き届けてもらう(要請)、3つの過程に分かれています。どの過程も、声を出して呪文を唱える、詠唱という行為を通じて行うのが一般的です』


 ダメじゃん!俺赤ちゃんだから喋れないし詠唱とかできないじゃん!


 『では水に潜っている時や首を絞められた時などに、魔法使いは魔法を使えないのか。抵抗できずに諦めるしかないのかというと、そんな事はありません。声を出さなくても、魔法を使う方法はあります。マジックアイテムを使うのです』


 やった! やっぱり俺でも魔法が使えるかもしれない!


 『マジックアイテムには杖、指輪、巻物などがあります。魔法陣もマジックアイテムです。一つのマジックアイテムは、基本的に一種類の魔法、もしくは一系統の魔法(どの神様を呼び出すかによって系統が分かれています)を使う時にしか使えません』


 『一種類の魔法しか使えないタイプのマジックアイテムは、どのような魔法を使うのか声に出さなくても神様に伝わるので、声を出さずに魔法を使う事ができます。マジックアイテムを使うと、魔法使いのMPマジックポイントが減ります。魔法の威力は、術者の魔力に依存します』


 『マジックアイテムがあれば、複雑な詠唱をせずに強力な魔法を使う事ができるかもしれません。もっとも、術者が充分な魔力とMPを持っていればの話ですが』


 って事は、まずはマジックアイテムを手に入れるか作るかしないと。といっても赤ちゃんが杖を振ったり、大人向けの指輪を指にはめるのは難しいだろうなあ。

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