十、 裏切り 6
※本話には残酷な描写が存在します。閲覧にはご注意下さい。
男はぎくりとした。
男の肩越しに、女は闇の中を見やる。
女には見えているのだ。その先にいる連中が。
土を踏む音が近付いてきて、奴らが提灯の明かりの中に入ってきた。
女はきょとんと、三人を無感動に見返した。
彼らは笑っていた。庄屋の息子も、吾平も、信助も。
人魚を眺めて、まるで舌なめずりするかのように。
「すっげえ、こんな上玉見たことねえや」
明らかに下劣な感情を含んで呟いた吾平を脇に追いやり、庄屋の息子が尋ねる。
「お前が人魚か?」
「そんな風に呼ばれているね」
女は答えた。
男は、腕を掴まれて下がらせられた。
庄屋の息子が、その手に鎌を握っていることに、気付いた時には遅かった。
「そうかい」
ぽつり、零しただけの声音。
男が人魚に駆け寄るよりも早く、庄屋の息子が鎌を振り上げた。
音がしたような気がする。
決定的な瞬間は見ていない。
ただ、思わず瞬きしてしまった次の刹那、男の目に映ったのは、崩れ落ちる女の体だった。
振り下ろされた鎌が、眉間に突き立っている。
血が一滴も流れ出ていないのが不思議だった。
よろめいて、そのままどさりと棒の様に倒れた女は、もう息をしていないのが分かった。
「何だ、呆気ねえな」
庄屋の息子は、女に刺さった鎌を引き抜くと、信助から取り上げた小刀でごりごりと人魚の首を切り落とし始めた。
肉を削ぎ、骨を削る不気味な音。
それらを、男はただ呆然と眺めていた。
やや手こずって、ようやく胴体から切り離された頭は、ごろりと転がって横を向いた。




