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少女と別れた少年は急いで声のする方へ走りました。
「いつきやー、どこへいったー」
「おじいちゃん、ここだよ!」
はぁはぁ、と息を上げながら少年はその背中に声をかけます。
老人は後ろを振り向き、孫である少年を見て安心したように笑うと、そのまま右腕を振り上げて少年の頭にゲンコツを落としました。
「いだっ!?」
あまりの痛さに、少年は頭を押さえて老人を下から睨みあげます。
「おじいちゃん、痛いよ」
「わざと痛いようにしたからの」
恨めしそうな顔で文句を言う少年に頓着せず、老人はあっさりとそう言いました。
「勝手にそばを離れてはならぬと言ったであろう」
怒った顔をした老人が少年を見下ろします。
髪の毛も髭も真っ白な老人は年齢によらずとても活発な人で、筋力もそんなに衰えておらず、やはり殴られればとても痛いです。
文句を言おうにも、二発目がくるのは嫌なので少年は素直に謝りました。
「ごめんなさい」
「うむ、よろしい」
しょんぼりして謝る孫を見て、ようやく老人は優しい顔で笑いました。
「ところで、どこに行っておった?」
老人の質問に、少年は言おうかどうか悩みましたが、結局話すことにしました。
「あそこに行っていたの」
そう言って指さした方を、老人も見上げます。
そこはこのお城のたった一人のお姫様が居るお部屋でした。
「どうして行ったんだ」
「いつも女の子がこっちを見ていたから」
お友達になれたらいいな。そう思って行ったという。
本当ならば叱らなくてはいけないことでしたが、老人はしゃがんで少年と目を合わせると怒りはせずに訊ねました。
「お友達にはなれたかね?」
「んー、どうだろう」
わからない。と少年は言いました。
少ししかお話していない名前もわからない子を友達と呼んでいいのか、彼にはわかりません。
「お友達になりたいかね?」
その質問には、「うん!」と元気よく答えました。
だからこそ少年は少女に会いに行ったのですから当然です。
老人は少し考えてから、少年に言いました。
「ならば、あの子について話をするとしようかの」
「おじいちゃんは、あの女の子のことを知っているの?」
驚いたように少年は老人を見ます。
まさか、老人があの少女のことを知っているとは思っていなかったからです。
老人は少し悲しそうに笑いました。
「この城で働いている者ならば、皆知っておるよ」
知らないはずがないのです。なにせ相手はお姫様ですから。
それも、“魔女の呪いをかけられた可哀想なお姫様”なのですから。
今すぐにでも聞きたそうな少年の顔を見て苦笑すると、老人は立ち上がって小さな孫の手を掴みました。
「家に帰ってから聞かせてあげよう。ここだと、身体が冷えてしまうからの」
老人の言う通り、雪の降る季節に外に居たままお話すると身体を冷やしてしまいます。
風邪を引いて寝込むのは嫌なので、少年は老人に手を引かれたまま歩き出しました。
少年はおじいさんのしわくちゃだけれど温かい大きな手を必死にぎゅっと握って
老人は孫の小さいけれど温かい手を優しく包んで
二人は自分たちの家に帰る道を歩きました。