表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煙の旅人  作者: さい
1章 忘れた世界
1/17

1.煙のように

はじめまして!

溢れそうな頭の中を文字にしてみました。


よろしくお願いします。



 魔が棲む“魔獣の森”


 

 よく晴れた、ただ青いだけの空が遠ざかっていく。

 大地の感触が消え、水に沈むように抵抗もなく落下を始める。

 周囲からの焦りと混乱が混じった声が、鼓膜を揺らした。



 不思議と死の恐怖は感じなかった。

 父に“もしもの際”は、としていた頼み事は、図らずとも正解を引き当てたようだ。

 そう場違いにも、妙に得意気な気分になったところで、完全に視界は黒く染まった。


 


 気配を感じて、意識が覚醒する。

 目を開けると、湿った空気が肌に貼りつく。風がないのに、木々は微かに軋んでいた。

 

 周囲を見渡すと、先ほどまでいた魔獣の森からは出ていないようだが、ある程度の距離を移動したのだろう。

 

 人間や、討伐中だった魔獣はいない。果てさて、一体何がどうなっているのやら。とりあえず、この気配の主から確かめるしかない。

 

 

 探知した魔力の大きさからして、大型の魔獣だ。しかし、森の縁辺には、このランクの魔獣は生息していなかったはずだが。さて、深部から出てきたのか、ここが深部なのか。

 


 ほどなくして草葉の陰から現れたのは、三匹の大猿だ。先日討伐したものよりも、かなり大型だ。たしか大猿は、群れを成さないと記憶にはあるが。だがまあ、そんな事もあるのだろう。

 

 目覚めてから考えていた、試したい事もある。

 右腰のケースから煙草を一本取り出し、火を点けて深く息を吸い込む。

 


 一息、大猿に向け紫煙を吹きかける。



「灰になりてぇ奴から来いよ。……纏めてでもいいがな」



 屑鉄にもならない安い挑発だ。だが、大猿は乗ってくれたらしい。

 歯を剥き出しにして、二匹が地を蹴り飛びかかってくる。


 魔素が煙と混ざり、煙は形を作る。



 鋭利な薄白い刃が閃き、二匹の大猿の首を撫でる。

 呆気なく身体から離れた頭は、とんと地面に滑り落ちた。

 


「さあ、子分がやられたぞ?」



 そんな問いかけに大柄な大猿は、怨嗟を込めた耳障りの悪い唸りを上げ、先の二匹と変わらず飛び出す。こいつが違うのは、豊富な魔力を身体強化に回していることだけだ。



「親分がこれならなあ」



 後は、猛進してくる大猿の進行方向に、刃を置いておけば良い。



 森には静けさが戻る。魔素を失った煙は形を解き、霧散した。

 魔力量的にもっと大物が出るかと期待していたのに、肩透かしを食ったようだ。

 さて、と周囲に他の敵対生物がいないことを確認し、現状を把握する。




「随分とここは魔素が濃いな」



 あまりの濃さに、息苦しささえ覚える。



 魔素は、魔力の素となるものだ。魔法を使用するには、体内の魔力を使う以外に、幾つか方法がある。その一つが魔素を燃焼し、魔力へと変換する方法だ。

 


 大猿に使用した魔法は、初めて実現したものだ。


 この周囲に満ちる魔素を、呼吸と共に肺へと送り、燃焼させ煙と混成する。すると煙は指向性を持ち、忽ち(たちまち)凶器の完成だ。

 

 火の傍で火属性魔法が扱いやすいようなものだ。

 煙がようやく俺に応えてくれた。そう思えた瞬間だった。


 実は、以前から煙を魔法に使用できないかと、幾つか理説は立てていた。それがまさかこんな所で最後のピースが見つかるとは。


 これでもう戦闘中に、吹かしても小言は言われないだろう。煙草は新しい俺の魔導装置(システム)だ。

 


 さて、周囲の魔素を使えば当然その分減る。魔素は、人口が多い都市部は特に薄く、森の深部に近づくにつれ、濃くなる傾向にある。


 市内では変換魔法など使えたものではなかった。

 となると、ここは森の深部か。

 

 そして、疑問がもう一つ。


 瘴気も魔素同様にかなり濃い。

 この身体に纏わりつく瘴気は、陰鬱とした森の不快感に拍車をかけていた。

 


 先ほどの大猿が通常と違う特性を持っていたのも、この瘴気の量が原因だろう。


「息をするだけで胸が重くなるな」



 独り言が空気に溶ける。


 

 瘴気により生まれる“意志を持つ生態反応”を「魔物」と呼ぶ。中でも獣の形を取るものは「魔獣」と呼ぶ。

 

 魔物は、生まれてからも吸収を続ける。瘴気量が飽和した魔物は狂化し、溜め込んだ瘴気を撒き散らす厄災となる。

 

 人間もまた、瘴気を吸収すると段階的に狂化していくため、定期的に神殿で浄化を行う。


 瘴気に触れない者は、数年に一度神殿で浄化をすればそれで済む。定められた浄化の最低頻度は、国や職種により異なる。

 

 まあ、色々問題がある瘴気だが、何も悪い事だけではない。

 魔物を殺すと瘴気は消失する。

 その魔物から獲れる魔石や毛皮、肉、物によっては血液までもが資源となるのだ。



 森を再度見渡す。


 魔獣の森の瘴気量は、積極的な討伐により減少傾向にある。何か森に異常が生じたなら、斥候隊が報告をあげるはずだ。

 


 魔法陣があったであろう場所を検分するが、痕跡は何もない。

 誰の仕業かなど関係なく、命を狙うのなら、より確実性を持たせるべきだろうに。


 では悪戯か。


 あの森にいた人間の中、かつ討伐中にこんな悪ふざけをするような奴がいたら、たまったものではない。

 

 いずれにせよ、合流せずにわかる事はこの程度だ。奴らも討伐が終わったら、捜索組と待機組に分かれているはずだ。


 森の深部からなら、出るまでには中々時間がかかるぞ、と気が滅入る。捜索組と運よく合流できれば、と考えながらケースから、また一本取り出す。

 


「お前がいてくれてよかったよ」


 最近愛煙している自領地産の紙巻き煙草は、葉巻きと違い大変手軽に嗜める逸品だ。

 

 火の不始末にさえ気をつければ、森の中でも楽しめるだなんて。開発者には毎年金一封を贈っても足りないな。


 

「……今のところ煙草の火種だけが、頼れる仲間って訳か」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ