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煙の旅人  作者: さい
1章 忘れた世界
12/17

12.初めての



 朝、部屋で装備の確認をしていると、解体用ナイフが刃こぼれをしているのに気づく。


 

 今まで解体は、騎士団の下っ端がしていた仕事だ。

 手入れはしていたが、ここに来て使用頻度が上がり、かなり消耗している。


 これは、一度研がないとな。

 いっそ、今日は依頼は受けず、調整日にしよう。


 広げた整備道具をしまい、鍛冶屋へと足を運ぶ。



 

 この街は、かなり機能的で美しい。

 用途に合わせ、鍛冶屋だけでも三軒ある。

 一般的な刃物を扱う店、既製品の剣や盾を扱う店、誂え品を扱う店。



 今日は通常の刃物を扱う店に来た。

 店主にナイフを預け、店内を見て回る。


 家庭用の物が多く並んでいるが、周りの物とは一つ値段が違う刃物があった。

 手に取り、三つほど鑑定をしてみる。すると、頭に流れる鑑定結果に、思わずはっと笑ってしまう。

 

 

▪︎温刃包丁

性能 : 脂や血が固まりにくく、肉や魚が綺麗に切れる。

特徴 : 刃は脆く、柔らかい物しか切れない。

価格 : 銀貨一枚


▪︎露切り包丁

性能 : 刃から露が出て、瑞々しく野菜が切れる。

特徴 : 乾燥対策にも使える。

価格 : 銀貨二枚


▪︎ 吸音鋏

性能 : 裁断時の音を吸収する。

特徴 : 夜間の裁縫作業向け。

価格 : 銀貨一枚と銅貨五十枚


 

 とても家庭向きだ。

 こんな物まで迷宮から出るのか。


 命懸けの迷宮で、これが出たら膝から崩れる。が、家庭では英雄だ。


 そんな事を考えていると、鍛冶屋の扉が開く。

 現れたのはレオだ。



「よお、シガー。装備の新調か?」

「残念ながら、俺は調理人じゃないからな」



 どうやら、レオは迷宮の“ガラクタ”を売りに来たようだ。彼は、先の想像のように落胆したのだろうか。


「他にどんな魔導具があるんだ?」

「いきなり何だよ。どんな魔導具って、そりゃ色々だろ。この世の全てのもんの魔導具がある。あんた、何も知らないのか? どんな辺境で育ったんだよ」

 

「ああ、辺境の地から来たんだ。だから、知識が乏しいんだよ。銃を見た事もないしな」


 レオは呆れたように肩をすくめている。


「ちょうど魔導銃が出たから、試運転がてら見るか?」

「いいのか? それは助かる。気になってたんだ」

「ついでだ。俺の腕を見せてやる」


 研がれたナイフを受け取り、街の外の拓けた草原に向かう。


「大体の魔導具には大なり小なり寿命がある。魔導銃もそうだ、弾が出なくなる」

「剣はどうなんだ?」

「鈍らさ。だから、武器のストックは持っとけって事だ」



 

 草原に着くと、レオは魔導銃を頬に寄せて構える。


 

「これは“ライフル”型。精度と威力のバランスがいい」


 

 その先は、三十歩ほど先の大木に向けて固定されている。


 

「耳、塞いどけよ。初見はびびるぜ」


 

 レオが銃身に付いた六角の魔石を撫でると、銃身が薄く発光した。

 息を止めているのか、彼の身体は少しも揺れない。


 

 一射目――空気を裂く、乾いた音。

 大木が指先ほどの穴に穿たれる。


 

「これが無属性の貫通弾だ。次は雷行くぜ」


 もう一度魔石に触れる。今度は黄色に発光し、ちかちかと揺れている。


 

 二射目――ばちばちと音を鳴らし、刹那に雷を纏う銃弾が放たれる。

 命中点は放射状に黒く焦げ付き、樹液を沸き立たせている。



 

 魔法に引けを取らない威力だ。

 

 魔導銃から弾が放たれる際に、魔素の揺らぎを感じた。魔導銃は、人の身に代わり魔法を放つ道具なのか。


 

 質屋の婆さんは鑑定を使っていた。おそらくこの世界では、外に作用する魔法は、魔導具を介してのみ使えるようだ。


 

 レオは銃から顔を離し、魔導銃の所見を述べる。

 

「まあまあ、か。冷却時間もそこそこだな。まあ、後はどんだけ持つかだな」

「すぐに壊れるのか?」

「代償がないやつは、それなりにな」

「代償?」


 魔素以外に、一体何を消費するのだろうか。

 

「過ぎた力は身を滅ぼすってな。迷宮のボスなんかが落とす武器は、代償付きのも多い。眠れなくなるとか、血が沸騰するとかな」

「穏やかじゃないな」

「有名なのは感情を“喰う”魔導銃だな。ありゃ恐ろしいもんだ。そうだ、銃使ってみるか?」

「代償なしのやつで頼む」


 ははっと意地の悪そうな顔で、魔法鞄から長身の銃を取り出す。


「弾薬を使う銃だ。弾は入ってるから、あの木に向けて撃ってみろよ」


 レオは銃の扱い方を淡々と教える。

 こいつ意外と世話好きなのか、と考えながら照準を木に合わせる。


 

 引き金に指をかけ、引き絞る。

 頬付け、息を細く止める、指は“押す”ではなく“切る”。


 

――乾いた破裂音が草原に弾けた。土のような匂いが香る。



 

 

「お前、どこ狙って撃ったんだ?」

「木だが」

「当たったか?」

「ないな」


 弾は彼方に飛び、大木に新しい傷はついていない。

 火薬の嗅ぎ慣れぬ匂いに、胸の奥が少しざわつく。煙の甘苦さとは違う、刺々しさだ。


 

「……魔導銃を貸してやる。撃ってみろ」

「ああ」


 今度は、起動のため魔石に軽く触れる。

 銃身は淡い光を帯びる。


 構える。銃口は木へしっかり向けられている。


 息を止め、引き金を引く。


――発射



 

「……だめだなこりゃ。あんたに銃の素質はない。何でだ?戦えんだろ?」

「俺に聞くな。俺だって驚いてるんだ」


 昔から不得手な事は少なかったが、ここまで下手なのは初めてだ。初めて触る、というのもあるが、これは壊滅的だ。


 正直、堪えるな。

 せっかく新しい物に触れたのに。


「そう落ち込むなよ。使ってけばいつか慣れる」

「……そうだな。使わなければ上達はない」


 

 息を止めると、どうにも狙いが流れる。

 どうやら俺は“吸って吐いて”の方が性に合うらしい。

 

 

 まあしょうがない、迷宮から使える銃が出てくるのを待とう。そうしたら、実戦あるのみだ。


 

 苦々しい気持ちを消すように、煙草に火をつける。


「しばらくは、お前が相棒だ。頼んだぞ」


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