十二、 呪い 1
翌日の昼過ぎ、男が真っ赤に腫れた目を擦りつつ、ようやく布団から出る気なってみれば、庄屋の息子が人魚を捕らえたという噂は村中に広まっていた。
人魚を一目見ようと詰め掛けた村人の前には、歪な風呂敷包みがぽつんと置かれているだけだった。
結び目の下から、ほっそりした白い手首と長い艶やかな銀色の髪が覗いている。
人魚の手と頭だった。
この話は耳の早い近隣の村人にも伝わって、どこからともなく見物客まで押しかけていた。
庄屋の屋敷の周りはぐるりと人垣に囲まれて、野次馬の頭の間から風呂敷の置かれた籠を見つけるのにさえ苦労する有様だった。
晒し者にされた人魚入りの風呂敷包みの隣で、庄屋とその息子が自慢げに講釈ぶっている。
「つまり俺はこう考えたんだ。村が飢えて苦しんでるってのに、山に入れねえんじゃ獣も魚も取れねえ。
それもこれも人魚のせいだ。人魚が山に寄るななどと我侭を抜かすせいだ。
こいつがいなけりゃ村が少しは楽になる。そう思ってとっ捕まえに行った訳よ」
白々しい話だ、そう男は思った。
「で、人魚をやっつけた後にはたと気付いた。人魚の肉は滋養になるらしいじゃねえか。
こいつは一つ、町の薬屋にでも売りつけて、代わりにたんまり米を買って帰るべきだってな」
「全く勇敢な息子だよ、流石は儂の後取りだ!
こんなに利口で優しい息子は、三国中を探してもいやしないよ!
お前達、息子のおかげで米が食えるんだ。しっかり感謝しろよ」
庄屋親子は野次馬相手に小芝居を続けている。
一目人魚を見ようと押し合い圧し合いする見物客の後ろからそれを聞いて、男は腸が煮えくり返るような怒りを覚えた。
人魚を見る勇気はなかった。
あの夜のことを言いふらす気力も。
ただひたすらに悲しかった。
あんなに綺麗な人魚だったのに。
今では変わり果てた姿で風呂敷の中だ。
庄屋は町の薬屋に手紙を送った。
人魚の肉を売ってやるという内容だった。
薬屋は当然訝しんだが、人魚の肉を一切れ包んで送りつけてやれば、態度が一変した。
三日経って薬屋に届いた包みの中でも、肉はまるで今捌いたかのように艶々とした瑞々しさを保っていたからだ。
それもその筈。庄屋の息子が人魚を殺して既に十日あまり過ぎていたが、人魚の肉はちっとも腐っていないのだ。
干物にしようと網にかけて干しても、乾いてすらいなかった。
きめの細やかな上等な白い身は、光に透かすときらきらと輝いて不思議な美しさを見せていた。




