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 目を覚ました少女は、ぼんやりと天井を眺めた後にため息を吐きました。

 今日もまた、代わり映えのない一日の始まりです。


「失礼いたします」


 そう言って部屋に入ってきたのは、物心ついた時には既に出入りしていた侍女という人。

 少女にとっては、食事を運んで来てくれて、部屋の掃除もしてくれる人です。


 しかし、会話らしい会話もしたことがないため、仲が良いかと聞かれたら答えに窮してしまいます。


「おはようございます、姫様」


「おはよう」


 挨拶をした侍女は、手に持っていたトレイをテーブルの上に置きました。

 ベッドから出た少女は、とてとてと歩いてテーブルに近づくと丁度良い高さのイスに座ります


 目の前に並ぶのはパンとスープとサラダ。

 質素のように思えるかもしれませんが、あまり食べられない少女はこれで十分です。

 それに、少ないながらも栄養のバランスはしっかりしていました。


「いただきます」


 胸の前で手を組み、並べられている料理の元となった作物や動物に感謝を込めて言います。


 少し冷めているスープは猫舌で熱いものが苦手な少女にとっては丁度よく、まず初めにスプーンで少し取って口に含みました。

 野菜の甘みと、お肉の旨みが広がり、寝起きの彼女の食欲を刺激してくれます。


 焼き立てだろうパンはまだ温かく、一口大にちぎると中から湯気が出てきました。ふんわり、少しもちっとした食感がたまりません。

 一口、もう一口と手を動かして口に運んでしまいます。


 しかし、一つだけをずっと食べるわけにもいきませんから、きちんとサラダにもフォークを向けます。

 レモンの風味がきいたドレッシングも、さっぱりとしたものを好む少女にとってとても美味しいものでした。


「ごちそうさまでした」


 最初と同じように胸の前で手を組み、今度は料理を作った人や、作物や動物のお世話をしてくれた人々に感謝を込めて言いました。


 少女がすべての料理を食べたのを確認すると、侍女はトレイにからになった食器をのせ、「失礼いたします」と来た時と同じ言葉を言って部屋から出ていきました。


 また一人きりになった部屋で、イスに座ったまま少女は俯きます。


「ひま……」


 この部屋にはあの侍女以外、誰もやってはきません。

 少なくとも彼女が覚えている限りは、今まで誰も来たことはありませんでした。

 理由を訊いたことはありませんでしたが、それが彼女にとっての普通です。


 しかし、暇なものは暇ですし、退屈なのは退屈なのです。


 かといって部屋から出ることも禁じられている少女は、絵本を読んだり大きな窓から外を眺めて退屈な日々を過ごすしかありませんでした。


 そう、今までは。


 こん、こん……こん、こんこん……


 どこからか、ノックのような音が聞こえました。


 一瞬、ドアの方を見ましたがそんなことはあり得ないと首を傾げます。

 そもそも聞こえる音はドアを叩いた音とは少し違います。


 耳を澄ませ、イスから立ち上がると少女は音が大きくなる方へと歩いて行きました。

 一番大きく聞こえるところで立ち止まると、目の前にはカーテンを閉めた大きな窓があります。


 やっと音の正体の鍵を見つけた少女が、ゆっくりとカーテンを開けると……


 そこには昨日少しだけお話をした少年が立っていました。

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