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狂禍四魂  作者: 発戸あいす
第3章
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77.囚人

 一方、杜樹ときからす本街ほんまちを先頭に、監獄北棟から東棟に繋がる渡り廊下を歩いていた。ちなみに、北棟では監獄内に配置されたカメラの映像を確認できる監視室や、電気柵などのシステムを管理する制御室の案内を受けた。どうやら、看守が監獄を運営するための設備が北棟に集中しているようだ。そして、東棟からは、実際に囚人が生活する区画に進入することになる。


「そういえば、本街さんは軽装備ですよね。何となく、監獄の看守は重武装しているイメージでした」


 道中、杜樹が口を開いた。


「確かに、海外と比較すると、そう感じますよね!」


 警備が厳重な監獄と聞くと、監視塔から狙撃手が構えるような世界を想像してしまうこともあるだろう。しかし、日本が銃社会ではないせいか、かす監獄の看守は拳銃すら携帯していない。


「しかし、ご安心ください。自分たちには、これがありますから!」


 直後、本街は腰に装備された警棒のような武器を手に持つと、天に掲げるように見せた。


「そちらは?」

「スタンバトンと言います。一言で説明するならば、電気ショックを与えることができる警棒ですね!」


 一般的なスタンガンよりもリーチに優れているのが、棒型の特長であるだろう。


「しかも、看守の指紋認証で、電気が流れるシステムになっています。万が一、囚人に奪われたとしても、ただの警棒に成り下がるので、そこまで脅威ではないということですね!」

「流石、幽谷監獄は看守の武器も一味違いますか」


 強力な武器が、逆に自分の首を絞める危険性を孕むことは言うまでもない。なおでも、はいが開発した武器には、指紋認証のシステムが組み込まれている。紅鏡の加熱装置や鵬程の伸縮機能を起動できるのは、所持者本人に限られているということである。


「もちろん、有事に備えて、拳銃なども武器庫に一応保管されています。まあ、その扉が開いたことは一度もありませんけど!」


 いざというときにしか、銃器は使用しないのだろう。


「ところで、麟角りんかくさんも独特な武器をお持ちですよね!」

「この木槌のことですか?」

「はい!」


 杜樹が背中に持つ木槌に、本街は疑問を抱いていたようだ。確かに、木製の武器など、火力不足に感じられるだろう。灰音が開発した武器のように、何か特別な機構があるわけでもない。


「私の場合は、自分に合っている武器が偶々、木槌だったというだけの話ですよ」

「相手を過度に痛めつけたくないということですか?」

「それもありますね」


 別に、敵を舐めているわけでも、自身の力を過信しているわけでもない。ただ、最適解を選択しただけだ。


 その後、三人は東棟の内部に足を踏み入れる。まず目に映るのは、頑丈な鉄格子で閉鎖された独房の数々。それらは、中央の吹き抜け部分を環状に囲うように、何層も配置されている。見渡せる構造であるのは、看守による監視が容易になるからだろう。しかし、誰かが檻の中にいるような気配はない。


「現在は運動時間なので、囚人はいません。今のうちに、一般房を見学しましょう!」

「なるほど。ちなみに、どこで運動をしているのですか?」

「監獄の中央にある運動場です!」


 東棟に囚人が見当たらないことを考えると、相当な面積を持つ運動場なのだろう。


「運動時間の後に、そちらもご案内しましょうか?」

「ぜひ見学させていただきたいですが、また別の機会にしようと思います」

「了解です!」


 東棟の案内を受けながら、南棟へと向かうのが時間的にも丁度良い。杜樹はそのように考えていた。


 そして、独房の中を案内するために、本街が入口を解錠しているとき、誰かの話し声が聞こえた。場所は下の階だろうか。声に反応するように、杜樹と烏は柵を掴みながら、吹き抜けの下層を覗き込む。そこには、一人の男性看守と二人の男性囚人の姿があった。


 直後、片方の囚人が視線を感じたのか、杜樹と烏の方を見上げる。完全に目が合った。その囚人は本街にも劣らない雄偉な体格で、威嚇するような鋭い眼差しだ。


「おいおい、ここは子供ガキが来る場所じゃねえぜ!!!」


 獣の咆哮のような声が無機質な東棟内に反響した。本街も驚くように、叫声の主を確認する。その姿を見た瞬間、本街は自身の失敗を嘆くような表情に変化した。


 一方、下層にいた看守は慌てながら、囚人を強引に連れ出すように歩き始める。その去り際、看守は謝罪の意味なのか、杜樹と烏がいる方向へ一礼した。


 不意な囚人との接触は一瞬で幕を閉じた。東棟は再び、三人だけの閑散とした雰囲気に包まれる。


「すみません、まだ囚人の移動が完了していなかったようです。自分の確認不足でした……」


 囚人が客人に罵声を浴びせてしまったことを詫びるために、本街は帽子を取り、深く頭を下げる。


「いえ、大丈夫ですよ」


 一見、杜樹は穏やかな表情をしているように見えた。しかし、隣にいる烏には察知できた。これは、怒っているときの顔だ。


 その原因は言うまでもなく、子供ガキ呼ばわりされたからだと考えられる。大柄な男性から見れば、子供と大差ない体格であるのは事実なのかもしれないが、単純に舐められているようで不愉快だったのだろう。


 別に囚人の発言など真に受ける必要はないのだが、杜樹の真面目な性格が悪い方向に働いているようだ。あの囚人は鬱憤を周囲に撒き散らしているだけで、杜樹や烏に対する個人的な敵対心があるわけではないことは、杜樹自身も当然わかっているだろう。それでも無視できないというのが、烏には理解できない部分ではある。


「よりにもよって、残っているのがあの男とは……」

「有名な囚人なのですか?」

「そうですね。高岸たかぎしごう、強盗殺人で終身刑の囚人です。気性が荒く、看守内でも要警戒人物として知られています」


 その片鱗は、一瞬の接触でも感じることができた。確かに、あの体格で暴れられた場合には、取り押さえるのも一苦労であるだろう。


「ちなみに、もう一人の囚人の方は対照的に落ち着きがあるように見えましたが、どのような人物なのでしょう?」


 杜樹の興味の矛先は、高岸の隣にいた囚人に向いていた。その理由は高岸とは違い、悪人のように感じなかったからである。第一印象としては、一般的な好青年だった。


服部はっとりけいしょう、確か殺人で終身刑だったと思います。自分はあまり関わったことがないので、それ以上の情報は知りません。申し訳ないです」

「そうですか……」


 杜樹は少し残念そうに言った。しかし、名前がわかれば、事件の概要などは調べることができる。今は一旦、後回しで良いだろう。幽谷監獄を訪れた用件もまだ終わっていない。


 その後、独房の中などの案内も終了し、こまとの約束の時間が迫ってきた。


「本街さん。丁寧な案内、本当にありがとうございました」

「こちらこそ、熱心に説明を聞いていただき、ありがとうございました!」

「また、お会いできるのを楽しみにしています。それでは、失礼します」


 南棟入口で、本街に別れを告げる。ここからは、術者しか足の踏み入れることのできない場所。いや、普通の人間であれば、進入を躊躇う世界と言うべきだろうか。

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