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マリアナの女神と補給兵  作者: 月立淳水
第三部 マリアナの女神
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第七章 街角のパブにて

■第七章 街角のパブにて


 街は、お祭り騒ぎだった。

 正統マリアナ政府は、正式に国名を『マリアナ共和国』として発し、大マカウ国の正式な統治代理人認定を得た。


 そのきっかけは、政府軍による不法勢力の掃討完了宣言、そして、最終的には第六市からの撤兵の完了であった。

 大陸に主だった敵をなくした政府軍は、海上戦力の増強を進め、第六市を中心として活動を続けていた海賊勢力を掃討するために第六市に進駐した。


 その成果として、海賊殲滅に至ったのだった。

 殲滅の宣言と同時に臨時体制を解除。

 つまり、終戦宣言。


 そうした明るいニュースは次々と市民の耳に入り、ようやく戦争の無い暮らしが送れる、と多くの市民が歓喜の声を上げた。


 街のパブでは、第六市の掃討戦に参加した兵士は英雄扱いだった。

 第二市のこの小さなパブにも、戦闘帰りの兵士を取り囲む人だかりができていた。


「昔はナントカ騎士団とかって、大きな勢力だったのに、大変だったでしょう」


 一人の夫人が兵士に言うと、


「さてね、なにしろこっちは相手の五倍の数だ、そもそも負けなしの戦いさ」


 と兵士は謙遜してみせる。


「何隻かで取り囲んで一斉に銃撃、しつこいのもいくつかいたが、結局やつら、すぐに白旗さ」


「みんな降参させたんですか!」


 まだあどけなさの残る子供のような顔つきの青年が目を輝かせる。


「そうだな、もう戦争じゃない。犯罪者にはちゃんと罪を償ってもらいたいから、できるだけ傷つけずに捕まえるようしてたのさ」


 自尊心を鼻から吹き出しながら、兵士が答える。


「しかしな」


 彼が付け加え始めると、一斉に注目が集まる。ただの犯罪摘発の話よりは、何かの逸話があったほうが面白いし、いずれ自らの武勇伝のように語ろうと耳を傾けるのに必死だ。


「参ったよ、一隻だけ、凄腕のスナイパーがいて」


「スナイパー」


「ああ。五百メートル以内に近づくだけで甲板の味方がものの数秒でなぎ倒されるんだ。あの揺れる船の上でだぞ?」


「えぇっ。よくご無事でしたね」


「俺のいた艦は運よくその外側にいたからな。だが、あの船相手だけで、百人以上が戦死してる」


 沈痛な表情に、観衆は同情の表情を浮かべる。


「仕方が無かった。あの船だけは、対艦ミサイルで撃沈するしかなかったよ」


 誰もが、はあ、とため息をつく。


「それにしても、二十発ほどまでは対艦ミサイルさえ撃ち落とされたんだよ。それ以降はこっちも闇雲さ。気付いたら、敵の船は粉々になって消えていた。敵とはいえ、むごいことをしたよ」


 名も知らぬ凄腕のスナイパーに追悼の意を表す時間が十数秒過ぎた後、パブは再び戦勝の喜びの雰囲気に沈んでいった。





★★★ あとがき ★★★


 これで、全部完結です。長い間お付き合いありがとうございました。


 シリーズ別作『魔法と魔人と王女様』と合わせてお読みいただいた方にはもうご理解いただけていると思いますが、同作に登場する知能機械『ジーニー』の原型となったのが、魔人シャーロット(のエクスニューロ)です。


 同作では、ジーニーは狂おしいほどに自らの『パートナー』を探し、宇宙のあらゆることを知り尽くそうとします。その欲求は、シャーロットがいつか生まれ変わるアルフレッドを探そうという原初的欲求が姿を変えたものだったのでした。


 本作から約800年を経た同作でも、まだジーニーは本当の目的を遂げていません。『生まれ変わり』というものが本当に存在するのかさえ解明できていません。


 でもいつか、シャーロットが生まれ変わったアルフレッドに邂逅する日を祈って……。



 本作に関わるサイドストーリーや、『魔法と魔人と王女様』との間の歴史、あるいは後世のお話など、考えてみたいことがまだたくさんあります。またそんな話を書きたくなったら、このシリーズでお会いしましょう。



 ありがとうございました。


★★★ おしまい ★★★

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