【山月転生】転生虎詩人は、スローライフ×ハーレムで天下文壇再興したい!~文才と恋の伝説~
霞ヶ関オフィス。
登戸からの資料を読まされた山岸は、ついに抑えていた貧乏ゆすりを隠す気もなくはじめた。
「これは……?」
山岸からの質問に、登戸は右手でメガネのフレームの位置を調節して答えた。
「【山月転生】転生虎詩人は、スローライフ×ハーレムで天下文壇再興したい!~文才と恋の伝説~
です」
「『山月記』のリメイクか……?」
「ええ」
『ええ』と言われた瞬間、山岸は机に突っ伏して頭をぶつけた。
李徴はスローライフをするために虎になったわけがない! 第一、畑を耕したいんだったら、虎になっちゃあダメだろう!!
しかもなんで卑弥呼が恋人になってるんだ!? え……獣姦ってこと!?
いーやそんなことよりも、はっきり聞いておかねばならないことがある!!
「……この、ちょくちょく出てくるベルバザール88世というのは何者なんだ?」
「もちろんラスボスです。 87世がかつて大陸を統一した英雄で、彼からは愛を受けられなかったことから闇堕ち展開し、
悪政を働く悪の王となりました。彼には、暗黒の力、『ソウル・オブ・マリオネット』という能力が備わっており、
国民を意のままに操る能力が……」
「もういい!! ……なんで君の作品全てに出てくるんだ!? 其奴は」
「『なろう系』は世界観が大事です。『あ、そこで繋がるんだ』というフラグを用意しておかねばならないのです」
「違う作品をつなげたら、個々の作品の主題がぶれるじゃないか!」
「個々の作品の主題『なんか』より! 大きな世界観を優先させる必要があるのです!!
ご心配なく。バルバザール88世は、『韋駄天転生メロス』によって討伐されます」
「お前が討伐されろ!!」
思わず飛び出た山岸のこの一言をきっかけに、登戸は冷静にスーツの内側に隠していたスマホの録音機能を切った。
「……今のは恫喝ですね。音紋取らせていただきました」
一瞬怯んだ山岸だったが、なんだかもう……新時代の感覚についていけない自分に自覚を持っていた。
これでクビになるんだったら、もうそれは、引退と捉えてもいいだろう……。
何にせよ文学は変わったのだ。
演劇イコール2・5次元ミュージカルになったように、文学イコール『なろう系』に、パラダイムシフトしたのだ……。
そして、その文学の世界において、自分の椅子は、ない。
山岸は項垂れてはいたが、清々しい気分でもあった。
そこに、さらにもう一枚、資料が渡される。
「仕事は最後までやっていただきます。これが今回私がリメイクした最後の作品となります」
そう言われて、山岸はすでに焦点の合わない目をなんとか擦り、
文章を読んでみた。
……そこには、こう書かれてあった……
……
……
……
……
【異世界回顧】おっさんは少年時代に戻り、イケメン貴族に溺愛される~復讐と禁断の恋のはざまで~
1章:少年時代への逆行
俺の名はヘルマン・H。42歳、ブラック企業の社畜。青春もなく、恋愛もなく、ただ会社と家を往復するだけの人生を歩んできた。
……いや、歩んできた、と思っていた。
目を覚ますと、俺は――
10歳の少年の姿になっていた。
しかも、見知らぬ豪奢な屋敷のベッドの上。窓の外に広がるのは、石畳の街並みと、上品な貴族たちの優雅な生活。
「……異世界転生か?」
違う。俺は転生したんじゃない。これは、俺の 「少年時代」 だ。
俺は 再び10歳の頃に戻った のだった。
2章:おっさんの知恵でざまあ展開
だが、ただの少年ではない。42年間の社会経験を持った、おっさんの知恵 を宿した少年なのだ。
この世界は、身分制度が厳しく、貴族と平民の間には絶対的な壁がある。だが、俺は知っている。この国は、あと10年で滅ぶ。
「……なら、俺が生き残るために動くしかないな」
そう思った矢先、かつて蛾の件で俺をいじめ抜いた 貴族の息子・エーミール が、俺を見下して言った。
「そうか、そうか、つまり君はそういうヤツなんだな」
……ああ、覚えてる。コイツだ。俺の少年時代を地獄に変えたクソガキ。
だが今の俺は違う。10年後、この国が滅ぶ未来を知っている俺にとって、エーミールなど、ただの“詰んでるヤツ” でしかない。
俺は優雅に微笑み、こう言った。
「……君の家、10年後には没落するんだけどね?」
エーミール「……は?」
俺「楽しみにしててよ。君の収集していた蛾の鱗粉で君の国は崩壊して、君は奴隷階級に落ちるからさ」
エーミール「な、何を……っ!?」
俺「おっと、先に謝っとくね? いやー、ごめんね~!10年後、俺が君を買い取ってあげるよ。安心して?」
エーミール「ふざけるな!!!」
――ざまあみろ。日がな蛾の標本眺めてる非モテのキショいクソガキ(ナード・ボーイ)がよぉ。
3章:俺を溺愛する最強貴族様
そんな俺の前に、“彼” は現れた。
アルヴィン・フォン・バルバザール88世。この国を牛耳る名門貴族の一人であり、端整な顔立ちをした氷の貴公子。
彼は冷ややかに俺を見下ろし、こう言った。
「お前……面白いな」
俺「……え?」
バルバザール「私に仕えろ。お前の知識、私のために使え」
なぜか俺は、最強貴族に気に入られてしまった。
そして始まる、貴族の美青年×転生おっさんの異世界BL生活――!
朝食は優雅に紅茶を飲みながら、バルバザールが俺の首元に指を這わせる。
バルバザール「お前の声は、まるで甘い葡萄酒のようだな……」
俺「(おいおい、これ男同士でやるスキンシップじゃねぇだろ……)」
だが、彼は俺の胸ぐらを掴み、低く囁いた。
バルバザール「俺のことは『バルちゃん』とよべ」
俺「えっ」
バルバザール「もう逃がさない」
俺「えっえっ」
こうして俺は――
42歳の社畜おっさんから、異世界貴族の寵愛を受ける美少年 になってしまったのだった……!
「ざまあ展開 × おっさんの知恵 × BL転生」――ここに開幕!