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煙の旅人  作者: さい
1章 忘れた世界
3/17

3.吐き出したもの

 

 

 馬上で馬屋の主人との会話を思い返す。


 ガルダン辺境伯領。そんな貴族の名前は耳にした事がない。それに、辺境伯ともなれば尚更知らぬ訳がない。

 

 さらに言えば、魔獣の森の防衛線は建国当初からアロネス家の管轄だ。そのアロネス家の領地で、紋章は知らぬとも、家名まで知らないとなると、まずあり得ることではない。

 

 魔獣の森に到着して、まだ日は跨いでいない。


 つまり、現在少なくともこの時空に、アロネス家は存在しない。あるいは没落したか。恐らく、共に森へと来た騎士団たちも居ない。

 

 嫌な予感は村に着く前から確かにあった。記憶している地図と街道、村の位置が全く合わなかったのだ。


 無意識に取り出していた煙草に火を灯し、いつもより深く吸い込む。

 

 肺の奥から吐き出された紫煙は、形もなく空へと消える。それと一緒に、不気味さと混ざり合った底知れぬ感情も、わずかに外へと押し出されたようだった。



 転移魔法は、使用者と使用者が触れている対象を転移させる魔法だ。したがって、対象だけを転移させる事はまだ不可能だった。

 転移魔法の改良となれば、学会が大騒ぎをして、さすがに耳に入ってくる。

 

 それが、転移魔法のての字も耳に入らないうちに、我が身で体験するとは。まったく、何が起こるかわからんな。

 


 考えられる可能性としては、時間軸のずれが一番高いだろう。使用者がこれを狙っていたのかは、見当もつかないが。

 

 次点で、まだ知らぬ他国への転移だが、正直な所この線は薄い。同じ文明レベルを持つ人種で、同じ言語を話し、村で確認した文字も同一だった。

 尚且つ、魔獣の森がある。ならば、


「頭を切り替えるか」

 

 最後の煙を吐き出して、吸い殻を内ポケットに作った亜空間にぽいと投げ込む。

(以前、空間に裂け目を入れ、吸い殻を放り投げた際の事だ。弟にさすがに下品だと心底呆れられて以降、必ず何処かしらのポケットに亜空間を繋げている)


 知り合いもいない土地では、あるのかないのか見当もつかない領地、さらに家を探す?

 ……骨が折れるにもほどがある。


 この現状では、家族を心配したところで、できることなど一つもない。


 生きているし、身体に不調はない。むしろ魔素が濃く、魔法の調子が非常に良い。実際、街道に出没した魔獣は苦も無く何体か倒してきている。

 

 この地域の瘴気が濃いせいか、頻繁に遭遇するのだ。この地域を治めるガルダン辺境伯も、さぞお困りだろう。

 俺も今日まで、魔獣の森の間引きをしていた身だ。街道近くの討伐など、同志として喜んで助勢しよう。

 


 さて、急ぐ用事も仕事もなくなった事だし、魔物からは、素材を残さず剥ぎ取っておく。亜空間に素材はあるが、あって困る物でもない。


 目立つ魔導具類も全て亜空間に放り込んでおこう。



 ふと、前方から歩いてくる冒険者風の団体を眺める。

 道中に冒険者と何度もすれ違ったが、森の間引きの依頼だろうか。この瘴気の濃さだ、依頼もさぞ多いだろう。


 これを機に冒険者になるのも悪くない。自由と冒険、命懸けの闘い。非常に楽しそうだ。

 街に着いたら、地図でも買ってゆっくり旅支度を始めよう。


 結局、命は燃やしてなんぼだ。

 ふう、と吐き出す煙は真っ白だった。


 口元で燃える橙色が、灰に変わると同時に風へと舞い上がる。吹き飛ばされるのは、灰だけじゃない。そんな気がした。


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