第1話 生まれろ! 赤ちゃん人間
「アキラ、おはよう。お乳の時間だよ」
トラックに轢かれ、女神に転生を告げられて意識を失い、次に気が付いた時には女の子の声が聞こえた。視界が、ものすごく巨大な乳房で覆い尽くされていた。巨大な乳房っていってもKカップとかPカップとかがあるわけじゃなくて、乳の膨らみ具合は普通なんだけど、おっぱいそれ自体の大きさがとにかく大きかった。
「おぎゃ、おぎゃ!」
俺は『なんだこのおっぱい。でかっ!!』みたいな事を叫ぼうとしたら失敗して、赤ちゃんの笑い声みたいな声になった。
「いい子だねアキラ。いっぱいお乳を吸って元気になろうね」
俺は言われるがままに桜色の綺麗な乳首に口を近付け、おっぱいを吸った。甘くて美味しい汁が出てきた。きっとこれが母乳だろう。少しぐったり気味だった体が元気になっていくのがなんとなく感じ取れた。
……ってことは、俺は今赤ちゃんなんだろうか。最近のラノベとかでもよくあるからなあ、転生して赤ちゃんからスタートする話。たぶんハイハイとかをしながらだんだんと剣技や魔法なんかを覚えていって、やがて一端の青年に成長するんだ。
でも赤ちゃんってハイハイぐらいしかできる事がないから面倒臭いなあ。どうせならもっと成長した少年か青年ぐらいからスタートしたかったなあ……
そんな事を思っていると急に眠くなってきた。赤ちゃんだから脳が未発達ですぐ眠くなるのかも知れない。そもそも転生してから今まで記憶がなかったのもそのせいなのかも……
とかなんとか思っているうちにすごく眠くなってきて、俺は寝落ちした。
……
「アキラ、おはよう。お乳の時間だよ」
次に目が覚めた時もやはり同じ声がした。視界をおっぱいが覆っている。最初は巨大なおっぱいなんだと思っていたけれど、多分俺が小さいだけだ。己の小ささを噛み締めながら、桜色の綺麗な乳首に吸い付く。美味しい。おっぱいはママの味だ。
オーストリアの精神分析学者ジークムント・フロイトによると、おっぱいはを吸う行為は赤ちゃんが最初に経験する快楽の源であり、これが充分に満たされないまま成長すると口を通じて得る快楽への欲求に異常にこだわるようになるという。そして悲劇的で不信感に満ち、皮肉屋で攻撃的なパーソナリティが形成されるんだとかなんだとか。
「よしよし。いい子いい子」
母親(?)は我が子がまさかフロイトの精神分析学の事を考えているとは知らずに、満足そうに赤ん坊の頭を撫でていた。
そういえば、俺の母親(?)はどんな人なんだろう。そう思って母親の顔のほうに目を向けてみた。
若っ。
最初に感じた事はそれだ。15歳ぐらいの少女にしか見えない。綺麗な黒髪につぶらな瞳。ちょっと小さめの鼻はどことなく日本人っぽく見える(そういえば服とか建物の様子とかはなんとなく西洋っぽい。そして質素だ)。
「あ、アキラがこっちを見た!」
母親(?)がそう言って微笑んだ。可愛かった。美少女と断言して差し支えない。俺はさっき美少女のおっぱいを吸ったんだ!
……でもちょっと複雑な気分だ。こんな小さな少女が俺を育てているなんて。そして俺が生まれたということは子作りをして、妊娠して、出産したんだろう。
ここは現代の日本じゃないからこれぐらいの年齢の女の子が子供を産んだりするのは珍しい事ではないのかもしれないけれど、でもきっと大変だったんだろうなあ……
そんな事を思っていたら、お尻がモゾモゾしてきた。あー、これはウ○コだ……
「おぎゃ!おぎゃ!」
母親(?)の服の袖を引っ張る。
「どうしたの? うんうんが出るの?」
「おぎゃ!おぎゃ!」
首を縦に振ろうとして、失敗した。まだあんまり首がすわってないんだろう。それでもなんとか意味が通じたみたいで、母親(?)はおまるのような容器を持ってきた。
「さあ、うんうんしてねー」
容器の上で肛門の筋肉を緩めた。緑色の小さな固形物が、尻からポロポロと落ちていった。
「よしよし。よくできたね」
母親(?)はそう言って俺の頭を撫でると、容器の中身を持って家の外に出た。どうやら俺は田舎の村のようなところにいるらしい。周りには何軒かのみすぼらしい家と、麦畑と、少しだけ立派な教会っぽい建物と、豚小屋などがあった。
母親は豚小屋に入ると、容器の中身を床に撒いた。
「さあ、いっぱい食べてね~」
ウ○コをブタに食わせるのかよ!
そんなこんなで、異世界での俺の最初の一日は終わった。