しち
次の日、少年はいつもよりも早起きをして、家の庭に向かいました。
ほとんどのお花や木や葉っぱたちは寒さのため眠っていますが、雪降る季節にもきちんと起きている植物もいます。
住んでいる家の庭にも起きている植物がいることを彼は知っていました。
とげとげしている葉っぱを二枚と真っ赤な実を二つ。
無駄に多く取ってしまうのはよくないので、必要な分だけを摘んでポシェットの中にいれます。
「よし、これでいいかな」
用事を済ませた少年が家に入ろうと取っ手に手をかけようとしたところ丁度良く扉が開き、驚いて見上げると老人と目が合いました。
何故か険しい顔をしたまま立っています。
「おじいちゃん、どうしたの?」
もしかして何かいけないことをしてしまっただろうか、と不安になりながら少年は訊きました。
しかし、老人はすぐに答えることをせず「風邪を引いてしまうから」と先に家の中に入るように促しました。
本当はすぐにでも聞きたかったけれど、とても口に出せる雰囲気ではなかったため大人しく言う事をききます。
「樹、昨日はお姫様の所に行ったと言っておったな」
イスに座り、温かいミルクを飲むと老人がやっと口を開きました。
少年は正直に頷きます。
きちんと老人に言ってから傍を離れたため、前回と違い怒られることはありませんでした。
それどころか、どんなお話をしたかなどを夕食の時間に老人に教えたくらいです。
だから、そんな怖い顔をされる理由がわかりません。
「おじいちゃん、なんで怒ってるの……?」
恐る恐る訊ねると、老人は険しい顔から困ったような顔になりました。
「すまんすまん。怒っているわけではない」
無暗に怖がらせてしまったことを謝り、老人は少年の頭をぽんぽんとたたきます。
けれど余程怖かったのでしょう。少年はまだ不安げに老人を目だけで見上げます。
嘘を吐いているとは思いませんが、どうしても先程の表情が気になるのです。少なくとも、何でもない顔ではありませんでした。
老人はそんな少年を見て頬をかくと、一つため息を吐いてから言います。
「樹、今日はお姫様に会いに行ってはいけないよ」
「なんで?」
「お姫様が風邪を引いてしまったらしい」
理由を聞いた少年は目を見開きます。
昨日会ったとは具合悪そうに見えなかったため少年はとっても驚き、そして心配しました。
「大丈夫っ?」
「少し長引きそうだ、とのことらしい」
だから当分の間、会うことは出来ないかもしれない。
そう老人が伝えると、少年はしょんぼりと俯きました。
「そっか……」
本当は会いたくて、会いに行きたくて仕方がありませんでした。
けれど、風邪を引いている少女の元に行けば、悪化させてしまうかもしれないと考えると我が儘も言っていられません。
途端に元気を失くした少年を見た老人は、今度は少し力を入れて頭をはたきます。
ぱちんっ
と気味のいい音が聞こえました。
「おじいちゃん、いたいよ」
はたかれた場所を押さえながら、恨みがましそうに見てくる少年に老人は悪びれた様子無く言います。
「そんな情けない顔しているのが悪い」
男ならしゃっきりせい、と叱られ、少年は渋々「はーい」と返事をするのでした。