命がけクイズ
『命がけクーイズ!』
「んあ……?」
これは……夢か? ぼんやりとまぶたを持ち上げると、おれは見知らぬ部屋にいた。そして目の前には、見知らぬ男が立っていた。大きな写真を手にしている。
「それでは第一問です。この写真の人物の名前は?」
澄ました声で男が言った。
「お願い……」
か細い声がして顔を向けると、三つの人影があった。夫婦らしき男女と、小さな子供。女は祈るように両手を握りしめ、男は渋い顔をして腕を組んでいる。子供は母親の陰に隠れ、所在なさげにしていた。
どうやら観客らしい。おれはこの妙なクイズのために呼び出されたのか。
「しっ、お静かに。さあ、お答えをどうぞ」
「あー……」おれは喉を鳴らし、写真をじっと見つめた。
「わかんない」
答えると、観客たちの口から「はあ」か「ふう」と息が漏れた。
「……では、第二問です。この人物の年齢をお答えください」
「はあ?」
おれは呆れた。名前すら知らんのに、年齢なんてわかるわけがない。
だが、こうしてじっくりと見つめていると、どこかで見たような気がしてきた。有名人か? それとも知り合いか?
「さあ、お答えください」
「……わからん」
またしても観客たちの口からため息が漏れた。落胆しているのだろうか。だが、勝手に期待されても困る。わからんものはわからんのだ。
「第三問です……。よーく、思い出してください。この人物はどんなお仕事をしていましたか?」
「だから、わからんて」
写真のやつも、この男も観客も誰だか知らんが、だんだん腹が立ってきた。そもそも、命がけクイズとはなんだ? 答えられなかったらどうなるんだ? 死ぬってことか? ふざけやがって、悪趣味にもほどがある。
「そうですか……では、ここがどこかわかりますか?」
「知るか!」
「私が誰かわかりますか?」
「わからん!」
「今そばにいる、こちらの方々のことは?」
「わかるわけないだろ! いい加減にしろ!」
「今朝は何を食べましたか?」
「わからん!」
「ご自分のお名前は?」
「わからん! わからん! わからん!」
うんざりだ。おれは掛布団をぐいと引き上げ、顔まで覆った。
「親父……」
「おじいちゃん」
「……全問不正解ということで、国の規定により、お父さまは安楽死の対象となります。高齢化社会で認知症患者が増えすぎた今――」
「わかってます、先生……。説明は、もう何度も聞きましたから……」
連中はとうとう、おれを放って勝手に話し始めた。どうも、おれが正解できなかったことを喜んでいるように見える。
だが、もうどうでもいい。これは夢なんだから。だって、そうじゃなきゃおかしいだろう。
……夢だよな?
ああ……わからん、わからん……。




