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煙の旅人  作者: さい
1章 忘れた世界
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2.知らぬ紋章


 流れる紫煙を横目に歩く。

 しかし、目の前の景色に足が、ふと止まる。


 

「とんだ見当違いだったな」


 先ほどの意気込みはさっぱり無駄となり、魔物と出くわす事もなく、呆気なく森から脱出した。

 

 周辺に人影はなく、捜索組と出会うこともなければ、探知に反応さえしなかった。太陽の位置からしても、それほど時間は経っていない。が、面倒な事に乗ってきた騎竜もいない。

 

 先に歩いて帰るか、となんとも気まずい気持ちを抱えながら、歩き出す。


 街道にまで出ると、周辺地図を思い出しながら村を目指す。たしか、あの村には馬屋が居たはずだ。


 ほどなくして小さいながらも、子供たちの笑い声が微かに響く、活気のありそうな村に到着する。幸い馬屋はすぐに見つかった。


 馬房には五頭ほどの馬がいる。


 森の近くの村だからだろう。討伐中に馬が負傷するのは良くある事だった。他の村ならこんなに馬が揃えられている事はない。

 

 馬の世話をしていた主人が、こちらに気づき外に出てくる。


「あれ騎士様、どうなさったんで?」

「騎竜を森に逃してな。躾はしてあるから勝手に帰るんだが、見ての通り俺の足がなくなった」


 戯けたように話すと、やや緊張していた様子の主人の顔が和らぐ。

 

「それは大変なこって。馬は一日銀貨一枚でいかがです?」

「ああ、それはいいんだが、生憎持ち合わせがなくてな。代わりにこれを預けるよ」


 両腕から紋章入りのカフスを外し、主人に渡す。


「後日、そのカフス以上の代金と馬を一緒に届けるから、売らずに持っておいてくれ。足りないなら、この指輪でもいい」

「へえ、こんな高そうな物ならお釣りがでますよ。騎士様はどちらのお貴族様のとこで?」


 屋主はカフスの紋章を見つめながら尋ねた。


「ああ、アロネス騎士団だ」

「へえ、聞いた事ないなあ。騎士様は王都の方から来たんで?王都まで行くには、馬でも最低3日はかかりますぜ」

 

「そうだな、やはりカフスでは心許ない。この指輪を代金に、馬ごと買わせてくれ」

「そりゃ構わねえですが。本当にこんな高そうな指輪をいいんで?釣りは出せそうもないですが」

 

 左手に付けていた指輪を外し屋主に差し出す。主人は恐る恐る両手で受け取り、指輪を見つめていた。


「ああ。急に買い取りさせて貰ったんだ。これで余裕を持って帰れるよ。そうだ、この村の名前を聞いてなかったな」

「この村に大層な名前なんて! 精々ガルダン辺境伯領の東の村ってとこでさあ!」


 ははっと、少し誇らしそうに笑う屋主に礼を告げ、馬屋を去ろうとすると、再び声が掛かる。


「釣りはだせねぇですが、ここから真っ直ぐ街道に向かった先に、そこそこの街があるんです。そこに、従姉妹が北の春風って宿屋をやってましてね。当てがないんなら、是非寄ってやってくだせえ! 東の馬屋の紹介っていやぁ、夕食のおかずが一品増えるかもしれねぇんで!」


「東の馬屋には親切な主人がいたって伝えないとな。指輪はそこら辺の質屋に売らず、確かな所に売ってくれ」


 騎士服を着ているからか、偽物などとは疑いもしていない馬屋の主人に、内心苦笑を浮かべながら、今度こそ村を発す。

 

 買い上げた馬は、よく手入れをされており人柄が出ているようだった。

 

 正直、王都の方面がわからなかったから助かった。馬よりも、馬屋の主人に助けられた気がする。

 

 さて、本当に此処は何処なのだろうか。



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