よん
老人の話を最後まで聞いた少年は首を傾げました。
「魔法使いを退治しないの?」
悪者を退治したらお姫様の呪いは解けるのではないだろうか。
そう思って少年が訊ねてみるものの、老人は首を横に振ります。
「いいや、呪いというのはかけた本人に何かしたところで無くなるものではないのだよ」
そもそもあれ以来、魔法使いを見たものは誰もいません。
お姫様の呪いを解いてもらうために探そうとしても、ふらりとやってきた魔法使いを探す当てなどなかったのです。
少年は、少し考えるように俯いた後に言いました。
「僕がお姫さまに会うのはいけないこと?」
誰も部屋に入ってはいけないというのならば、もしかしたら彼女に会うことすら駄目なことだったのかもしれません。
自分はいけないことをしてしまったのだろうかと不安になります。
もし駄目だったのなら、あの場で怒られていたことでしょう。
しかし、思い出してみてもあの時怒られたのは勝手に傍を離れたことについてだけです。
戸惑いを浮かべた顔で見上げる少年に、老人は静かに首を振りました。
「いいや、そんなことはない」
その一言に目を輝かせます。
友達になるのを諦めなくてはいけないとばかり思っていましたから、少年にとってとても嬉しい言葉でした。
「ほんとう!?」
「嘘など言いやせんよ」
イスから立ち上がり、お行儀悪くテーブルに身体を乗り上げて詰め寄る少年を見て、いつもなら怒る老人は苦笑してしまいます。
好奇心が強く活発である少年ですが、普段はぼんやりとしている子でした。
自分が気になったこと、興味があることに対してだけ、こうして興奮したようにはしゃぐのです。
その姿が珍しいものだとわかっているだけに強く言えません。
少年はそんな老人の顔に気が付かず「やった!」と純粋に喜びました。
しかし、老人が「けどなぁ……」と続けたことにより、ピタリと動きを止めます。
恐る恐る見上げると、真剣な顔をした老人と目が合い、少年もまた表情を引き締めました。
「約束事をしっかりと守れるのだったら、の話だ」
部屋に入ってはいけないのはもちろん、外に出るように促すこともしてはいけない。
無理強いすることなどもっての他。
「仲良くなることはいいことだ。きっと姫様にもお前にも良い刺激になるだろう」
老人の言葉に少年はにっこりと笑って「うん!」と頷きます。
近くに同い年くらいの子供がいないため、今までは大きなお兄さんたちに遊んでもらうか、おじいさんと過ごしてばかりでした。
彼にとって年の近い子とお話出来るということはとても嬉しいことなのです。
「明日もお城に行くが、樹はどうする?」
「一緒に行く!」
訊ねられた少年は元気よく返事をしました。お姫様に会えることが楽しみでなりません。
老人はそんな孫の様子を見て、頬を緩めるのでした。