表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚咲く  作者: 黒衛
9/21

八、 裏切り 4




「こっちだ」


男は、先立って歩き始めた。

灯りを提げた取り巻きの片割れ・吾平が、そのすぐ後ろに立って、男の足元を照らした。

その腰にぶら下がる鎌や、もう一人・信助の懐にある小刀を見て、男は暗澹たる心持になった。

村を横切って山の入り口に至るまで、彼らは一言も口を利かなかった。

足元がやわらかい土の上り坂になった頃、男は吾平に言った。


「明かりを貸せ、先が見えねえ。

 獣が出るから、どうせならその腰のものでも握ってりゃいい」


吾平はすんなりと提灯を男に渡した。

その代わり、ぴったりと男の後ろに張り付いて、妙な素振りが無いか監視しているようだった。

暫く行った辺りで、庄屋の息子が言った。


「おい、お前の足が治ったってのも、どうやら本当みたいだな」

「ああ、人魚が治してくれた。どうやったものかは、さっぱり分かりゃせんがね」


男は振り向かずに答えた。

ふーん、とそれを聞いて庄屋の息子は唸った。


「お前え、そりゃあれか?人魚の肉を食ったのか?」


男は思わず足を止めた。


「何だって?」

「知らねえのか?人魚の肉を食った奴は死なねえんだとよ。

 足の一本や二本、しゃんとなりそうな話だろ」


知らない筈が無かった。

当の人魚本人からそう誘われたのは、今日の昼のことだ。


「冗談じゃねえ。そんな不気味なこと、したかあねえよ」


それは男の本心だった。

吐き捨てるように呟いて、男はまた登り始めた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ