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狂禍四魂  作者: 発戸あいす
第3章
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67.協力

 その後、看守室には携帯で誰かと通話をするこまの姿があった。


「……なるほど。それで、私に協力してほしいということですね?」


 電話越しの相手は、はいであるようだ。


「うん。なおにとっても、メリットがある話だと思わない?」

「確かにそうですね」

「……灰音。私の依頼、請け負ってくれる?」


 狛が不安気に尋ねた。灰音に電話をかけたのは、協力してくれる可能性が最も高い人物だと思ったからだ。もしも、灰音が断るならば、現在の直霊に一切の余裕がないと考えるべきで、他に対する望みも薄い。


「良いですよ」

「本当?」


 狛の願望を叶えたいという個人的な心情を除いても、協力する価値はある。そのように、灰音は考えていた。


「はい。ただ、普通にやるなら、厳しい戦いですね」

「そうだよね……」


 灰音が協力するとなっても、一筋縄ではいかないだろう。


「ひとまず、専門家の意見を聞いてみるのが良いかと」

「灰音は知り合いの弁護士とかいるの?」

「……ん?」


 狛の質問に、灰音は一瞬戸惑う。だが、即座に納得がいった。


「……そっか。狛さんは知らないですよね。今の直霊には、法律に詳しい子がいまして」

「え、そうなの?」

「今回の件に関しても、非常に頼りになると思いますよ」


 灰音が言うのであれば、余程の人物なのだろう。狛は期待を抱きながらも、その人物が果たして協力してくれるのか、不安に思っていた。







 翌日の昼、狛は看守室で少し緊張しながら待機していた。そして、時計の針が十二時を指した瞬間、携帯の着信音が鳴る。約束の時間と数秒の差異もない。その時点で、何となく性格を察することもできる。


「……もしもし?」

「お疲れ様です。麟角りんかく杜樹ときです」

「あ、から獅子じし狛です。忙しいところ、連絡ありがとう」


 杜樹と狛の関係について、本部で集合した際に、軽く挨拶を交わした程度である。このように一対一で話すのも、初めてだ。杜樹が法律に精通していることも、狛は当然知らなかった。


「大丈夫です。警備の仕事も何もないときは、暇なので」

「えっと、普段は国会の警備をしているのだっけ?」

「そうですね。後は、裁判所を警備することもあります」


 七瀬や狛と同じく、杜樹も特殊な位置にいる人物であるようだ。直霊の人員をわざわざ国会や裁判所に派遣しているのは、立法機関や司法機関に良い顔をしたいという天老の思惑なのだろうか。


「念のために確認させていただきたいのですが、狛さんはかす監獄の特別房看守で合っていますか?」

「うん」

「要望は、特別房の囚人一人の解放ということで大丈夫ですか?」


 話の概要は、杜樹も灰音から聞いているようだ。


「確かに、看守が囚人の解放を望むというのも、傍から見れば変な話だよね」

「いえ、更生の余地がある囚人について、刑務所側が囚人の願いを受け入れ、更生保護組織に仮釈放を申請するのは、普通にある話です。ただ、今回は仮釈放を望むわけではないということですよね?」


 仮釈放とは、刑期を終える前に囚人を解放し、刑務所外つまり社会での更生を目指す制度を表している。


「そうだね」

「一応、理由を聞いても良いですか?」

「前提として、幽谷監獄は囚人をただ閉じ込めるだけの施設でね。要するに、模範囚のような概念がないから、仮釈放の条件を基本的には満たせない」


 一般的に、更生の余地があると判断されるには、刑務作業で勤勉な態度を示すことなどが必要である。他にも、看守の指示を遵守する姿勢などは好印象だろう。しかし、幽谷監獄の場合はどうだろうか。囚人はただ檻の中に収監されるだけ。つまり、更生の余地を行動で示す手段がほとんどない。幽谷監獄自体が、更生の余地はないと判断された者が収監されるという性質を持つ以上、これは仕方のないことではある。


 もちろん、その性質は術者ではない一般囚人に関するものだ。ただ、強力な霊魂術を持つ人物を比較的自由な環境に置くわけにはいかないのだろう。手錠などをされても、霊魂術が使用できないことはない。その結果として、犯罪の種類に関わらず、術者というだけで幽谷監獄に閉じ込められてしまう。


「というか、条件を満たしたとしても、最終的に仮釈放の判断は天老に委ねられる。でも、天老が仮釈放を認めることはない。これは断言できる」


 幽谷監獄において、特別房だけは天老の管理下にある。故に、看守として直霊の人員を配置できるのに加えて、費用変更なども実行できるというわけだ。


「なるほど。再審によって、裁判官が無罪もしくは減刑の判決を下せば、天老も従うしかない。そういうことですね?」

「流石、物分かりが良いね」


 天老でも、司法機関の決定に口を出すことはできない。だからこそ、閉じ込める理由さえ消してしまえば、天老は解放するしかない。


「ただ、再審もそう簡単に実現できるものではありません」

「……そうらしいね」

「基本的には、証拠の捏造が発覚した場合など、明らかに以前の判決が妥当ではない状況下に限られます。要するに、確定判決が崩れるほどの新証拠を提出する必要があると考えてください」


 前回と同じ状態で裁判をしても意味がないので、当然である。


「ひとまず、前回の裁判に関する資料を確認したいと思います。確か、狛さんの方で纏めていただいているということでしたか?」

「うん、本部の方に書類送るね」

「ありがとうございます。助かります」


 狛も準備には抜かりがないようだ。


「礼を言うのはこっちだよ。本当にありがとう」

「いえいえ」

「後、言い忘れていたけど──」


 狛は大事なことを伝えていなかったのを思い出した。


「──これから送る資料は一応機密情報だから、取り扱いには注意してね」

「え?」


 杜樹は一瞬動揺した。だが、直霊に協力者を探している時点で、何か他に頼めない理由があると考えるべきだったのかもしれない。


「なぜ機密情報なのですか?」

「神器が関わる事件だからね。公にはできないみたい」

「……神器が関わる?」


 機密である理由はわかったが、杜樹の頭には思い当たる事件がなかった。しずめの事件について、何となく概要を知っているが、逮捕者が出たような話でもなかった気がする。


 宿やどりきざみの事件は最近にも程がある。そうなると、むかえに関する事件だろうか。確か、迎に閉じ込められた人を救うため、一人の警察官が怨念の餌食になってしまった事件だったはずである。逆に、それ以外は知らない。いや、それだけ情報が少ないことに違和感を持つべきだったのだろうか。

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