第七章 魔法使いの秘密
■第七章 魔法使いの秘密
膝をついて震えているシャーロットの前に、アルフレッドはかがみこむ。
「大丈夫か、ロッティ」
凄惨な部屋の有様よりも、シャーロットの具合の方が気になる様子だ。
「うん、大丈夫……ちょっと驚いて……」
「それは……これが、君が予見していた光景だからか?」
「ううん、違うの。でも……ここでたくさんの人が死んだ。死んだ人たちはウィザードだった。それは分かるから。アユムもエッツォもセシリアも……そんな風になるのかもしれないと思ったとたんに頭が真っ白になって……」
それからアルフレッドを見上げて、微笑んだ。
「ありがとう、アル」
「いいや。ここで起こっただろう事はまたゆっくりと調べよう……その、君が、君らしい君に戻ってくれてよかったと思って」
アルフレッドは、言いながらはにかんだ。
まるでエクスニューロに支配されたかのような無感情、無表情だったシャーロットが、そのきっかけが恐怖のあまりだったとしても、人間らしい反応を見せてくれたことがうれしかったから。
「何度も言ったけど、あの頃のあたしも今のあたしも、同じあたし。自分じゃ違いがよく分からないの。でも、アルが安心してくれるなら、良かった」
シャーロットも、遠慮がちな微笑みをはっきりとした笑顔に変えた。
「はいはい、いいところお邪魔するけど、ロッティ、これは何? さっきあなた、ここで何が起こったのかが『分かる』って言ったわね」
「あっ、アユム、ごめん。ちゃんと説明する」
そう言ってからシャーロットは立ち上がり、部屋を見渡す。
「……ここで、たくさん、人が、死んだ。どんな風にか……よく分からない。でも、あたしたちと同じ、ウィザード。あたしの感覚では、たぶん間違いない事実」
「アユム、注意してよく見てみるんだ。彼女ほどの直感を働かせなくても……推定はできる」
一人で部屋の奥まで進んでいたエッツォが、周囲を見ながら戻ってくる。
「血痕……だけじゃない。強化された壁だから傷くらいしか残ってないけれど、弾痕もたくさんある。しかも、あらゆる方向から、ばらばらに。それに、こんなものも」
彼がつまんでいたものをアユムの前に見せる。
それは、小さな機能性プラスチックの破片。
色も質感も、とてもなじみ深いそれは。
「……エクスニューロの、ケースの破片のようね」
「ああ。部屋中にばらまかれた弾丸とエクスニューロの破片と、そして、血痕。間違いないね。ここでは、ウィザード同士が戦っていた。殺し合いをしていた」
エッツォの言葉に、アルフレッドは何も言えなかった。
シャーロットが言った、『ウィザードは皆殺しになる』、それは、ウィザード同士の殺し合いなのか。
しかし、なぜ?
なぜ、仲間同士がこんな凄惨な殺し合いを?
後方で、ドサリ、と音が響く。
振り返ると、セシリアが倒れている。
「……引き上げましょう。解明しなきゃならないことはたくさんあるけれど……」
アルフレッドもうなずく。
そして、セシリアを抱えると、負傷者運搬用の背負い紐ですばやく背中に固定した。
歩き出した彼は、考えている。
エクスニューロとは何か。
ウィザードとは何か。
そもそもミネルヴァとは。
そしてその奥に、もっと恐ろしい魔物がいるのかもしれない。
多くの少女たちを、そして、シャーロットを。
その魔物から救わなければならない。
兵士として生まれて無為に死ぬことを当然と思っていた彼にとって、それに命をかけることはこの上なく尊い命の使い方のように思われた。
★★★★★ 第一部 完 ★★★★★
★第一部あとがき★
第一部、一応の完結です。
ウィザードがどのように生み出されたのか、その核心に指がかかったところですが、さて、核心を引きずり出すことはできるのでしょうか。
次部から、いよいよ、ウィザードに隠された真の秘密、そして、シャーロットの秘密が暴かれます。
その結果、アルフレッドはどのような行動をとるのか。
それでは第二部もよろしくお願いします。




