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狂禍四魂  作者: 発戸あいす
第3章
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58.抹消

 椿つばきよみと共に東京に帰還して一週間後、なお本部では神器を強奪した集団についての会議が開かれていた。


 皆が最も気になっているのは、十月とおつき神社で捕縛した人物に対する尋問の結果であるだろう。しかし、会議が始まるや否や、はいがとある違和感に気づいた。


「あれ? 配布資料はないのですか?」


 いつもなら、尋問結果を詳細に纏めた資料を皆に配布し、それを元に話を進めるはずである。そして、狗骨ひいらぎの表情を見るに、単なる配布忘れというわけでもないようだ。


「今回、資料はない……」

「狗骨、どういうことだ?」


 ななが不思議そうに尋ねた。資料がない理由として一番に思い浮かぶのは、特に情報を聞き出せなかったからであるだろう。しかし、七瀬たちは理解していた。尋問して何も聞き出せなかったというのが、通常ではありえないということを。


ゆい、後は説明よろしく……」

「わかりました」


 狗骨の隣に座るまゆずみが返事をした。直霊における黛の役割は主に二種。一つは、狗骨が担当する事務的な作業の手伝い。そして、もう一つの役割こそ、尋問である。ちなみに、ここでの尋問とは、生者を対象とするものを指す。


「結論から申し上げますと、捕縛した女性には、十月神社での出来事を含め、記憶が一切ありませんでした」

「……!?」


 つまり、記憶が全くなかったので、尋問できなかったのだ。そうなると、次に生じる疑問点は、なぜ記憶を失っているのかであるだろう。


「もしかして、余のせい……」


 せんが少し震えながら、口を開いた。首を狙った打撃が結果的に脳への損傷を与えてしまったのかもしれないと考えたわけだ。


「いえ、外傷性ではないと思います。記憶の断片すら、存在しませんでしたから」

「……なるほど。だが、断片すらないというのは、どういうことなのじゃ?」

「明らかな異常であることは間違いないと思います。目を覚ました後も、言語を失っているせいで、対話ができません。私も見たことない症状です」


 つまり、自分の名前が言えない程度の記憶喪失ではなく、赤子まで逆行したような状態であるということだ。


「そして、あまりにも特異的だからこそ、そこに超常的な力が働いているのではないかと推測できます」

「……記憶消去の霊魂術か」

「はい」


 七瀬の言葉に、黛が確かな返事をした。


「結局、あの女性からは情報を抜き出せないってことですか?」

「現時点では」

「永久に不可能というわけではない?」


 灰音の質問に、黛は何とも言えない表情を浮かべる。


「記憶自体を根から抹消されていれば、元に戻ることはありません。しかし、術による封印状態なのであれば、いずれ元に戻る可能性の方が高いと思います。時間が経てば、封印が弱まりますので」

「要するに、一旦は経過観察するしかないというのが結論……」


 希望がないわけではないが、頼みの綱が断たれたように、皆が黙り込む。


「ちなみに、女性の身元も現在調査中。でも、あまり期待しない方が良いと思う……」


 霊魂術者は身寄りがないことが多々ある。というより、孤独という環境が霊魂術の発現を加速させるという表現が適しているだろう。実際、木霊こだまじまきざみの被害となった女性も未だに何者であるかはわかっていない。


「……とにかく、今は敵に関する情報共有と対策を進めよう」


 七瀬の一言が沈むような空気を払った。結局、現状できることをやるしかない。敵が宿やどりを利用した何かを企んでいるとしたら、直霊は迎え撃つ準備を整わせるのみである。







 会議が終わった後、こまは左耳に装着していた無線イヤホンを取り外し、パソコンの電源を落とす。普段は議事録に軽く目を通す程度なので、実際に参加すると現在の直霊の雰囲気を感じることができた。大半を傍聴していただけではあるが。


 その後、狛は看守室を出て、独房の方へ歩き出した。再び檻の前で足を止めると、独房の奥から何か小さいものが投げられる。それを狛は手で軽く受け止めた後、無線イヤホンの片割れであることを確認し、自身のポケットにしまう。


「……流石にまずいんじゃねえか?」

「看守が落としたイヤホンを、たまたま囚人が拾った。違う?」

「まあ、俺は何でも良いが……」


 正直、看守と囚人が当然のように雑談しているだけでも、傍から見れば違和感しかないだろう。


「それで、何か気になったことあった?」

「……記憶消去の術だとして、いつ使用されたのかという点だな」

「千里が気絶させてから、目を覚ますまでのどこかであることは間違いない。ただ、敵が物理的に介入することはできなかっただろうね」


 十月神社からかす監獄までは灰音が連行している。何かあれば、灰音が気づかないはずがない。また、幽谷監獄の中で拘束されている間にも、物理的に何かできるわけがない。


「つまり、術を使用したとしたら、遠隔ということになる。そして、遠隔で記憶消去が可能となると、術の仕組みが何となく想像できる」

「うーん?」

「前提として、霊魂術だろうが、遠隔で記憶消去は難しい。単純な感覚や認知の改変とは違って、記憶領域という深層まで踏み込む必要があるからだ」


 記憶を把握するような術でさえ、遠隔が可能なものなど聞いたことがない。記憶を抹消する術など、尚更である。


「だからこそ、事前に対象へ直接色々施した上で、術の発動だけ遠隔で可能だと推測できる」

「なるほど。私みたいに、後は起動スイッチ押すだけの状態まで、予め進めているってことか」

「そうだ」


 おそらく、敵は捕縛されることを想定し、事前に対象指定していたのだろう。千里のれい禁門きんもんで例えるならば、相手の姿を一分間捕捉した上で、壁の出現自体は保留するようなイメージである。


「ありがとう、参考になったよ」

「それと、最後にもう一つだけ。捕まえた奴の記憶が戻るような兆候が現れたら、警戒した方が良いぜ」

「ん、何を?」


 檻の中にいる人物の言葉に、狛は首を傾げる。しかし、檻の中にいる人物は不敵に笑うだけだった。後は自分で考えろ、そう言わんばかりに。

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