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煙の旅人  作者: さい
1章 忘れた世界
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4.最初の街


 体感では、そう遠くまで来ていない。

 遠目に煉瓦造りの関所が見えてきた。


 魔獣の森が近いからか立派な構えだ。馬屋の主人はそこそこの街と言っていたが、かなり大きい街だ。


 門衛が二人軽い検問をしている様子だったが、こちらを認識した途端、敬礼し先に門へと促される。


「どうぞお先にお通り下さい!」

「ご苦労」


 数人の列の横を騎乗したまま、通り過ぎる。門衛は完全に、騎士だと勘違いをしている。

 まあ、間違ってはいないのだが。


 この街は、魔物でなければ些か判断は甘いようだ。何通りかの出まかせを考えていたが、徒労に終わって何よりだ。



 街には二階建ての家屋や店が、所狭しと建ち並んでいる。それなりに栄えた街だ。


 街に入ってからの視線がやや強い。この辺りに同業は居ないようだが、出くわすと少々気まずい事になる。


 今や、騎士服を着た無職だ。自らの身分の証明をするものもない。早々に馬を預け、服を誂えよう。

 

 まずは、北の春風とやらを探そう。


 一見、馬上の騎士姿の俺を、きらきらとした目で見つめる少女に声をかける。


「この街にある、北の春風という宿屋を知っているかい?」


 まさか、話しかけられるとは思ってもみなかった、という様子だが、少女はっきりと答えを口にする。


「はっ、はい! えっと、この通りを真っ直ぐ進んで、赤い屋根の家の手前の道に入り、そのまま右手側の緑の屋根の店が北の春風です! 看板が出てるので分かりやすいと思います!」


 分かりやすい説明だ。


「ありがとな。これはお礼だ、貰ってくれ」


 コロンと少女の手に、少女の青い瞳とお揃いの魔石を転がす。きょとんとした顔で魔石を見つめる少女に、思わず口元が弛む。


「小さいが魔石だ。君の瞳の色と同じ、美しい青だ。すぐにしまいな」

 はっとしたような顔でポケットに魔石を入れ、少女は顔を上げる。


「あっ、騎士様! ありがとうございます、大切にします!」


 頬を薔薇色に染めて、小走りで母親らしき女性に駆け寄り、何かを女性に話す。

 少女が話し終えると、はっと女性が頭を下げるので軽く会釈を返し、北の春風へと歩みを進めた。

 


 少女の説明通り、北の春風はそこにあった。


 からんからん、と軽やかな音を立て、ベルが来訪を報せてくれる。


 ベルが鳴り止むと、まるで二つの音が重なり合うような一つの声がした。


「こんにちはー」

「こんにちは。二人はこの宿屋の店員かな」


「うん、お母さん今お買い物に行ってるのー」

「すぐ帰ってくるって言ってた」

「そうか、じゃあ少し待つか」


 わかった、とこれまた同時に発する双子から目を外し、店内を観察する。


 ベージュ色の木材をベースに、観葉植物がいたる所に飾られている。併設された食堂は、小洒落たカフェテリアのようにも見える。


 決して新しいとは言えない内装だが、掃除も良く行き届いている。馬屋の主人は間違いなく、当たりの宿屋を紹介してくれたようだ。


 ちらちらと何か言いたげな視線を寄越す双子に、顔を向ける。


「騎士さま、お母さん悪いことした?」

「お母さんつかまる?」

「いや、」

 俺は客だ。と続ける先は、けたたましいベルの音に遮られた。


 慌ただしく双子に駆け寄る女性は、そのまま二人を背に隠す。

 翡翠色の瞳にきっと力を込め、声を発した。


「こんな宿屋に騎士様が何のご用でしょうか」


 何かの誤解を感じさせる声色だ。


「俺はただの客なんだが……。あー、ガルダン辺境伯東の村の馬屋の主人から、紹介して貰ったんだ。営んでいるのが、従姉妹殿だと聞き寄ってみたんだが」


 あまりの警戒ぶりにこちらも、彼女の反応を窺いながら話しをしてしまう。確かに、こんな可愛らしい宿屋に、体格の良い騎士が客として来るとは思うまい。


 肩を揺らし始めた彼女に、これはもう無理そうだ、と諦め声をかける。

 

「いや、怖がらせたようで悪かった。別の宿を探すよ」

 そこで、彼女ははっと顔を上げる。


「いえっ! こちらこそ誤解をしてしまい、大変申し訳ありませんでした」


 彼女は頭を下げ、そのまま言葉を続ける。


「リッキーからの紹介がありながら、大変な失礼を。お部屋は空いていますので、よろしければ是非泊まって行って下さい」


 顔を青ざめさせながら話す彼女に、ふむと考える。


「いや、可愛らしい宿にこんな男が急に来たら怖いだろう。当然の反応さ。もし、それでも申し訳ないと思うなら、今夜は食事も頼む。一品サービスでもしてくれるか?」


 最後は揶揄うように言う。すると、やっと瞳から力が抜け、普段彼女が客に向けるであろう笑顔を浮かべてくれた。


 双子も、剣呑な空気が過ぎ去ったと感じ取り、母親の隣に並ぶ。


「はい、それはもちろん! 騎士様は何日のご宿泊予定ですか? 一泊銅貨八枚、お食事は銅貨三枚いただきます。連泊ですと少しお安くなりますよ」


「とりあえず十日間頼みたいんだが、今手持ちがないんだ。質屋と服屋に行ってから支払ってもいいか? とりあえず、馬だけは預けたい。金の代わりに、この剣を預けて行く」


 腰に差していた剣をテーブルの上に置く。

 

「え、ええ。それはもちろん構いませんが、騎士様が剣を置いていくのは……」

「ああ、すまん。今日で騎士ではなくなったんだ」

 

 少しの沈黙の後にはて、と首を傾げる彼女にそういえば、自己紹介がまだだったと思い至る。

 

「俺はシガーと言う。先ほどまで騎士だった。今日いきなり、着の身着のまま森に放り込まれてしまった。その経緯なんかについては、俺にもよく分かっていない」


「そ、そうですか。あ、私はアナベルと申します。ご覧の通りこの北の春風の店主をしています。ほらラン、レイご挨拶して」


 なんとも言えない俺の自己紹介をアナベルは受け流し、行儀良く待っていた二人の肩をぽんと叩く。


「ボク、レイ! よろしくね!」

「あたし、ランです。よろしくね」

 

 母親譲りの翡翠が四つと同じ顔が二つ。本当にそっくりな双子だ。そう感心していると、急にアナベルが同じ翡翠を大きく開く。


「もう! また遊んでるの? しっかりご挨拶しなさい」

「やっぱりお母さんにはバレちゃった。ごめんなさーい。あたしがラン!」

「ランのせいで、ボクも怒られた。ごめんなさい、レイです」


 待っていた二人に打ち合わせをしていた様子はなかった。これはきっと常習犯なんだろう。

 だが、騙された後で二人が仲良く、くすくすと笑うのなら、それはそれで良いのかもしれない。

 

 ランとレイに、微笑ましさと若干の将来への不安を感じながら、宿を出て質屋に向かう。



 アナベルが教えてくれた質屋は中々立派な店構えだった。俺が騎士だったということも考慮しての選択だろう。よく気が利く女だ。


 扉を開くと店構えに反し、薄暗い店内に老婆が一人。棚には、ガラクタにも骨董品にも見える品が、疎らに置かれている。


「騎士様がこんな質屋にご来店なんてなあ」

「開口一番随分とご挨拶だな。お尋ね者でもないし、盗品でもないぞ」

「疑っちゃないよ。あんた、まあまあ良いご身分じゃないか。訳ありかい?」

 

 にやにやと底意地の悪そうな笑みを貼り付ける婆さん。まあ、問題はないだろう。

 

「俺の鑑定なんざ頼んだ覚えはないんだがな。ある程度鑑定が使えるならいい。これだ」

 

 二つの装飾品と、一つの魔導具を机の上に置く。

 

「人様に鑑定なんか使えるかい。どれ」


 婆さんは、一つ一つ魔法陣を出しては鑑定をしている。

 

「また俺の鑑定か? なにも、わざわざ魔法陣まで出さなくても、盗品じゃない」

 

 婆さんはぴくりと片眉をあげ、嗄れた声をさらに低くする。


「……あんたそれ、他の奴の前で言うんじゃないよ」


 明らかな警告だった。


「そういうもんか。忠告感謝する」

「さて、こっちは二つで小金貨八枚。魔導具は金貨三枚さね。この魔導具は、防御結界二回分ぐらいかい?」


 装飾品は予想通りだったが、魔導具が思った以上に高値がついたな。

 

「残念、三回だ。製作者は見たか?」

「見たが、あたしゃ知らない名だったねえ。三品とも傷がなけりゃ、蒐集家に流せたんだけどねえ」

「そうかい、それは結構」


 机の上に置かれた金の中から、金貨二枚を差し戻す。


「口止め料だ。今日の話は、ここで終わりにしよう」

「あたしゃもう歳だからねえ、物忘れが得意なんだ。今日の客のことなんて、明日には忘れちまうよ」

「頼んだぜ婆さん。また来る」


 店を出て、服屋への道すがら考える。

 

 婆さんの忠告だと、ここの魔法使いは魔法陣を隠蔽する術を持っていない。または、禁止がされているようだ。


 対人戦において魔法陣の隠蔽、または省略は必須のはずだった。識別できる奴には次に何の魔法を使うか、ばれるからな。

 

 内ポケットから一枚金貨を取り出して眺める。


 換金した金貨も貨幣価値は一緒でも、慣れ親しんだ意匠ではない。


 アナベルに日付を確認したが、暦自体が転移前とは全く異なる。どうやら月の満ち欠けで、日付を計算するらしい。


 月が欠け、満ちるのは理解しているが、昨日見た月と今日見た月とで差異があるとは、素人目には分からない。


 知らない事だらけではあるが、ただ一つ分かる事がある。

 貨幣に描かれるものが異なり、いくら暦が変化しようとも、魔法陣を隠せなくとも、俺には全く問題がないと言う事だ。

 

 魔法陣に関しては、対人戦において絶対的なアドバンテージですらある。

 


 魔法は想像だ。魔力を操り思うままの形にする。今まで対峙してきた、人や魔物が放つ魔法を取り込み、自らの形とする。研磨を止めなければ、如何様にも高みに登れる。


 魔法の行使に決まった方法はない。補助的に詠唱を行い、形とする者もいる。魔法陣を用いて、魔法に複雑性を持たせる者もいる。


 得意分野を伸ばし、皆研磨を重ねているのだ。


 神殿などでは祝詞で浄化を行うが、その清廉な魔法はとても美しいものだ。


 これまでに多くの差異を感じた。もちろん、これからもあるのだろう。今後出会う事象は全て自らの糧となる。

 その事実を確信して、静かに歓喜に打ち震える。

 

 思惑のわからぬ転移陣の主に、この感謝を伝えなければ。

 会うかもわからぬ相手に密かに誓った。

 

 

シガーの容姿について

銀灰色の髪

大柄

それ以外はあまり考えていません。

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