6.始まりの装備
買い取り受付で先ほど倒した魔獣の素材を渡す。もちろん、亜空間を繋げ直した巾着から。
「魔狼四体分と灰色魔狼が三体分か、検品するからそのまま待っててくれ」
そう言うとその場で検品を始める。
「首を一太刀か、随分と腕がいいな。毛皮は全部で小金貨一枚、爪と牙は銀貨八枚、肉はどうする? 少しブロックにして持ち帰るかい?」
「灰色魔狼を一体分ブロックにしてくれ」
「あいよ。手数料分引いとくぞ」
解体は手慣れたもので、すぐにブロック肉と金を渡される。
次は依頼書の確認に向かう。
確かにEランクの依頼は採集が多いようだ。見慣れない薬草名もある事だし、今度試しに受けてみよう。
Bランクまでの討伐依頼は、知っている魔物が殆どだ。しかし、Aランクからは、知らない魔物がちらほらと増える。
依頼を確認していると、先ほど絡んで来た青年に声をかけられる。
「さっきは悪かったな。俺はティネル、登録できたのか?」
「ああ、俺はシガーだ。そうだティネル、この後暇か?」
「俺? 今日は休息日だから、暇だぞ」
「ちょっと付き合え。さっきの詫びだ」
街の案内が欲しかったから、ちょうどいい。
ティネルは「おう」と言うと仲間に声をかけて、こちらに戻ってくる。
「街に来たばかりなんだ。案内を頼みたい」
「よし、それなら任せとけ! 宿はもうとったか?」
「ああ、北の春風って宿だ」
「あー、あそこなら安心だな。なら大丈夫だ」
――
ティネルは本来、人懐っこい性格のようだ。
先ほどの仲間たちとパーティを組み、彼は主に斥候を担当しているらしい。二年前に冒険者となり、今はCランクだそうだ。
ティネルの案内で、日用品や地図を購入していく。
手っ取り早く情報を集めるなら、本屋もいいが情報量が多すぎて取捨選択が難しい。なにより、少しずつ知る方が脳に優しい。
途中、神官服の男が手を井戸に向けて、祈祷をしているのを見かける。
「あれは何をやってるんだ?」
「シガーは王都から来たのか? まあそれなら、あっちは水道が通ってるから見る機会はないか。あれは、水の浄化だよ。この地域だと、だいたい昼だな。昼前は瘴気が多いから気をつけろよ?」
水源は多少なりとも瘴気汚染があるようだ。この国では、水は神官が祈ってからじゃないと飲めないらしい。
浄化が終わると、街の住人が井戸に集まり、手慣れた動きで桶を満たしている。どうやらここの住人にとって、家族分の水を確保するのが、昼の仕事らしい。
ティネルは当たり前の顔で通り過ぎ、次の目的地へと向かった。
防具屋は年期を感じさせる、石造りの建物だった。
「ここが、俺のパーティがよく行く防具屋だ。頑固なじーさんで、こっちの要望が通らない時もあるけど、最終的にはなんか良くなるぜ」
「それは安心だな。ティネルは防具屋に用はあるか?だいぶ連れ回したから、もうここでいいぞ。今度飯でも奢ってやる」
「やりい! じゃあ俺は帰るなー、忘れんなよ!」
正直な所かなり助かった。
ここで生活する人間が行く店が、一番安全だからな。
手をぶんぶんと振り、走って帰るティネルを見送り、防具屋に入る。
最低限の胸当てやらが、無造作に棚に置かれている。あまり、既製品は置かないようだ。
「なんだ、新顔だな」
店主は初老の小柄な男で、分厚い眉と腕の毛に覆われた肌。ドワーフ族だ。
そりゃあ頑固な訳だ。
「ああ、今日この街に来たシガーだ。素材はある程度持ってるから、一式頼めるか?」
「ランドルだ。剣士か? 戦闘スタイルは?」
「剣をメインに、補助的に魔法ってとこだな。防御力よりも、動きやすさを重視したい」
魔法にばかりに頼ると、剣の腕が鈍る。積極的に剣は使って行く方針だ。
「値段は?」
「小金貨一枚程度ってとこだな。たぶん、すぐに新調する」
無愛想だが、話は早い。
「なら、アラクネの魔糸、リザードマンの鱗皮、大猿の皮、トレントの樹液、魔石二個。あるもんは?」
「アラクネの魔糸は量がないな。それ以外は、持ってる分で足りるだろう」
リザードマンはCランク。アラクネ、大猿、トレントはBランクの魔物だ。
必要な素材をカウンターの上に並べた。
「足りそうか?」
「なんだ、溜め込む質か。……ふん、悪くないな。足りない魔糸はこっちで出す」
ランドルは、初めて表情を崩して言った。
「いざ必要な時に、取り行くのは面倒だしな」
「いい心がけだ。それだけ素材があれば、こっちは製作だけで済む。銀貨八枚でいい、この素材なら明日の昼頃には仕上がるだろう」
銀貨八枚は防具一式としては、明らかに安い。
持ち込みが効いたか。
「ああ、わかった。明日また来る」




