十五、 呪い 4
※本話にはショッキングな描写が存在します。閲覧にはご注意下さい。
おげえ。ぐえ。ぎいい。くるしい。なんだ。たすけて。
血泡を吹いて痙攣する幼子。充血した目から血涙を流す女。
錯乱して孫に食らい付く老人。口と尻から絶え間なく血を垂れる娘。
男は呆然と立ち尽くしていた。
すぐ隣で妹が吐瀉物を撒き散らして倒れていることにも気付かなかった。
誰も彼もが、血と汚物に塗れた死体に変わっていた。
「ひ、ひいぃぃっ!」
薬屋は、飛び上がって逃げ出した。
引っくり返した皿から、箸をつけなかった肉が落ちる。
恐らく、食べずに持ち帰って売ろうとしていたのだろう。
その強欲さが、薬屋の命を救った。
こけつまろびつ走り去る薬屋の背中が、畦道の向こうに消えてしまった頃。
気付けば、まともに立っているのは、男と庄屋の息子の二人だけになっていた。
息子は、わなわなと身を震わせていた。
蒼白になった顔色は、恐怖からか怒りからか。
息子は、男に食って掛かった。
「こいつぁどういうことだ!てめえ、あれは人魚じゃなかったのか!
それとも、てめえが毒を盛ったのか!」
人魚の首と肉はずっと庄屋の家にあったから、男に何かできた訳がない。
第一、何が起きたか分からないのは男も同じだ。
その時、けらけらと笑い声が響いた。
辺りには、最早物言わぬ死体ばかりで、そんな風に笑う者など見当たらない。
「どこ見てんだい、こっちだよこっち」
聞き覚えのある声だった。
人魚の首が、盆の上で笑っていた。
「あっははは!ざまあないこった!
私の実なんか齧るからだよ!」
「何だと!」
激昂する息子を、生首の女は嘲笑した。




