10.骨漁りと宝
掲示板を確認していると、一枚の依頼書が目に留まる。
発行元:カルントギルド
依頼主:ブラギウ・マーカー
対象:遺品回収
ランク:D
個体数:
内容 : 襲われた商隊の遺品の回収。付近の廃村に、スカベン・コレクターが収集した可能性あり。補足情報あり。
遺品回収か、討伐依頼のついでに受けてみるか。
この類の仕事は、信用になる。武力自慢の討伐よりも、街での立ち位置はずっと良い。
依頼書に手を伸ばすと、近くで依頼を吟味していたティネルが、声をかけてくる。
「スカベン・コレクターかー、あいつら不気味でなんかやなんだよなあ」
「その魔物はどんなものなんだ?」
ミレナリアには存在しない魔物だった。
「うーん……。ここら辺だと、廃村とか馬車の残骸にいるんだけど。あと、死体置き場とかにも来るぜ。ここら辺だと“チビ墓荒らし”って呼ばれてる!」
「そうか、危険性はあまりないみたいだな」
「攻撃しなきゃ襲って来ないけど、野営中に地図やらランタンやら盗んで行くんだ。ふつーに困る」
「知能はあるのか。助かったよ」
「あとその依頼主、ブラギウ・マーカーってやつ。そいつは、この辺りの商会のまとめ役の一人だ。金払いはいいけど、貸しは絶対忘れねえって有名」
ティネルが肩をすくめる。
「つまり、繋がっといて損はない相手ってことだな」
「ま、そういうこった」
簡単な情報が聞けたので、受付で補足を聞き、ギルドを発つ。
――
情報によると、この辺りで商隊が襲われたらしい。
視界の端に、荷馬車の残骸が見えた。あれか。
近づいて、現場を確認する。
付近には乾いた血と木片が散らばり、襲撃の惨さがまざまざと伝わる。木製の荷馬車には裂かれた布が掛かり、半壊している。
死体は回収されたらしく、もう残っていない。
依頼品は身につけていた短剣と、ペンダントだ。
周囲と荷馬車を検めるが、見つからない。これは、例の魔物に持って行かれたか、盗賊にでも取られたか。
魔物と盗賊のどちらが面倒か、と考えながら伝えられた廃村へと向かう。
廃村は、十棟ほどの小さな村だった。周囲を探ると、付近に小さな魔力反応があった。
これがスカベン・コレクターなのだろう。
注意深く近づいて、様子を伺う。
廃れた家屋の中に、スカベン・コレクターは居た。
ぱっと見は小さな子供だ。
土色の痩せすぎた肌に襤褸を纏い、目が異様に大きい。手足は薄い皮膚が付くだけで、骨のようにも見える。
明らかに角度が違う首には、戦利品だろうか。依頼品のペンダントが掛かっている。それがまた、異様な雰囲気を際立たせている。
崩れ落ちた棚を漁っているが、動きがやけに静かだ。漁る指先が、骨と骨を擦り合わせるような、乾いた音しかしない。
目当ての物はなかったのだろう。コレクターは、立ち上がった。
そして、こちらに気づき、首だけがぎしりと動いた。人間なら折れている角度だ。さらに見開いた目。目蓋のないそれは、外れて落ちそうだった。
「……ニク、ニクニク…………キラキラ……いたい……」
「! 話すのか!」
構えた抜き身の剣を見て、聞き取りづらいが言葉を発した。
高位の魔物は人の言葉を介すが、これはどう見てもそんな存在には見えない。
しかし、コレクターは人に近い思考力を持っているようだ。
首を狙って噛み付いて来ず、及腰で出入口の方を見て、逃げ道も確認している。つまり、こいつらは本能で噛みつく獣ではない。
討伐は依頼内容に含まれていないが、どうするべきか。危険性はかなり低いとは思うのだが。
「その首のペンダントを返してくれるか?」
首元を指差し話しかけた。
とりあえず、会話を試みてみよう。剣先を下に向けて、敵意がない事を示す。
「……?…………キラキラ?……だめ、だめ」
輝く物が好きなのか、だめらしい。
「交換はどうだ?」
亜空間に光る物はあっただろうか、と空間を裂いて中を確認する。心当たりはあるが、お眼鏡に叶うかどうか。
一枚の羽根を差し出す。以前討伐した光冠鳥の羽根だ。滑らかな表面は薄く発光し、室内だとそれはよく目立つ。
「……タカラ、タカラタカラ!」
その声は、餌にありついた野犬のそれに近い。彼らにとって“キラキラ”は食い物と同じなのか。
気に入ったのか、羽根を持つ手に向かってぴょんぴょんと跳んでいる。
「だめだ。交換」
交互に羽根とペンダントを指差す。
すると、どうやら伝わったらしい。首からペンダントを外し、こちらに差し出してくる。
「コウ、……カン?…………コウカン!」
無事にペンダントを受け取り、短剣の行き先を訊ねる。
「短い剣は持ってるか?」
「……いたい…………キラキラ……ナカマナカマナカマ……」
どうやら、他のコレクターが持っているようだ。
「案内してくれたら、もっとキラキラをあげよう。いいか?」
「…………キラキラ、タカラ……いい……」
何だか気が抜けるな。だが、穏便に事が済みそうで良かった。
こっちだ、と言いたげに案内をされた先は、放棄された野営の跡地だった。
住処、というよりは溜まり場ってところか。
そこには、三体のコレクターが居た。首の曲がり方と、身に付けている物はそれぞれ違う。
案内させたコレクターと俺を、目を見開いて見ている。
言葉にするなら、「どうして人間連れて来た?」ってところだろう。面白い連中だな、と密かに笑んだ。
「…………キラキラ……キラキラ……」
「はいはい、ありがとな」
礼を催促される。
同じ物だとつまらないな。
そうだ、虹殻虫の甲殻はどうだろうか。角度によって油膜のように変化する美しい甲殻だ。蒐集家にも人気が高い。
甲殻を渡すと、まじまじと手元を見つめている。
さあ、どうだ。
「……はいはい…………アリガトナ!」
気に入ったようだ。
さて、本題だ。
短剣を持っているのは、誰よりも戦利品を着飾ったコレクターだ。こいつが群れのリーダーのようだ。
そんなコレクターには、一際良い物と交換してもらおう。
「こいつと、あー……。いたい、きらきらを交換してくれるか?」
「?……キラ、キラ?……」
「ここが開くんだ。中にきらきらを入れておけるぞ」
「キラキラ!……タカラ、イレル……いれる!」
渡したのは使い古した、金属製の煙草ケースだ。輝きはやや弱いが、こういう物も良いだろう。
「ほら、交換だ。交換」
「コウカン!……コウカン!」
早く早くと急かされながら、交換をする。
コレクターから短剣を受け取り、これで依頼完了だ。
ついでに、この廃村の連中とは顔見知りになれた。いつか役に立つかもしれん。こいつらは、ただの“墓荒らし”じゃない。おそらく、街の誰よりも早く、外で起きたことを知る。
あのコレクターには目印もある。後は、俺の事を覚えているかだが。まあ、あの知能なら大丈夫か。
依頼品は直接、ブラギウ商会に持ち込み、確認を取るそうだ。報酬の支払いもそこで行われる。
それにしても、まさか魔物と交渉をするなんて思っても見なかった。ミレナリアでも冒険者をしていれば、こんな愉快な出会いがあったのだろうか。
感傷に浸るなんて柄ではないが、そう思わずにはいられなかった。
妖怪の餓鬼を元に作った魔物がこんな事に。
小話でランの話を書いたからでしょうか。
気に入ったので、ついついフラグを残してしまいました。




