十三、 呪い 2
人魚の腕や足はさっさと刻まれて肉にされてしまったが、首は今もまだそのままで置かれている。
肉の元たる人魚でござい、と一緒に薬屋に売る算段であろうか。
目を閉じて、髪を結われ、ちょこんと小さな座布団に乗せられた様は、生首でさえなければ、ただ美しい娘が眠っているようにしか見えない。
けれど、その姿こそ、彼女が紛れもない人魚であったことを、物見の客と村人達に知らしめ続けている。
薬屋から庄屋宛に文が来た。
人魚の肉と首を拝見しに行く、という返事であった。
約束の日はすぐにやって来た。
その日は、村中が朝から浮き足立っていた。
たまの行商くらいしか通う者もない道を、馬が上がってくる。
最初に見つけたのは、畑仕事をしていた田吾作だ。
手を止めた百姓の姿を見つけて、薬屋は庄屋の家までの道のりを尋ねた。
田吾作は、薬屋を庄屋のところまで案内した。
もう一人、薬屋と一緒に馬を並べてやってきた者がいた。
刀を提げている。お武家様だ。
薬屋と武士を、庄屋は諸手を上げて歓迎した。
茶と菓子を出して持て成しながら、先日と同じように息子の武勇伝を長々と語った。
薬屋は、早速人魚を見たいと言った。
当然だ。その為にこんな田舎くんだりまで来たのだから。
武士は、もし本当に人魚の肉が不死をもたらすならば、一切れ百両でも買い上げたいと言った。
武士の主君が病なのだそうだ。人魚の肉を持ち帰り、何としても食べさせたいらしい。
「そりゃあ心配いりません。何しろ、人魚の血を舐めただけで、不具だった足がしゃんとした男がいますからね」
と、庄屋は男のことを引き合いに出して保証した。
いざ人魚の肉を披露する段になると、村人も全員庄屋の家に集められた。
勿論、男もその中にいた。
恭しく庄屋の息子が運んできた盆の上に、小さな座布団と大きな皿が乗せられていた。
座布団には人魚の首が鎮座し、皿には人魚の切り身が並べられていた。
一切れ、小皿に取られて目の前にやって来ると、武士も薬屋もそれをまじまじと眺めた。
美しい人魚の生首と、透き通った白身の刺身が同じものだとはどうしても結びつかないのだろう。
村人にも銘々に、切り身を更に細かく刻んだ一欠けらが配られる。
「俺の振る舞いだ、有り難く思えよ。
人魚の肉は滋養になる。それを食ってしっかり畑を耕せ」
と庄屋の息子が言った。




