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二十、 花開ク 完
女は笑っている。優しく、とても嬉しそうに。
「死ぬくらいなら、私が貰いたかったのさ。ずっと独りだったからね」
退屈だったのさ、一人ぼっちは。と女は呟いた。
「寂しかったんだよう。だからお前がお前を要らぬと言うなら、
私が貰っても良かろうと思ったのさあ」
寂しかったという気持ちは、男にも分かった。
皆死んで、庄屋の息子とたった二人取り残されたと思った、あの時。
誰も居なくなって、自分だけが置いて行かれたと知った、あの瞬間。
あんな気持ちは、もう二度と味わいたくは無い。
女は、そんな風にたった一人で、長い時間を過ごしてきたのだろう。
「……お前のことを聞かせてくれ」
「そうだね、寝てる間に話してあげよう。気が遠くなるくらい昔のこともね」
長い長い夢を見られそうだと思った。
「目が覚めたら、お前は私の仲間だ。
そうしたら、ずっと一緒にいておくれ」
“ずぅっと一緒にいておくれな”
耳元で囁く女の吐息と、髪を撫ぜる細い指。
柔らかな膝に頭を預けて、男はゆるゆると目を閉じた。
さわさわと真白い大きな花が揺れて、ふうわり甘い香りが漂う。
男は幸福な夢を見る。
――
小さな滝壺の隣で、満開の花が咲いている。
空は青く、日は暖かく、風と水は清らかな美しい日。
そうして、枝一面に白い花をつけた二本の大きな木が、寄り添うように並んでいる。
――
了




