魔術師と勇者。
「やめろ……」
切なる懇願。
「……嫌よ」
冷酷なる拒絶
「まだ……終われないんだ」
人の願望。
「そう、じゃあゴメンね」
心ない謝罪。
「くそっ……どうしてっ」
失われる希望。
「それじゃあ、サヨナラ」
新たなる絶望。
「ああ、あああああ」
壊れる『心』
「ああああああああああああああああああああああ……」
崩れる『人間性』
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!」
そして……
――――――
群れのリーダーのシルバーファングを殺した後の礼斗の行動は早かった。
両腕を、呪いのかかった禍々しい造形に変化させ、気絶していない残りの二匹めがけて疾駆する。
「フッ!」
身体強化の魔術の効果で礼斗の身体は普段の約1.5倍の移動を可能にする。幾ら野生の獣といえど、魔術師として戦闘を行うために体術も磨かれ、そのうえ魔術で強化された礼斗の移動速度にかなうはずもなく、ただされるままだった。
「ギャンッ!」
「ガッ!」
二匹が同時に悲鳴ともとれる鳴き声を上げた。それと同時に喉元から吹き出す大量の血液。その吹き出し方は芸術に通ずるものを感じさせる。まさに血の雨とはこのことだろう。
礼斗が二匹のシルバーファングの喉元を引き裂いたのはまさに一瞬。残像を後に引くほどの速度で二匹まで近づき、喉元を一気に引き裂く。
その作業自体は至極簡単のように思えるが実際はかなりの技術を必要とする。
元の世界で魔術師として多くの仕事をこなした経験と、禍々しい呪いのかかった礼斗だからこそ、素手での討伐を可能とする。
「ふぅ……」
喉元を引き裂いた二匹が絶命したことを確認すると、安堵したように深いため息をつく礼斗。このため息が示すことは恐らく、獣といえど生き物を殺したことには変わりがないという事実か来る自己嫌悪……ではなく、この呪いを使ってしまった事への後悔だろう。
「クソッ……」
獣の血で紅く染まった両手を見降ろし、今すぐにでも切り落としてしまいたいような衝動に駆られる。
「……とっとと依頼を終わらせて帰ろう」
先ほどまでの苦虫を噛み潰したような苦渋の表情は消え去り、脳内のスイッチを借り換えたかのように、目先の目的を優先する。
「あと2匹」
最初の衝突で気を失っている二匹のシルバーファングに視線を移す。未だに起きる気配のない二匹は、まさか自分たち以外の群れの仲間が既に殺されているとも知らずに間の抜けた表情で地面に這いつくばっている。これから自分たちも殺されることになるとは、文字通り夢にも思っていないだろう。
「これで終わりかな」
ゆっくりと二匹に近づく礼斗。その悠然とした姿はまさに勝者の余裕。自分の勝利を揺るぎないものだと確信し、禍々しい両腕に付着した血液を振り払いながら確実に近づいてゆく死の足取り。その様はまさに死神。生ける者に不吉を伝える死の象徴。今の彼の姿を見る物が居るのならば、誰もがそう思うであろう。
「じゃあな」
そう呟くと同時に、二匹の首筋にその鋭利な指先を手刀として添える。その位置は確実に相手を絶命させる量の血液が噴出する部位。一度そこを引き裂かれればまず助からないだろう。
「フッ……」
小さく吐きだす息。それと同時に思い切り後方へと引き抜かれる手刀。やはりその鋭利な指先はシルバーファングの首を確実にえぐり、致死量の血液を噴出させる。
そして次第に表情からは血の気が引き絶命に至る二匹。鳴き声一つ上げさせることなく命を刈り取った礼斗。まるで制裁だと言わんばかりに二匹から吹き出された血液をその身に受け、全身が血で紅く染まってしまう。
偶然、口元に付着した血液を舐めとる。人間からかけ離れた腕で獣を殺し、その血を舐める様はどちらが本当の獣なのか分からなくさせる。
「うわっ、最悪だ。ジャケットの染み落ちるかなぁ……」
狩りの余韻に浸り、しばらくして口から出た第一声がその言葉。場違いも甚だしく、先ほどまでシルバーファングの群れを蹂躙していた冒険者とはまるで思えないような言動だ。
しかし、ジャケットの大半の部分が血で赤く染まり、シミになっている。基本戦闘時にはこの服しか着ることのない礼斗にとってはかなりの痛手というのもまた事実。
「まあいいや、何とかして落とそう。それよりも部位をはぎ取らないと……」
殺したシルバーファングに近づき、腰からタガーナイフを引き抜いて死体にその刃を入れていく。ギルドでは討伐依頼の場合、たとえ対象を討伐したとしてもその証拠にその対象の身体の部位を何処か一つ持ち帰らなければならないのだ。もしそれをしなかった場合はどんなに困難な討伐だったとしても失敗と見なされてしまう。
「よっと」
ギルド側がシルバーファングと確認しやすい部位。つまりは牙だ。獣の類は基本的に牙や角をはぎ取り、持って帰るのが良いとされている。むろん、その部位以外でも構わないがはぎ取るときに形が崩れたりすると討伐対象とみなされない場合があるのでそこをはぎ取るのが暗黙の了解とされている。
「ハァ、いつやってもこの作業は慣れないなぁ」
と言いつつも滑らかな手つきでシルバーファングの歯茎に刃を入れ、一番大きい牙をはぎ取っていく。なんだかんだ言いながらも三年間この世界で生活しているのだ。気持では慣れなくとも、身体は慣らさなければ食べてゆけない。
――――――
「さてと、これで全部終わったな」
5匹のシルバーファングの牙をはぎ取り終えたことを確認し、腰を持ち上げる。
「これからどうすっかなぁー」
思っていたよりも早く仕事が終わったため時間を持て余してしまった。空もまだ明るい。
そんなことを思っていると、ふと視界に自分が殺したシルバーファングの残骸が映る。
(魔術が使えたらもっと上手く立ちまわれるのにな……)
先ほどの戦闘を思い出す。礼斗は今の自分の戦い方を酷く嫌っている。まずは自らに身体強化を施し、それで切り抜けられないようなら『呪い』の力を使ってしまう。完全に能力に頼った戦略性も何もないただの暴力。魔術師としてこの戦い方は最悪だ。いや、最早これが魔術師であるのかも怪しいところだ。
「はぁ、考えたってしょうがないか。どれだけ俺があがいたところで、状況は変わらないからな」
頭を左右に振り、無理やり己の懸念を振り払う。
「この時間だとまだ何処かで昼飯食えるよな」
なるべく嫌なことを考えないように、他の事をして誤魔化そうとする。
現実逃避をした魔術師は昼食を取るべく、シルバーファングの牙を持ち、街へ向かう。
――――――
「……何だこれ?」
街に着いた礼斗はいつもとは違う住民たちの雰囲気に疑問を感じていた。といっても、悪い雰囲気というわけではない。いつもより街が活気で溢れている。寧ろお祭り騒ぎと言ってもいいだろう。
野菜を売っている店のおばさんは仕事をほっぽり出してお客の人たちと大きな声で何かについて談笑している。武器や防具を売っている鍛冶やの店主は自分の店の売り物と思われる武器を両手で持ちながら大声で叫び、それを見ている人たちは止めるわけでもなく、寧ろ笑って声援を送っている。
「俺が依頼を受けている間に何があったんだ?」
事の真相を確かめるべく礼斗が向かうのはギルド。討伐依頼完了の報告の事もあるし、何より情報を手っ取り早く仕入れるならあそこが一番だ。思い立ったが吉日。礼斗はギルドへ足を急がせた。
「本当なの? その話?」
「間違いないって! さっき兵士も話しているのをきいたんだ!」
「でも本当なら凄いなあ、まさか勇者を召喚」
雑踏を駆け抜けていくなか、誰かが言った単語が礼斗の耳に入ってきた。
(勇者?)
ギルドを目指しながらその『勇者』という単語について色々と思考を巡らせる。
(勇者を召喚? どういうことだ? 俺のように他の世界から呼び寄せられた奴が他にもいるのか?)
リーンセフィアに来てから三年。そのような話は聞いたことがない。色々な文献も漁ったが勇者を召喚するなんてことはどこにも書いていなかった。
どこか腑に落ちないものを感じていたが、それ以上に突き止めなければいけないことが出来た。
(俺がとばされたときと違って、正規の召喚方があるのならきっと、正規の帰還方法もあるはずだ)
三年間、どれだけ探しても見つからなかった元の世界へ変える方法。それが今分かるかもしれない。そう思っただけで礼斗の足は自然と早まり、呼吸が早くなるのを感じた。
そのことで頭を埋めつくされ、気付けばギルドの目の前。思考に集中しすぎて危うくギルドを通り過ぎてしまうところだった。
「シルフィアさんっ!」
ドンッ! と、ギルドのドアを乱暴に開け放ち、中に入るなり顔見知りの受付嬢の名前を大声で呼ぶ。しかし、その声は彼女には届かない。その代わり礼斗の視界に入り込んできたのは、ギルドの中にまで繁殖している人ごみだった。これだけの量の人々が一斉に会話をしていれば大きな声で名前を呼ぶ程度では相手に声は伝わらないだろう。
「クソッ」
目の前の雑踏に若干のイラつきを覚えながらも、人ごみをの隙間をかき分け、黙々と雑踏の中を進んでゆく。
「ゴフッ……く、くるし……」
雑踏の中に飛び込んだとたん四方から押しつぶされそうになる礼斗。肺が圧迫され、呼吸することもままならない。
人ごみの中をかき分けてゆく途中でも礼斗の耳に入ってきたのは勇者という単語。このギルドないの誰もが口をそろえて勇者という単語を口にし、喜びの言葉を贈る。
しかし、レイトにとっては勇者が何のためにこの世界に来たのかなんてことは至極どうでもよい。彼が知りたいことはただ一つ。三年間かけて探した元の世界への帰還方法が存在しうるのかと言うことだ。
「はあっ……はあっ……はあっ」
人と人との間に押しつぶされそうになりながらも何とか雑踏の中を脱出し、受付の目の前まで出ることができた。辿り着いたころには既に干からびた雑巾のような状態になっていたとか。
「あら、レイト君? もう依頼は終わったの?」
そんなぼろ雑巾のような状態の礼斗に声をかける一人の女性。このギルドのベテラン受付嬢、シルフィアだ。
「あ、はい。ちゃんと討伐してきましたよ」
そういって礼斗が取りだしたのは革袋。中には5匹分のシルバーファングの牙が入っている。
「どれどれ……」
革袋を受け取り、中身を確認するシルフィア。依頼された内容のシルバーファングの牙を確認した彼女のは驚いたように声を上げ、礼斗に言った。
「凄いじゃないレイト君! やれば討伐依頼もちゃんとこなしてこれるのね。しかもこんな短時間で!」
「あはは、まあ……って、そんなことじゃなくて!」
礼斗が薬草以外の依頼を受け、尚且つちゃんとこなしてきた事が余程嬉しいのか、まるで話を聞こうとしていない。いや、聞こえていないと言った方が正しいのかもしれない。
「それじゃあまずは依頼の報酬金ね。今回の討伐報酬は……」
「シルフィアさんっ! そんなことより俺の話しを聞いてくださいよ!」
「もう何よ! せっかくレイト君が真面目に仕事してきたんだから、少しくらい喜びの気分に浸っていたっていいでしょう?」
「何で俺がニートみたいなイメージ持ってるんですか!」
「だってそうでしょう!? ギルド《ここ》に来れば適当に簡単な低ランクの依頼ばかり受けて、自分のランクを上げようとしない。穀潰しもいいとこだわ!」
「ぐっ、言い返せない……」
実際、シルフィアの言う通りなのだから言い返すこともできない。このギルドに来てまともに依頼らしい依頼を殆ど受けたことがないレイトは、シルフィアからしたら親の脛かじりのようなものだ。礼斗自身もそれを自覚しているのでこの話を持ち出されては頭が上がらない。
「まったく。で? 私に聞きたいことって何なの?」
声に若干のイラつきを含み、ぶっきらぼうながらも礼斗の話を聞こうとする。
やっと自分の聞きたいことを聞けるような状態になり安堵した礼斗は思わず机から身を乗りだした。
「勇者! 勇者ですよ!」
「え、ええそうね。勇者様が召喚されたらしいわね。って、ちょ、ちょっと近いわよレイト君」
若干頬を紅く染めたシルフィアは、眼前の礼斗の顔を両掌でグイッと押し返す。
思い切り身を乗り出していた礼斗の顔はシルフィアの顔と数センチの距離まで間隔を狭めていた。礼斗はそんなこと気にする余地もなかったが、シルフィアは女性。彼女からしてみれば一応男性の部類に入る礼斗の顔がいきなり目の前に迫ってきたのだから、驚き恥じらうこともあるだろう。そこに恋愛感情があるかどうかはまた別としてだ。
「あっ、すいません。つい」
当の本人はそんなことは露知らず、自分の目的を果たすため、シルフィアの顔が紅潮した理由も考えずに、カウンターン乗り出した身体を地におろし引続き勇者に関して彼女の持ちうる情報を聞き出そうとする。
「で、勇者のことなんですけど」
「ええ、王宮で召喚の儀式が行われたようね」
「王宮で、ですか?」
「そう。王宮の儀式の間で行われたらしいわよ」
「ぎ、儀式の間?」
聞きなれない単語を耳にし、思わず首を傾げる動作をとる礼斗。その様子を見て、さらに不思議そうな表情を浮かべるシルフィア。
「もしかして...礼斗くん、勇者の言い伝えを知らないの?」
知っていて当然と言わんばかりの口ぶりに礼斗は額に汗を滲ませつつ、悪くもないのに申し訳なさそうな声で絞り出す。
「どうしよう……全く知らない」
「あのねぇ、いくら礼斗くんが他のくにから来た人だとしても、このくにの伝承くらいは知っていてもいいんじゃないかしら?」
まったく、と言わんばかりに肩をすくめながら、呆れたような仕草をとって礼斗に視線を向ける。しかし、この事に関しては礼斗も黙っていなかった。
「待ってください、俺はこれでも訪れた土地のことはちゃんと調べているんです。勿論、この国も例外じゃなく。でも、どの歴史書や伝承に関する本を読んでも『勇者』何て単語は一切出てきませんでしたよ」
まるで、自分が何も調べずにただこの国でのうのうと怠惰な日々を送っていたような言い方をされ、反論する。
まぁ、実際怠惰な日々を送っていることに変わりはないのだが。
「まぁ、仕方ないのかもしれないわね。勇者の伝承はあまりに昔のことだから何か書物にして残そうにもどんな物語だったかなんて分かったもんじゃないし、今となっては幾つのも話があってどれが本物か誰も分からないでしょうね」
「そんな……」
自分の知らなかった事実に驚きを隠すことができない礼斗。もっとよく調べなかったからだと言われればそれまでだが、それでも二年間何か手掛かりはないかと探し続けていたのだ。落胆もしたくなるだろう。
「それにしても」
落ち込んだ礼斗などお構いなしに話を続けるシルフィア。しかし今の彼の耳にはよほどの話でない限り入っていかないだろう。
「私も勇者様を見に行きたいな~、仕事が仕事がなければ行っているんだけど……」
「そうですね、ハハ……ん?」
完全に話を聞き流そうとしていた礼斗だったが、シルフィアの一言に反応する。
「えっ、どういうことですか!? 勇者を見に行くって!?」
「レイトくんそれも知らないの? パレードよ、パレード」
「パレード?」
「そ、勇者様が召喚されたからそのお披露目をするんですって。街中で兵士の人たちが言って回ってるじゃない」
「それじゃあ……」
何か掴めるかもしれない。そんな考えが礼斗の脳裏をよぎる。同じ召喚されたものとしても事情を話せばもしかしたらその召喚方や帰還方も知ることが出来るかもしれない。
「お、俺ちょっと行ってきます!」
こうしてはいられない言わんばかりにギルドから駆け出す礼斗。それを見たシルフィアが慌てて呼び止めようとする。
「ちょ、ちょっと! 依頼の報酬と換金はどうするの!」
「全部あげますよ!」
「ええっ!?」
クエストの報酬なんてどうだっていい。今はそんなことより会いに行かなければならないのだ。二年間探し続けた答えがここにあるかもしれないのだから。
―――――――
「甘かった……」
パレードが行われると聞いて来た街の中央通りについた最初の感想がそれだ。それもそのはず、誰だって勇者は見たいのだから礼斗が来るよりもずっと前からこの場所で待機している人たちがたくさんいるのだ。
溢れかえらんばかりの人人人……
その光景を目にしてただただ後悔の念に押しつぶされそうになった。
「ああくっそ! もっと早く知っていれば!」
自分の情報収集不足を呪うが、いつまでもそんなことをしている場合ではない。これからどうするか、次のことを考えなくてはならない。
「マジでまずいなあ、このままじゃ人が多すぎて召喚方や帰還方はおろか、まともに勇者と話もできないぞ」
一人でぶつぶつと考え事をしている礼斗をはたから見れば完全に怪しい不審者になっている。
そんなことも気にせず、考え続ける彼だったがそんなとき、周りから凄まじい量の歓声が耳をついた。
「勇者様!」
「勇者様よ!」
「本当に召喚が成功なされたんだ!」
どこもかしこも聞こえるのは勇者召喚を喜ぶ声。誰もが喜び誰もが希望の言葉を口にする、奇跡の象徴勇者。その姿がついに見られるのだ。
「おいおいなんだありゃ」
勇者を見て、正確には勇者の乗っている馬車をみて出た感想がそれだった。馬四頭で率いる巨大な構造に、まさに勇者が乗るにふさわしいような装飾がなされている。その上にたたずむ三人の少年少女。
(ん? 勇者と聞いていたから一人だと思っていたけど三人なのか?)
目を細め、遠くで手を振っている勇者の顔を見ようとするがいかんせん人混みがじゃまで中々見ることができない。
「もう少し前に行ってみるか」
人混みをかき分け、どうにかして前に進もうとするが、中々進ませてはくれない。
「おいボウズ、邪魔すんなよ!」
人混みの中をかき分けていく途中で体が当たってしまった中年男性に声をかけられる。しかも見た感じ中々勇者が見れずにイライラしている感じの人だ。
「あ、すみませんどうしても勇者様が見たかったもので」
面倒なことにはなりたくなかったのでここは勇者をおだてて何とか相手の怒りを収めようとする。
「おお! やっぱりお前さんもそうか! そりゃ一度でいいから勇者様を拝んでみたいもんなあ」
「はい、そう思って来たんですけどこのありさまで」
「まあこの人ごみじゃあな……どれ、ちょっとこっちに来いボウズ」
「はい?」
自分の方へと手招きをする男性。言われた通り、近くによるといきなり礼斗の両脇を掴んで持ち上げた。
「ちょっと! なにするんですか!」
「ハッハッハ! どうだ、これで少しは見えるんじゃないか?」
かなりしっかりとした体つきをしている男性は軽々と礼斗の体を持ち上げるが、彼にとっては恥ずかしいことこの上ない。男性からすればただの親切心なのであろうが。
「まあでもこれで勇者の顔くらいは……」
そう思った矢先、件の勇者と偶然目が合ってしまう。
そして出てきたのは言葉は―――
「なんであいつらが……天也が!」
「れい、と?」
勇者の顔を直視して動揺する礼斗。まさか召喚された勇者が地球の三年前のクラスメイトだとは誰も想像できいだろう。
「ッ! すみません!」
慌てて兵士馬に乗る兵士に声をかける天也。
「はい、何でしょう勇者様」
「あの宙にぶら下がっている黒髪の少年をを捕まえて下さい!」
「え、でも……」
「早く!」
「わ、分かりました!」
「え、っちょ! なんでそうなるんだよ!!」
「おいボウズ、お前さん何かやらかしたのか?」
「んなわけないでしょ!!」