十一、 裏切り 7
よし、と呟いて立ち上がる庄屋の息子に、吾平が指を咥えて呟く。
「あ~あぁ、勿体ねえ。いい女だったのに」
「阿呆、相手は魚だぞ」
小刀を信助に返しながら、庄屋の息子は言う。
「人魚はなぁ、首を切らにゃあ死なねえんだ。
殺さなきゃ肉が取れねえだろうが」
ちらと生首を見やって、にやりと笑う。
「大体てめえら、こいつの肉がいくらで売れるか知ってやがるのか?」
当然二人は、首を横に振った。
庄屋の息子は、ふんと鼻で笑って答える。
「いいかお前ら、江戸の大店じゃあ木乃伊――人間の干物を万能薬だって有り難がって、海の向こうから千両箱で買い付けるって話だぜ。
こいつぁ人魚、本物の不老不死の薬だ。干物と同じだとしても、千両からの値がつくってことだ。
飯だろうが酒だろうが、女だって食い放題じゃねえか」
「そいつぁ凄え!」
吾兵と信助は目を丸くした。
「心配すんな、お前らにも分け前はやるからよ。ああ、お前にもだ」
庄屋の息子は、とってつけたように男にもそう言ったが、男にとってそんなことはどうでもよかった。
ただ、美しい人魚が殺されてしまったことが、悲しくて悲しくて仕方なかった。
今なら、人魚を殺したその小刀で人魚と同じように首を刎ねられてしまっても、これ程悲しくはないだろうと思った。
「お前らも手伝え。とっととバラして運ばねえとな」
庄屋の息子に命令されて、信助が懐に持ってきた風呂敷を広げた。
刃物を出して、三人で人魚の解体を始める。
男はそんな光景に耐えかねて、そっと一人逃げ出した。
夜の山を、どこをどうして下りてきたのか見当もつかない。
気付けは、家の前まで帰り着いていた。
心が辛くて苦しくて仕方がなく、男はそのまま布団に潜り込んで寝てしまった。
夢と現の合間で、一晩中泣き明かしていた。




