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十九、 種芽吹ク
「お前を食うのか?俺も死ぬのか?」
男が問う。女は笑った。
「お前は死なないよ。言ったろ、私はお前を騙さない。
お前が食うのは私の種だ。お前の中で芽吹いて、お前に根を張る。
お前はやがて樹になって、私の隣で花を咲かすのさ」
「痛いのか?苦しいのか?」
「痛くもないし、苦しくもしないよ」
女の手が、男の頭を撫ぜる。
女は囁く。
「一人ぼっちであそこに居るより、ずぅっといいだろ?
お前は夢を見るのさ。すっかり樹に変わってしまうまで、私が眠らせてやろう」
男は、女の方に頭を預けた。
甘い匂いがする。稀少な香か熟した桃のような、花の匂い。
男には最早、抵抗する気力は無かった。
家族は無い。村も無い。生きる理由も、死ねない理由も無くなった。
だから、女が嘘つきで、もしも騙されて結局食べられてしまったとしても、
きっと後悔はしないだろうと思った。
「おいで、私が抱いていてやろう」
柔らかい女の腕の中に、体を任せる。
女は温かくはなかったが、冷たくもなかった。
男の触れている部分だけが温い温度で、それだけのことがとても心地よかった。
「何故俺だったんだ?
何故、俺を仲間にしようとしたんだ?」
女に問う。女は、男を仰向けに寝かせながら答える。
「言ったろう、死ぬくらいならって。
死ぬくらいならその命、私が貰っても良かろうと思ったのさ」




